Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

走る楽しみが増える本〜喜国雅彦『キクニの旅ラン―走りたおすぜJAPAN!』

(あらすじ)
ギャグ漫画家・キクニのマラソン旅紀行!


アラウンド50で、突如マラソンに目覚めたギャグ漫画家にしてエッセイストの喜国雅彦。しかし、学生時代はずっと文化部、「日々これ精進」的なことが続かない男はトレーニングのために、家の近所を毎日走り続けることに耐えられない。そして…「旅先で、風光明媚なところを走り、美味いものでも食えば、ずっと 飽きずに走り続けられるのでは」という、まったく安易な考えで企画立案したのだが…最初の「旅ラン」地は厳冬期宗谷岬走破だった。


「京都・丑の刻参りラン」「香川・うどん食い尽くしラン」「沖縄・絶海孤島ラン」「神奈川・地獄の箱根五区ラン」など、読む分には楽しいが、あまりうらやましくない日本全国の旅ラン日記!

実際に読んでみるまで気が付かなかったが、タイトルから想定していたような、(例えば、たかぎなおこの漫画エッセイ『海外マラソンRunRun旅』や『まんぷくローカルマラソン旅』などのように)海外や日本国内の地方でのマラソン大会に参加しつつ、その土地の美味しいものを食べる、といった内容のエッセイ漫画とは違う。
そうではなく、あくまで一人(+担当編集や助っ人)で、香川のうどん名店や伊豆の記念館をマラソンしながら回る、という、ぶらり旅的なマラソン企画をこなしていく内容となっている。
こういった企画物の連載は、パターン化してしまい、「面白い1〜2話とその他」というかたちになりがちのように思うが、ほとんどマンネリを感じさせない8つのコースが1冊にまとまっているのは、外れくじが無かったみたいで嬉しかった。そしてネタの面白さ以上に、キクニのマラソンに懸ける熱意が伝わってきて清々しい気持ちに。キクニ流のランニング指南も随所に見られて、マラソンを趣味にしている人、これから走ろうとしている人にはさらに楽しめる内容となっている。
個人的には、最近、自分の中でマラソン熱が盛り上がってきたのは、(完全に自分一人の世界のことなので)何かからの逃避が目的なのでは?とかマイナスの気持ちも湧き上がってきていたが、走りたいと思う人が、こういう文化系の人の中にもいると知り、安心し、勇気をもらえた。

めざせ日本最北端!!「厳冬期宗谷岬ラン」(北海道)

1月、最低気温マイナス8度の稚内から宗谷岬に向かうコースで、寒さ対策についても触れられている。
「民宿 宗谷岬」の方の温かい手助けや、向かい風の坂道という悪条件の中でイヤホンから聴こえてきたKARAの曲など、登坂車線が終わった後の絶景。色々なものが過酷なコースに取り組む気持ちを鼓舞していくのを見ると、やっぱりマラソンでのメンタルの部分の大きさを痛感する。

愛と怨念の魔界「丑の刻参りラン」

丑の刻参りをするために、毎晩、自宅から貴船神社までを走ったと言われるコース(往復約40キロ)。
過去の歴史を重ねて走るという楽しみ方を知る。そういう意味で歴史への関心・知識は必要。
なお、京都の通りの覚え方の「歌」(まるたけえびすにおしおいけ・・・」があることを初めて知った。

うどん食べまい!走りまい!「さぬきうどん名店巡りラン」

キクニの出身地香川を舞台に、うどん名店をはしごする。
うどん県あるあるなどの蘊蓄が面白いし、あれだけ食べても体重が増えないということで、マラソンという運動のすごさに触れた気がする。(キクニいわく、うどん1玉につき6キロ走れば相殺とのこと)
なお、JFLカマタマーレ讃岐のチーム名が「かまたま」うどんから来ていることを初めて知った。

不思議のうまうま尻脂「南大東島外周&内周ラン」

台風のニュースでしか知らない南大東島。入り江がなく船が接岸できないので、荷物も人もクレーンで吊り下げて船から岸に運ぶというのには驚いた。
また、鍾乳洞が多い場所とのことで、サトウキビ畑の下にある地底湖には夢膨らむ。

行けども行けども…美・博物館地獄!「イズニーランド」

伊豆にに大量にある博物館の楽しみ方は、展示物よりも(それを集めた)館長の話を聞くのが一番、という結論には納得。これまで誰が行くんだろ?と思っていたが、いくつか気になる博物館があった。

復興地をゆく「よみがえれ仙石線!ラン」

「マラソンは誰にでもできる」と主張するキクニに押されて未経験の通称デブロンゲ君が一緒に走ることになった被災地。二人のボランティア話を交えながら山を、海沿いを、途切れた線路を走る。
松島から女川まで2日間で50キロを走ったこのランと地域の人々とのふれあいの様子がこの漫画の一番のみどころ。
ちなみに、遠くの目的地が見えているコースは(目的地が近づかないから)疲れやすいという理論を挙げているが、中でも最悪として挙げているのは、スタート地点から折り返しの江ノ島が見えている「湘南国際マラソン」。12月に自分がチャレンジするコースだ・・・。

ランナーの聖地!「皇居ぐるぐるラン」

これまでに何度となく行っている皇居ランだが、ここで取り上げられている、100mごとに道路に埋め込まれた県花プレートには全く気がつかなかった。1周5kmなので50個あるはずなのに都道府県の数は47個。残りの3つは何か?というクイズが出ていたので、今度走るときには確かめてみよう。

無間の山坂責めに散る!「箱根駅伝五区ラン」

さすがに坂道なだけでなく、歩道の少ない箱根5区は相当大変だったようだが、時代劇のような松林を進む旧道や、5区のゴール地点から見える富士山は、ちょっと行ってみたくなる。


一番最初に、喜国雅彦自身がランニングに対するモチベーションが下がっている理由として、走った道路を塗りつぶしていく「白地図つぶし」で東京の道をほとんどつぶしてしまった、というエピソードが出てくる。高橋尚子もチャレンジしているという白地図つぶし、これは自分も楽しめそうだ。
また、漫画ゆえということもあるが、ランニング途中の担当編集との掛け合いが面白い。並行して読んでいる岩本能史さんの本を読んでも思ったが、孤独だと思っていたマラソンだが、仲間と走ることも楽しみを増やす一つの方法なのだろう。
このように、多方面からランニングの楽しみ方を増やしてくれる本だった。ちょっとした想像力と歴史の知識があればなお楽しめそうだ。