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上橋菜穂子さんの解説が良かった〜田中芳樹『王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉』

王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)

王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)

20年以上ぶりのアルスラーン戦記
最近、漫画が出ているので、いずれそちらを読むことになりそうなので、その前に、というのが目論見。
2012年に出た文庫版のカバーは天野喜孝ではなく、山田章博十二国記のときとは異なるタッチだが、天野喜孝で固定化されたイメージも崩さない巧さで、これは大満足。(CLAMPの絵がダメなわけではないが、天野喜孝とのギャップが大き過ぎて、CLAMP創竜伝は読む気が起きない。)

「こざかしい!」
怒号とともに、第二撃がおそいかかった。
第一撃を受けたのが奇蹟に近いとすれば、第二撃を回避したのは奇蹟そのものだった。だが天なり運命なりのえこひいきもそこまでだった。第三撃は微弱な抵抗をはねとばしてアルスラーンの身体の中心をつらぬきとおすはずだった。それを永久に停止させたのはダリューンの声である。
(p194)


田中芳樹の本自体が20年以上ぶりだが、このような勿体ぶった言い回しを読むと、戻ってきたなという感じがする。一日にして崩壊したパルス王国で生き残った王太子アルスラーンが、仲間を集めながら故国奪還を目指す1巻は、少しずつ仲間が増えていく巻で、巻末あとがきでいうところの「4.5人」が王子のもとに集まることになる。(ダリューンナルサスギーヴファランギース+エラム
これらの仲間のうち、グイン・サーガや、デルフィニア戦記と比較した場合に特異なのは、絶世の美女でありながら剣の腕も立つ女騎士ファランギースギーヴとの関係は、ワンピースでいうところのナミとサンジの関係に似ているかもしれない。
敵方の魅力的なキャラクターは何と言っても銀仮面の男。第2巻のタイトルから展開が予想できるのが問題だが、彼こそが先王の長男で正当性のある後継者・ヒルメス
例によって内容をほとんど覚えていないので、近年出た新刊も含めて展開が楽しみ。


…というのが本を読み終えての感想で、20年前と全く変わらない気がする。
それではいけないと気を改めたのが巻末の上橋菜穂子さんによる解説。
ここでは「異世界ファンタジーを描く人」について、夢見がちに思われることの多いが、むしろ「現実世界が気になって仕方がない、考えずにはいられない人」としている。
それもあってか、現実世界と結びつけた感想の述べ方には、自分との圧倒的な差を感じてしまい、ちょっとショックだった。

本書、『アルスラーン戦記』が開幕したとき、なにより嬉しかったのは、物語世界に、アジアの匂いが感じられたことでした。
それも、ペルシアを中心として、さらにチュルクの匂いなども感じられることが、とても嬉しかったのです。そんな異世界は、欧米風のファンタジーが多かった当時の日本では、まず、お目にかかれませんでしたから。
ペルシア(現在のイラン)は、その魅力的な文化から見ても、また、ヨーロッパ世界とインド、中華世界と関わりながら展開してきた歴史から見ても、なるほど、舞台にして、これほど面白い場所はそうは無いだろうと思えるほど、魅力的なところです。
(p253)


確かに、田中芳樹本人もあとがきで次のように書いているとおり、ペルシアを強く意識した物語で、上橋菜穂子さんの解説の内容も、このあとがきを受けてのもののようだ。

12世紀にイギリスで書かれた「ブリテン列王記」と言う本があります。(略)
むろんこれは歴史事実に反するお話ですが、作者のモンマスという人は堂々とこれを歴史書として発表したのでした。彼はこの架空の「歴史書」をつくりあげるのに、たいへんな努力と苦労をかさねあげたようです。(略)
とにかく私は、偉大なる先人モンマス氏の情熱の巨大さにはおよびもつかないながら、自分なりのスープを作ろうと思い、作業に取り掛かりました。(略)二転三転したあげく、舞台は中世ペルシアということにさだめました。むろん、実際の中世ペルシアではなく、それによく似た異世界の国です。「パルス」とは、中世ペルシア王朝の勃興地ファールスをなまらせた呼びかたです。(略)
一方、パルスに侵攻してくる敵国軍は、十字軍と、アメリカ大陸を征服したスペイン軍とのイメージでつくりあげましたから、かなりどぎつい悪役に見えることは、物語の現在の段階ではしかたありません。アミン・マアルーフの「アラブが見た十字軍」などを読むと、十字軍が神の名のもとにどれほどの悪逆非道をはたらいたか、よくわかります。


中世ペルシア王朝は勿論のこと、十字軍のことも全くイメージが湧かないので、もう少し勉強して、次回読むときには、上橋菜穂子さんのような嬉しがり方のできる読者を目指したいなあ。


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