Yondaful Days!

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CO2を減らさなくても済む温暖化対策のプランBとは?

地球温暖化対策の本筋は「CO2排出量の削減」で、それ以外は邪道でしょう、と思っていたが、最近では、そんな「正論」は現実味がないとしてあきらめられているらしい。
そんな温暖化対策の「プランB」について気になる記事が2つあったので、備忘録替わりにメモ。

その1:CO2そのままでも、大気中に出さなければいいじゃん

これはCCSと呼ばれる海底下深くにCO2を閉じ込める手法で、日経新聞の記事で取り上げられているのは苫小牧沖で2016年から始まる実証実験のための工事。

北海道・苫小牧の太平洋に面した出光興産北海道製油所の一角で7月初め、大規模な工事が始まった。敷地内の施設から排出された温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)を回収、地下深くに閉じ込める本格的な実証実験システムを建設する。2016〜18年度に年間10万トン以上のCO2を入れ、商業利用に適した同100万トン級以上の施設を実現するためのデータを集める。
苫小牧沖、CO2封印作戦 実用化にらみデータ収集:日本経済新聞(8/3)

記事でも取り上げられているように、通常は出にくくなった石油を効率よく取り出すEOR(石油増進回収法)として行われることが多いが、苫小牧の場合はEORではない。EORの方は色んな場所で行われているようだ。


いずれにしても地下にCO2を閉じ込めるという方法は、自分は好きになれない。
ひとつは、今現在、福島第一原発で行なっている「凍土壁」の実験が上手くいっていないのからも分かる通り、長期に渡って地下に「閉じ込める」ということ自体が不可能ではないにしろ非常に困難という感じがするからだ。
もうひとつは、地下に圧力をかけるという方法はシェールガスの採掘と似ているが、シェールガスに絡んで最近話題になったこのニュースが気になるから。


日経新聞の記事では、新潟県長岡市で実施したCO2圧入実証試験の話が出ており、「04年に中越地震、07年には中越沖地震も起きたが」、CO2の漏出が無かったことが取り上げられているが、興味があるのは、CO2の圧入による地震の誘発。地震に関する陰謀論としては毎回「人造地震」の話があるので、当然、これについてもあるだろうと検索したら、島村英紀さんのHPにこんな記事が。

この実験期日からいえば、実験開始から1年後に新潟中越地震が発生したことになる。この圧入井戸は震源(壊れはじめの地点)から20kmしか離れておらず、地震学的には、ほとんど震源の拡がりの中にある。
(略)
そして2007年に起きて、柏崎刈羽原発に甚大な被害を引きおこした中越沖地震も、この井戸から、(中越地震とは反対向きに)やはり20kmしか離れていないところに震源があった。
(略)
日本の学会では不思議なことがある。世界的にはこういった「人造地震」の研究が重要とされていて、国際的な地震学会が開かれるときには、この人造地震(英語では誘発地震 induced seismicity という)が特別なセッションになっていることが多いが、日本では研究者がほとんどいないのである。
科学技術庁の研究所に属するある地震学者がこのテーマで学会発表しようとしたら、事前に内容を役所に見せるように言われたうえ、役人が学会まで発表を見に来たことがある。政府や電力会社のような大企業の意に添わない研究はしにくいのである。
人間が起こした地震

これまで地震関係での著作を何冊かタイトルだけは目にしていたことが多かった島村英紀さんという方が、陰謀論風の文章を書くとは知らなかったが、実際、ここまで近いと誘発地震の可能性を疑ってしまうのも当然だ。そもそも世界最大の地震国である日本では、大なり小なり実験期間中に付近で地震が起きるのは確実であり、李下に冠を正さず、じゃないけど、たとえ地震を誘発しないと仮定しても、無理して実験して突っ込まれるのもなあと思ってしまう。


なお、日経新聞の記事に戻ると、地震によるCO2漏出と処理コストが高いことから「政府は本格的な推進策の実施には慎重」とのこと。

その2:温暖化したら冷やせばいいじゃん。

地球温暖化対策プランBのもう一つは、冗談の領域だと思っていたこちら。

温暖化しないよう、手を加えればいいではないか。技術の力を使って。「気候工学」と呼ばれる。
提案される方法は多彩だ。人工衛星のように鏡をたくさん打ち上げて太陽光をさえぎろう、海に鉄をまいて植物プランクトンを増やし、CO2を吸収してもらおう。
なかでも有望株が、成層圏に硫酸の粒子状物質を注入するというものだ。地球をおおう日傘をつくるのだ。火山の噴火で粒子が吹き上げられ、気温を下げることにヒントを得たという。
(ザ・コラム)温暖化対策 「気候を改造」という発想 有田哲文:朝日新聞デジタル(8/2)


記事によれば、にわかに注目されつつある方法で、3月の国連機関の報告書で本格的な分析がなされ、8月(今月)にはベルリンで大規模な国際会議もあるという。6年前には気候工学の方法を完全に否定していたアメリカのアラン・ロボック教授も、今年に入って、一考の余地ありという方向に傾いているようだ。


別の環境破壊をもたらす可能性がある、ということ以前に、気候の改造なんて、人間が手を下していいことではない!…と終わるかと思ったコラムの結論は、明らかに無理のあるこんな方法を真面目に考えなければならないほど温暖化はまずい、と皆に思ってもらうために、「もしかしたら、気候工学を応援した方がいいのか?」というひねったもの。そんな考え方もあるのかもしれない。


2年前の以下の記事では、気候工学による方法を二つに整理して分かりやすく説明している。

気候工学は主に2つのアプローチを持つ。入るエネルギーを減らすか、出ていくエネルギーを増やすかである。
前者が、太陽光を反射させて入射するエネルギーを減少させ、地球の温度を低下させる「太陽放射管理」(Solar Radiation Management:SRM)。後者が、二酸化炭素を吸収して大気中の二酸化炭素濃度を下げ、放射エネルギーを増やす「二酸化炭素除去」(Carbon. Dioxide Removal:CDR)である。
SFじゃない!温暖化対策で地球を冷やす「気候工学」|【Tech総研】


まじめか!


と突っ込んでしまいたくなる状況だが、この記事のラストで電力中央研究所の杉山昌広さんが言っている通り、欧米に好き勝手をさせないためにも、研究自体は本気で取り組んでいかなければならないのだろう。

「気候工学は地球温暖化に対する外科手術のようなもの。内服薬で治癒できるなら必要ないですし、手術をするのでも切開する部分は小さいほうがいい。ただ、欧米が研究を進めており、いざ『そのとき』が来るとすれば、日本が国際的な場で発言・議論できる知識は必要です。好むと好まざるとに関わらず、気候工学を追い続けなければならないのです」


さて、はじめに戻るが、「CO2排出量の削減」という正攻法は、途上国が勢いを増し、先進国が力を失いつつあるこの時代、もはや夢のまた夢。
ただ、今回取り上げたプランBのどちらも、SF的な終末が訪れる未来をイメージさせるので、何とかして回避したい。
回避するには、硫酸塩をまかずに地球を日傘で覆う「富士山噴火」かな…orz