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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

限界集落化からの生き残りの解〜篠原匡『神山プロジェクト』

神山プロジェクト 未来の働き方を実験する

神山プロジェクト 未来の働き方を実験する

神山プロジェクトについては、この本を読むまではほとんど知らなかったので、全てを新鮮な気持ちで読み通すことが出来た。色々な側面のある取り組みで、ネット上にも色々な情報が溢れている。以下の記事を読むと、本に書いてあることが一通り理解できる。(逆に、こういった記事を読んでしまうと、本で知ることのできる新たな情報は少ないかもしれない…)

今まちづくりで注目されている地域があります。徳島県神山町です。人口わずか6019人(9月1日現在)、高齢化率は46%(2010年)を超える同町には、今、二つの異変が起こっているそうです。一つ目は、1955年の合併後から減り続けていた社会動態人口が初めて12人の増加となったこと。
もう一つは、名刺管理サービスを提供するsansan株式会社を皮切りに、IT企業など10社がサテライトオフィスを設置したことです。なぜ、過疎化が進んだ地域にこれほどの変化が起きたのでしょうか?


自分がこの本を読んで感じたのは、神山の現状が、中心人物は確かにいるものの、いくつもの核があって重層的に成り立っているということ。世代を超えた持続可能性を考えるならば、「この道しか」*1あり得ず、2、3年という短い期間で中央集権的に進めた施策では、一時の成功は手に出来ても、また数年後どうなるか分からない状態に逆戻りしてしまう。
例えば、ゆるキャラB級グルメ。神山プロジェクトの中心人物である大南氏はこう語る。

例えに出して悪いけど、B級グルメなんかはいずれ飽きが来る。それに対して、オモロイ人が適度に循環していれば、新しいことなんてナンボでも生まれると思うんですよ。そこにアイデアをポンと投げ込んで、ぐるぐると混ざって新しい何かが出てくるというイメージかな。モノで作ったシステムは廃れると思うけど、人がベースの仕組みは老朽化せんからね。p199

グリーンバレーの中心人物のひとりである岩丸氏も「都会では無理だけど、ある意思を持った人間が5人もいれば町は変わる」(P215)という通り、「モノではなく人」というスタンスは神山に関わる人たちの共通した思想なのだろう。
だからこそ出てきた「創造的過疎」という概念(大南氏による造語)も面白い。(何もしなければ)過疎地における人口減少は避けることができないという現実を受け止めた上で、持続可能な地域をつくるために人口構造や人口構成を積極的に変化させていく、ということを意味する。
この考えにしたがって、人口動態予測のデータをもとに、1クラス20人を維持するために、親二人子二人の家族を毎年5世帯受け入れるという、具体的な数値目標を掲げているというのだ。(p196)
ゆるキャラB級グルメ、最近ではふるさと納税など、一時的な成功を求める流れに比べると、とても地に足のついた取り組みに見える。


勿論、自然豊かな場所と徳島市からすぐの利便性以外に、県内全域に光ファイバー網が整備されている徳島県のIT環境や、第十二番札所があり、昔から町中を行き来するお遍路さんに対する「お接待文化」が根付いていたという固有の事情もある。しかし、アイデアを出す人たちが集まっているからこその現状であって、そんじょそこいらの地域には真似ができない。

日本の地方は人口流出と高齢化にあえいでいる。全体の人口減少と都市化の波を考えれば、その中の多くは限界集落と化していくだろう。それを押しとどめるも のがあるとすれば、それは道路でも美術館でもなく、クリエイティブな人間の集積以外にない。人が集まる場を作る。それこそが、生き残りの解だ。P215


新しい地域づくりの流れ、新しい働き方の流れが、神山から広がっていけば(勿論、こういった運動を本で知った自分のような人間も後押しできれば)、どこか沈滞ムードにある日本の未来ももう少し明るくなるような気がする。
いい刺激を受ける本でした。

参考記事

なお、今回参考のために読んだ東洋経済オンラインで連載されている「地方創生のリアル」がとても面白かったです。
特産品を扱った回と、ゆるキャラを扱った回を抜粋。

最も深刻な問題は、こうした商品、材料、技術の「3つの選択」をする場合、結局、具体的な商品像が曖昧なために、整合性がないことです。
その結果、例えば「地元の玉ねぎを使った焼酎」とか、「変な色の野菜を使ったカレー」とか、「売れる」「売れない」以前のレベルのものが大量発生したりします・・。私は、今まで地方に出かけていった際に、こうした「売れないもの」を何度も試食したことがありますが、「どうしてこんな商品が出てくるんだ」と、大変苦々しい気持ちになります。

冷静に考えれば、一過性の人気商売で、さらには、まったく別の次元でガチの企業も参入してやっているキャラクタービジネス領域に、自治体が税金をブチこんで全国区で戦うということ自体、全く合理的ではないわけです。稀有な一部の成功事例に引き込まれて、皆でそこに参入して「二番煎じ、三番煎じ」を争い、殴り合いを「税金」を使ってやるわけです。不毛としかいいようがありません。

*1:2014年末の衆議院議員選挙での自由民主党のキャッチフレーズ「景気回復、この道しかない」からとりました。現在の政府の主要施策が「地方創生」でもあり、行く末が気になります。