もともと短歌関連の本はいくつか読んでいたが、わけあって12月に俵万智関連本を集中して読んだ。
自分が俵万智さんに興味を持ったのは、
- 自分の息子の年齢が俵万智の一人息子・たくみ君と近いということ
- (会ったことはないが)同じ時期に仙台に住んでいたということ
もあるが、何より
だから今回、2012年以降の本ばかりを固め打ちしたのだが、著作を多数読んでみると、最初に興味を持った東日本大震災から離れて、石垣島での生活の魅力や、俵万智の短歌観、短歌の味わい方などにも関心が広がった。
『オレがマリオ』(2013)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/11/29
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
「オレが今マリオなんだよ」島に来て子はゲーム機に触れなくなりぬ
震災時に小学一年生だったたくみ君は、テレビで津波の映像をたくさん見たこともあり、指しゃぶりまで始めてしまう。
それが石垣島移住後、みるみるうちに元気になり、大好きだったテレビゲームもやらなくていい、と、毎日の生活の中で、自分が冒険の主人公なんだ、といったのが歌の中のたくみ君の名言につながる。
扱っているのは、震災前の仙台での生活、震災後の石垣島での生活が半々くらいで、震災当時の短歌は数ページに過ぎないが、震災の影響も強く感じる歌集。
移住先の石垣島で2012年3月に詠んだ歌に心が動かされる。
一年後の私はここで元気だとあの日の我に言う名蔵湾(なぐらわん)
三月の海の青さよ十日でも十一日でも十二日でも
『かーかん、はあい』(2012)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2012/05/08
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
俵万智さんが、連載開始時に2歳になったばかりの息子・たくみ君と一緒に読んだ本(絵本が中心)を紹介する内容で、たくみ君が成長していく様子も分かる。
『じゃあじゃあびりびり』から始まって『きんぎょがにげた』『ゲゲゲの鬼太郎』『いやいやえん』から『かいけつゾロリ』、星新一まで、一つ下の学年になるうちの息子と重なる読書遍歴を辿るので、その部分も楽しい。
小さいお子さんをお持ちの方は、絵本選びの参考に是非ともおすすめの一冊。
『ちいさな言葉』(2013)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/05/17
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
うちの子にも、面白い言葉はたくさんあったので、もっと丁寧に拾って記録しておけば良かったなあと思うところも。『オレがマリオ』の中でも大好きなファーブル昆虫記についてのエピソードも散文で読める。『オレがマリオ』収録の短歌だとこんな感じ。
12時間フンを食べ続ける虫を見続けているアンリ・ファーブル
フンの長さ2.88メートルをアンリ・ファーブル伸ばして測る
昆虫記 子は読み終えてこの人は少し悲しい人かと問えり
ファーブルに「孤独感」を見出すあたりに、たくみ君の感性の鋭さを感じる。
『旅の人、島の人』(2014)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: ハモニカブックス
- 発売日: 2014/08/12
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る
『オレがマリオ』だけ読むと理解しづらい「きいやま商店」への熱い想いや、運動会の「縄ない競争」、モズク採りの魅力など、石垣島生活の魅力に詰まった内容。長嶋有『エロマンガ島の三人』を読んで、南国の島での生活を夢想したあとだったので、自分のツボにピッタリで、旅行でもいいから石垣島に行ってみたくなった。
『短歌のレシピ』(2013)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/03/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (3件) を見る
例えば「第12講 動詞にひと工夫してみよう」で紹介された投稿短歌の添削は以下の通り。
添削前:いつまでもひとつ悩みが消えなくて こころに一本補助線引いた
添削後:いつまでもひとつ悩みが解けなくて こころに一本引いた補助線
この歌のポイントである「補助線」の比喩を最大限に生かすために、問題がこんがらがっている様子をあらわす動詞として「解けなくて」を選択して、体言止めで終える。これによって確かに歌の印象は良くなっている。
『オレがマリオ』の中でも似た感じの動詞が選択されている歌がある。
島ことば一つほどけてわかる朝ヤモリするりと部屋に入りくる
「ほどけて」という動詞の選択が素晴らしく、後半の「り」の繰り返しが心地よい。
『チョコレート革命』(1997)
- 作者: 俵万智
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2000/01
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 54回
- この商品を含むブログ (19件) を見る
それもあって、若い時の歌集を読んでみようと手に取ったのが、この第二歌集で28歳から34歳までのことが歌われている。
もともと俵万智は、与謝野晶子の再来*2などと言われ、恋の歌で評価されている人だが、この歌集は特に(なのか?)、不倫の歌が満載で、自分としては共感するというより、やや距離を置いて鑑賞する内容となった。引用するとキリがないが、
君の好きな曲さえ知らぬ一人(いちにん)が君の新婦となる木の芽どき
さりげなく家族のことは省かれて語られてゆく君の一日
父として君を見上げる少女あり淡く鋭く我と関わる
一枚の膜を隔てて愛しあう君の理性をときに寂しむ
「夫婦などつまらぬ日常」と言う君の日常の語が我には眩し
とか、才能が爆発している、若さが暴走している感じが凄い。
『オレがマリオ』にも恋の歌はあるが、さすがにここまでナイフのような切れ味を持っているものはない。
今回、2010年以降の本を固め打ちしたが、たくみ君を生む前の俵万智ももっと読んでみたくなった。
参考(過去日記)
- 俵万智『短歌をよむ』(2007年5月)
- 小林恭二『短歌パラダイス』(2007年5月)
*1:『オレがマリオ』の中でも仙台の幼稚園のママ友について「寅年の話になりてママ友は一まわり下と気づく園庭」と歌われている。
*2:松岡正剛の千夜千冊で『サラダ記念日』が取り上げられている記事でも、そのように紹介されている。http://1000ya.isis.ne.jp/0312.html