- 作者: 清水義範
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/12/06
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
- 作者: 清水義範
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1990/10/08
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 63回
- この商品を含むブログ (83件) を見る
当時はパスティーシュと呼ばれる文体模写短編の、パロディ的な部分が新鮮で、どれも笑いながら読んでいた。
特に『蕎麦ときしめん』『秘湯中の秘湯』はどれを読んでも面白かった印象がある。
ただ、今回、6編が収められている『国語入試問題必勝法』を改めて読むと、全体的にやや長ったらしいと感じてしまった。
特に、
- 太宰治が『御伽草子』で猿蟹合戦を取り上げなかった理由を探る「猿蟹合戦とは何か」
- 架空の食材で架空の料理をつくっていく「ブガロンチョのルノワール風マルケロ酒煮」
- 長嶋茂雄(と村山実)が野球以外の事象にコメントしていく「いわゆるひとつのトータル的な長嶋節」
などは、それほど長くはない二十数ページであっても、単発のネタで引っ張るには長いと感じてしまった。
パロディ的なものが世の中に溢れすぎてしまっているためか、文体の面白さだけでは「続きを読んでみよう」と思わなくなっているのかもしれない。
一方で読者に訴えかけるフックがはっきりしているものは読みやすい。
- 家庭教師が教えてくれる必勝法とはどのようなものか?それを使って合格できるのか?が気になる「国語入試問題必勝法」
- 老人会のグループが個々の性格や職業を反映させて書いたリレー小説のラストがkになる「「人間の風景」
は、ラストまで一気に読めた。
そして「靄の中の終章」。
認知症の主人公の独白で話が進むのだが、以下のような反省のあとに「空腹感→息子の嫁に激怒→反省→…」という繰り返しがエンドレスに続くような内容で、笑うに笑えない。
とんでもない恥をかいてしまった。よりによって、食べた朝食のことを忘れて、もう一度要求してしまうとは、私の自尊心にたえがたい醜態である。これでは意地きたない耄碌じじいと思われても文句は言えないではないか。
いやな気分である。自分だけは決してそんなことになりたくないと思っていたのだが、とうとう私も少しボケ始めてしまったのだろうか。
息子の嫁に、とんでもない厄介者だと思われなければならないのだろうか。
この短編は30数頁で終わって本当に良かったと思わせる。実人生で同じことがあれば何百ページも、何年間も似た毎日が繰り返されるのかもしれない。小説の内容に書かれていない部分がこの短編の怖いところだ。
とはいえ、この本の刊行は1987年で清水義範は1947年生まれだから今の自分と同年齢くらい。「老い」の捉え方は年齢によって、そして時代によって大きく異なると思うが、このような小説は1980年代の40歳だからこそ、それほど深刻さを持たずに書き流せる内容だったのかもしれない。