Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

自分は冬が越せるだろうか〜ジュール・ヴェルヌ『二年間の休暇』

二年間の休暇(上) (岩波少年文庫)

二年間の休暇(上) (岩波少年文庫)

二年間の休暇(下) (岩波少年文庫)

二年間の休暇(下) (岩波少年文庫)


授業参観時に教室に展示してあった一生徒の感想文がなかなか良かったので、思い立って再読。
10年ぶりくらいに読んだけど、レオン・ブネットの挿絵がものすごく良い。
写実的で、無人島世界の様子がありありと伝わってくるだけでなく、大体8〜10頁に1度くらい出てくるので、上下巻と言っても、長さを感じさせない。
巻頭に島の地図があることも含めて、冒険心を掻き立てる仕組みも充実しており、納得の名作でした。

休暇で六週間の航海に出るはずだった寄宿学校の生徒たち。ところが船が流され、嵐のはてに無人島に漂着してしまう。少年たちは力を合わせて、島での生活を築きあげていく。“十五少年漂流記”として知られる傑作冒険小説。


今回、改めて驚いたのは何といっても2年間(実質2年半)という長さ。
ラストを読むと、「寄宿学校での共同生活を通じた成長」についてがメインテーマのようなので、(親元を離れた長期生活のメタファーという)主旨には納得だが、やはり大人との連絡が途絶した無人島生活の期間としては相当に長い。
それだけでなく、15人の少年が暮らしたチェアマン島が、真冬は零下30度となるような南半球の高緯度に位置するということに、さらに驚いた。
無人島での暮らしというと、漠然と、暖かいところをイメージするが、このような寒い場所でくじけずにやっていける自信は全くない。
そもそも、サバイバル生活という意味では、自分には全く欠けていることばかりで、それをこなせる少年たちに憧れてしまう。

  • 狩猟、罠、野草や木の実など食料の知識と捕獲技術
  • 捕獲した動物の毛をむしり、野草を下処理するところからの調理技術
  • 飲料水や食料の長期保存の技術
  • 移動手段としての船の操縦・修理の技術
  • 不意の事故を防止するための安全技術(毒の知識、火の取り扱い)
  • 居住地を快適なものにするためのアイデア、大工作業
  • 寒い冬を越すための燃料の蓄積と管理


それだけではなく、下級生のために上級生が学習プログラムを組んで時間割に従って勉強を教えることや、リーダーを選挙で選ぶなどの集団生活でのルール作りまで含めて、15人の少年たちは素晴らしい。
下巻に入り、ラストに近づき、15人の生活に「大人」が入り込んでくるのだが、このような生活力溢れる15人のもとに来る大人が自分でなくて良かったとホッとしてしまう。君たちの期待には応えられないから…(笑)


リーダーを決める選挙にモコ(黒人)が加われなかったり、唯一登場する女性ケイトの役回りが、母性的な部分に限定され、彼女の意見はあまり尊重されなかったりと、やや時代を感じさせる部分もあったが、そういった部分はほんのわずかで、1888年に書かれた小説とは思えないほどテンポが良くエンタメしている。翻訳の関係もあるのかもしれないが古びれた感じは全くしなかった。
主人公ブリアンと敵対するドニファンとの対立が都合よく終わり過ぎという面はあるが、全体のバランスを考えると、これ以上ボリュームを割けなかったのかもしれない。(その部分は『蠅の王』で堪能したい)
読んだことのある人には「今更・・・」と言われるかもしれませんが、小学校高学年以上であれば誰にでもオススメできる傑作でした。


なお、下巻に「雌ウシの木」と呼ばれるガラクテンドロンという樹木が登場する。

貴重な発見だった!じっさい、このガラクテンドロンの樹皮に切り込みをいれるだけで、見た目も、味や栄養分もまるで牛乳のような樹液が、したたり落ちてくるのだ。そればかりか、この牛乳を凝固させると、じつに旨いチーズのようなものになるだけでなく、蜜蝋に負けないような純粋な蝋にもなって、それから質の良いろうそくがつくれるのだ。p190

この木については、インディアンがどのように呼んでいたかなどの具体的なエピソードがあるので、てっきり実在する植物なのかと思ったが、やはり空想の産物のようだ。全国酪農協会のエッセイの中にもこのような分析があった。

少年達の大統領制度の仲間われ、再び仲直り、島に漂着した悪人水夫らとの闘争などがあるわけですが、ここでは食料の自給、ましてや動物性のたんぱく質や、カルシウムなどをどのように発見し、確保したかが興味深い。ニュージーランドといえば酪農立国である。そこに生まれ育った少年達が極限に追いこまれてこれを求めないわけがない。
島に住む鳥やけものはすぐに獲得することに成功するがやはりもっともっと、別の食糧を確保し、長期保存を心がけねばならない。
なぜなら、この無人島でいつ発見してもらえるか、その保証は希望こそ胸に秘めていても、誰も出来ないことがわかったからです。
少年達はけものを得ることのほかに植物類にこれを求めました。「茶の木」そして「砂糖の木」しかり、そして探検の末に発見したのが「牛の木」なのです。


実際、無人島生活を過ごすとすれば、ここで書かれているような動物性のたんぱく質を摂取することは大事だろうし、体もそれを求めるに違いない。
一番手っ取り早いのは魚やけものを取ることだが、魚も捌いたことがない自分としては、野鳥やけものを捕まえたとしても、その先には進めなさそうだ。かといって草ばかり食べているわけにもいかない。貝や(植物性タンパク質として)キノコ、そして昆虫など、少しでも調理までの手間が少ないもので食べられるものを知っておいた方がいいかもしれない。
猟師や昆虫食の本を読んで少しでも知識を身に付けておこうかな。

ぼくは猟師になった (新潮文庫)

ぼくは猟師になった (新潮文庫)

山賊ダイアリー(1) (イブニングコミックス)

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昆虫食入門 (平凡社新書)

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食べられる虫ハンドブック

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参考(過去日記)

→ちょうど11年前に書いた文章か…。帯の惹き文句が"椎名誠氏が選ぶ漂流記ベスト20で堂々1位"とのことだが内容についてはほとんど覚えていないので読み返したい。