Yondaful Days!

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オリジナル・ラブ『ラヴァーマン』の楽曲構成を考える(2)〜ガーディアンズか実験場か


前回の続き:傑作アルバム『ラヴァーマン』の楽曲構成(曲順)に感じてしまう違和感の原因を探るシリーズとなっています)
さて、曲名が発表された時にも書いたように、オリジナルラブのアルバムは、これまでA面、B面に分けて構成されていると考えるとしっくり来るのが通例でした。(何枚かのアルバムでは、A面、B面表記があったように思います)
実際、『ラヴァーマン』はA面、B面それぞれの一曲目(1曲目、6曲目)がキャッチーなシングル曲だったこともあり、最初は、この「見立て」のままアルバムを聴いていました。
ところが、このようにABで分けて聴いていると、A面が持つ問題点が明確になってきます。


具体的に書いてみましょう。
歌詞と曲順という観点から見たB面5曲の印象は次の通りです。

  • 「四季と歌」〜「99粒の涙」は過去を振り返りつつ前に進むコインの裏表のような歌で、そのあとで、メッセージソング「希望のバネ」が来るのは、アルバムの締め方として何より分かりやすい。
  • 「クレイジアバウチュ」「きりきり舞いのジャズ」は、主人公は彼女にメロメロだけど、彼女の態度はつれない感じで、内容に共通性がある。
  • したがって、(終わり3曲の厚みと比べると、前半2曲は、やや軽い印象があるものの)最初の2曲+終わりの3曲でまとまっている。


これに対して、A面の5曲は、そもそも歌詞の主人公の視点が大きく異なり、B面と比べると統一感に欠けます。

  • 失恋をバネに前を向く青年男子(想像)
  • 甘酸っぱい時代を振り返る中年親父(想像)
  • 彼との今年の夏休みに心躍る女子大生(想像)
  • 夜更かしベイビーを手玉に取るダンディー(想像)
  • ぎりぎりで生き残ったはみ出し者

つまり、主に歌詞を考えた場合、(自分が)アルバムの曲順を何とかしたくなってしまったのは、A面5曲の統一感のなさに原因があると考えていいでしょう。
ただし、一曲一曲を単体で見た場合に、どうしても好きになれないような曲はなく、それぞれに魅力があるので、むしろ、この「まとまりのない感じ」 がいいのではないか?という逆転の発想でも考えてみました。
突然ですが、昨年見た映画『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は御尋ね者で共通点のほとんどない5人が宇宙を救うために奮闘する話でした。例えば、A面5曲を、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のキャラクターに重ねて考えてみることで、むしろ個性溢れるバラバラの5人だからこそ、束になった時の彼らは強力な力を持つ、と考えることはできないでしょうか。


→ラヴァーマン

  • ドラックス:強靭な肉体を誇る大男。

→ビッグサンキュー

→サンシャイン日本海

  • ロケット:お調子者のアライグマ

→おやすみベイビー

フランケンシュタイン


こうして見るとなかなかマッチしています。(2匹のモンスターであるロケットとグルートなどはピッタリだと思います)
が、たとえ、そう思えたとしても、曲順についての違和感は全く解決しないのです。(笑)


そうこうしているうちに、アルバムの中で、4曲目(今夜はおやすみ)〜5曲目(フランケンシュタイン)〜6曲目(クレイジアバウチュ)〜7曲目(きりきり舞いのジャズ)の流れもなかなか良いということに気が付きました。どれも楽曲面で一筋縄ではいかない「変」な部分のある曲で、本来はこちらの方がバラバラな印象を与える可能性の高い部分です。それにもかかわらず、自然な流れに聴こえるのは、この部分の繋ぎは、結構意識して作られたのではないでしょうか。
実際、インタビューでも、そのように語られています。

──冒頭の3曲もいいんですけど、個人的にはそのあとの「今夜はおやすみ」「フランケンシュタイン」が大好きで。前半を経てこの2曲が出てきたときに「このアルバムは大変なことになっているぞ」とすごくテンションが上がって。

あー、それは超うれしいね。この流れは自分にとってもアルバムの山場なんですよ。僕にしかできない音楽ができたなという手応えを特に感じたのがこの2曲で、かなり時間をかけて作りましたね。
(中略)
理論がわかってきたら、これまで聴いてきた音楽も全然違って聞こえてきて。スティーヴィー・ワンダーマイケル・ジャクソンの音楽にもジャズが入ってるん ですよ。彼らの洗練された音楽の仕組みが見えてきた。そういう技術的な変化が曲作りに生かされたのが「今夜はおやすみ」とか「フランケンシュタイン」、次 の「クレイジアバウチュ」もそうですね。だからこのへんの流れに反応してもらえるのはすごくうれしいですね。

田島貴男本人も「僕にしかできない音楽」と自負しているように、色々な要素が散りばめられた「変」な4曲こそが、実験的な部分を楽しむオリジナル・ラブ(実験場という意味では、オリジナル・ラボ)の真骨頂であるように思います。


そう考えると、このアルバムについてはA面、B面と捉えるのは不自然で、1〜3曲目、4〜7曲目、8〜10曲目と聴いていくのがいいという結論に導かれます。
この構成にしたがって書かれているのが、なんくいさんのブログで、3部構成に見立てたアルバムの流れについてとてもわかりやすく解説されています。

このアルバムは3部構成を取っていまして、1曲目「ラヴァーマン」〜3曲目「サンシャイン日本海」までが第1部、4曲目「今夜はおやすみ」〜7曲目きりきり舞いのジャズ」が第2部、そして8曲目「四季と歌」〜10曲目「希望のバネ」が第3部と考えることが出来ます。そして第1部と第3部がポップ・ゾーンそして第2部がディープ・ゾーンというディープな世界をポップではさむというサンドイッチ形式となっています。その意味は第3部の解説のところで述べますし、最後のアルバムの総括のところでも触れます。

この説明を読むと、3部構成という捉え方しかないと思います。


しかし、3部構成と捉えてそこに納得できても、なお曲順についての違和感は残ってしまいます。つまり、第2部、第3部のパートはOKですが、第1部がやはりしっくり来ない。
もっと突き詰めると(最初から分かっていたことではあるのですが)、問題は一曲に集約されるのです。
(続く)