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大坂の陣と辛いサムライ〜『マンガ日本の古典(23)三河物語』、『学習まんが日本の歴史』(12)

三河物語―マンガ日本の古典 (23) 中公文庫

三河物語―マンガ日本の古典 (23) 中公文庫

二冊を読んで分かったことは、徳川家康徳川家光の江戸時代初期というのは、大きな変化のあったときであり、その中でも、サムライにとっては受難の時代だったということだ。
それゆえ、安彦良和版『三河物語』で主人公的役割を担う一心太助は、最初こそ、三河の百姓から「サムライになってエラくなる」ことを夢見て、大久保彦左衛門忠教に仕えるが、大坂の陣を終えたのち、考えを改め町人(魚屋)になることを決意する。

豊臣家が滅んで
これからは徳川の世と世間は言うよ
でも本当は町人の世だ
自分の気持ちに正直に生きていける町人がやっと
戦をこわがらずにのびのび生きられる
世の中になったのだと思うよ(p227)


そして、同じことを原作の主人公である彦左衛門は常に意識(むしろ、それを言わんとするためにこの物語を執筆したようだ。)しており、サムライになりたい太助を以下のように諭す。、

一昔前とちごうて今日日は武勇に優れた忠臣であるというだけでは出世したりせぬ!
小利口、金勘定ができ、世渡りの術に長じていなければダメだ!
恩義や忠節といったことを何とも思わぬツラの河の厚い人間でなければ出世できんのだ!
たとえば、本多佐渡守正信の如き…またたとえばその息子 正純の如き…


この台詞で指摘されているように、大久保彦左衛門忠教のような「昔ながらのサムライ」VS本多正信本多正純親子のような「世渡りの術に長けたサムライ」という対立(同じ譜代大名)が、この三河物語の核の部分である。物語中で生じる大きな3つの事件(大久保忠隣の改易処分、大坂夏の陣での「旗奉行」事件、本多正純の改易処分)のうち、最初の二つは、「昔ながらのサムライ」に対する家康の裏切り行為であり、彦左衛門の抗議の気持ちが前面に出たものとなっている。そして、物語の最後に出てくる本多正純の改易処分によって、大久保贔屓で読んできた読者が、はじめて溜飲を下げることができることになる。
あとがきで、安彦良和が「一読した感想はつまらなかった」と書くように、『三河物語』自体は、地味な話で、彦左衛門の愚痴ばかりの話のようだ。しかし、この漫画の中では、主人公・一心太助との関わりの中で、愚痴ばかりの大久保彦左衛門の、愛すべき人間臭い面がたくさん見えて、親しみやすい。
元資料や関連資料を読み込んだ上で、このような組み直しができる安彦良和という人の努力と才能に改めて驚く。ついこの前『ガンダムを創った男たち』で、その人物像に迫ったこともあり、漫画を読むというより、安彦良和を知る読書でもあった。


なお、あとがきにもある通り、もとの三河物語では登場しない一心太助は、色々な創作に登場する人物で、大久保彦左衛門とのコンビとして活躍する話が多いとのことで、三河物語での主人公となるのは、さほどおかしいことではないようだ。

一心太助(いっしんたすけ)は、小説・戯曲・講談などに登場する架空の人物とされている人物。初出は「大久保武蔵鐙」とされる。
職業は魚屋。義理人情に厚く、江戸っ子の典型として描かれることが多い。三代将軍徳川家光の時代に、大久保彦左衛門のもとで活躍したとされる。


この「マンガ日本の歴史」シリーズは、著名漫画家による全32巻のシリーズで、
ラインナップを見ると、気になる作品がたくさんある。さいとう・たかを太平記」なんかはかなり気になるので次回読んでみたい。

太平記〈上〉―マンガ日本の古典〈18〉 (中公文庫)

太平記〈上〉―マンガ日本の古典〈18〉 (中公文庫)

吾妻鏡(上)―マンガ日本の古典〈14〉 (中公文庫)

吾妻鏡(上)―マンガ日本の古典〈14〉 (中公文庫)

和泉式部日記―マンガ日本の古典 (6) 中公文庫

和泉式部日記―マンガ日本の古典 (6) 中公文庫

『学習まんが日本の歴史』(12)

こちらは、江戸幕府を開いてから鎖国までの内容で、(1)江戸の将軍、(2)大坂の陣、(3)朱印船貿易、(4)鎖国の4章からなる。『三河物語』の内容は、ちょうど1章、2章に対応するが、大久保や本多は登場しない。隠居後の家康が駿府に移るときのセリフで「江戸には本多と大久保、酒井を残す」と、秀忠に伝えるところのみ出てくる。(この酒井は、冲方丁天地明察」に登場)
大坂の陣の前には「御所柿は ひとり熟して 落ちにけり 木の下に居て 拾う秀頼」という落首が登場するほど、世間的には力をもっていた豊臣秀頼が、あっという間に大坂夏の陣で自害することになる、という流れがよく分かった。併せて、当時のサムライ達が、武家諸法度などでどんどん徳川の支配下に置かれていく様子は『三河物語』を読んだからこそ、理解しやすかった。
また3章、4章では、キリスト教は禁じるが、貿易は奨励という家康の時代から、家光の時代になり、さらに厳しい弾圧に耐えかねたキリシタンたちによる島原の乱を経て、鎖国に至るまで。シャムで貴族となった山田長政や、島原の乱で中心的役割を果たした天草四郎らの人物像もイメージしやすかった。隠れキリシタンというと、諸星大二郎の『生命の樹』や遠藤周作の『沈黙』を思い出す。鎖国隠れキリシタンの話は別の本・漫画でも読んでみたい。


そういえば、レキシの「真田記念日」は、まさに大坂冬の陣、夏の陣を題材にしており、勿論主人公は真田幸村。ここら辺も駆使して勉強していきたいですね。

参考(過去日記)

今後シリーズ化を目論む『日本の歴史』+そのほか作品