Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

近年の俵万智著作6冊を一気読み

もともと短歌関連の本はいくつか読んでいたが、わけあって12月に俵万智関連本を集中して読んだ。
自分が俵万智さんに興味を持ったのは、

  • 自分の息子の年齢が俵万智の一人息子・たくみ君と近いということ
  • (会ったことはないが)同じ時期に仙台に住んでいたということ

もあるが、何より

  • 東日本大震災のときに、余震や放射能から逃れるため仙台から沖縄の石垣島に移住したということに興味を持ったという部分がある。

だから今回、2012年以降の本ばかりを固め打ちしたのだが、著作を多数読んでみると、最初に興味を持った東日本大震災から離れて、石垣島での生活の魅力や、俵万智の短歌観、短歌の味わい方などにも関心が広がった。

『オレがマリオ』(2013)

オレがマリオ

オレがマリオ

俵万智の第五歌集。

「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ

震災時に小学一年生だったたくみ君は、テレビで津波の映像をたくさん見たこともあり、指しゃぶりまで始めてしまう。
それが石垣島移住後、みるみるうちに元気になり、大好きだったテレビゲームもやらなくていい、と、毎日の生活の中で、自分が冒険の主人公なんだ、といったのが歌の中のたくみ君の名言につながる。
扱っているのは、震災前の仙台での生活、震災後の石垣島での生活が半々くらいで、震災当時の短歌は数ページに過ぎないが、震災の影響も強く感じる歌集。
移住先の石垣島で2012年3月に詠んだ歌に心が動かされる。

一年後の私はここで元気だとあの日の我に言う名蔵湾(なぐらわん)


三月の海の青さよ十日でも十一日でも十二日でも

『かーかん、はあい』(2012)

朝日新聞夕刊連載記事を書籍化したもので2008年11月、2010年1月に発売された単行本2冊を合本して文庫化したもの。
俵万智さんが、連載開始時に2歳になったばかりの息子・たくみ君と一緒に読んだ本(絵本が中心)を紹介する内容で、たくみ君が成長していく様子も分かる。
『じゃあじゃあびりびり』から始まって『きんぎょがにげた』『ゲゲゲの鬼太郎』『いやいやえん』から『かいけつゾロリ』、星新一まで、一つ下の学年になるうちの息子と重なる読書遍歴を辿るので、その部分も楽しい。
小さいお子さんをお持ちの方は、絵本選びの参考に是非ともおすすめの一冊。

『ちいさな言葉』(2013)

ちいさな言葉 (岩波現代文庫)

ちいさな言葉 (岩波現代文庫)

こちらも俵万智さんが、息子・たくみ君との日々を綴った内容で、たくみ君の言葉によりフォーカスを当てた内容。文庫本の内容としては、たくみ君が3歳から小学3年生までで、『かーかん、はあい』と重なる部分もあるが、たくみ君との漫才のような会話がピックアップされており、より楽しく読める。
うちの子にも、面白い言葉はたくさんあったので、もっと丁寧に拾って記録しておけば良かったなあと思うところも。『オレがマリオ』の中でも大好きなファーブル昆虫記についてのエピソードも散文で読める。『オレがマリオ』収録の短歌だとこんな感じ。

12時間フンを食べ続ける虫を見続けているアンリ・ファーブル


フンの長さ2.88メートルをアンリ・ファーブル伸ばして測る


昆虫記 子は読み終えてこの人は少し悲しい人かと問えり

ファーブルに「孤独感」を見出すあたりに、たくみ君の感性の鋭さを感じる。

『旅の人、島の人』(2014)

旅の人、島の人

旅の人、島の人

石垣島移住後の生活について書かれた本。『ちいさな言葉』にも収録されている中日新聞連載の「木馬の時間」も収録されており、その意味では『ちいさな言葉』の続編という見方もできるが、俵万智の視点は対たくみ君よりも、対石垣島文化という要素が強い。
『オレがマリオ』だけ読むと理解しづらい「きいやま商店」への熱い想いや、運動会の「縄ない競争」、モズク採りの魅力など、石垣島生活の魅力に詰まった内容。長嶋有エロマンガ島の三人』を読んで、南国の島での生活を夢想したあとだったので、自分のツボにピッタリで、旅行でもいいから石垣島に行ってみたくなった。

『短歌のレシピ』(2013)

短歌のレシピ (新潮新書)

短歌のレシピ (新潮新書)

投稿短歌の添削集で、添削前と添削後を読むことで、どのような短歌が上手く、どのような短歌が拙いのかがよく分かるようになる。添削前後の「改善」度合いは、ほとんどが納得のいくもので、日本語を扱うすべての人が「なるほど」と読める本だと思う。
例えば「第12講 動詞にひと工夫してみよう」で紹介された投稿短歌の添削は以下の通り。

添削前:いつまでもひとつ悩みが消えなくて こころに一本補助線引いた
添削後:いつまでもひとつ悩みが解けなくて こころに一本引いた補助線

この歌のポイントである「補助線」の比喩を最大限に生かすために、問題がこんがらがっている様子をあらわす動詞として「解けなくて」を選択して、体言止めで終える。これによって確かに歌の印象は良くなっている。
『オレがマリオ』の中でも似た感じの動詞が選択されている歌がある。

島ことば一つほどけてわかる朝ヤモリするりと部屋に入りくる

「ほどけて」という動詞の選択が素晴らしく、後半の「り」の繰り返しが心地よい。

『チョコレート革命』(1997)

チョコレート革命 (河出文庫―文芸コレクション)

チョコレート革命 (河出文庫―文芸コレクション)

今回初めて知ったが、俵万智は寅年*1で、自分とちょうど一回り離れている。子どもの年齢が近いこともあって、もう少し年が近いかと思っていたが、予想以上に年齢差があるのだった。
それもあって、若い時の歌集を読んでみようと手に取ったのが、この第二歌集で28歳から34歳までのことが歌われている。
もともと俵万智は、与謝野晶子の再来*2などと言われ、恋の歌で評価されている人だが、この歌集は特に(なのか?)、不倫の歌が満載で、自分としては共感するというより、やや距離を置いて鑑賞する内容となった。引用するとキリがないが、

君の好きな曲さえ知らぬ一人(いちにん)が君の新婦となる木の芽どき


さりげなく家族のことは省かれて語られてゆく君の一日


父として君を見上げる少女あり淡く鋭く我と関わる


一枚の膜を隔てて愛しあう君の理性をときに寂しむ


「夫婦などつまらぬ日常」と言う君の日常の語が我には眩し

とか、才能が爆発している、若さが暴走している感じが凄い。
『オレがマリオ』にも恋の歌はあるが、さすがにここまでナイフのような切れ味を持っているものはない。
今回、2010年以降の本を固め打ちしたが、たくみ君を生む前の俵万智ももっと読んでみたくなった。

参考(過去日記)

*1:『オレがマリオ』の中でも仙台の幼稚園のママ友について「寅年の話になりてママ友は一まわり下と気づく園庭」と歌われている。

*2:松岡正剛の千夜千冊で『サラダ記念日』が取り上げられている記事でも、そのように紹介されている。http://1000ya.isis.ne.jp/0312.html