Yondaful Days!

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つかみはOKな出だし〜荒川弘『アルスラーン戦記(1)』

今さらながら荒川弘版『アルスラーン戦記』の感想をば。
第一巻の初回、つまり一番初めの回は原作の前日譚で、11歳のアルスラーンが、「ルシタニア人の捕虜」に人質にされ、エクバターナのあちこちを逃げながら二人で話をするという内容。
どんな人間も対等に扱う広い心、両親との関係など、アルスラーンの個人的特質以外に、作品舞台がさまざまな人間が集まる大陸航路に位置し、宗教的な隔たりが争いの原因になっているという物語の骨格が集約された内容になっており、素晴らしい。
ここら辺の意図は、巻末の田中芳樹×荒川弘対談にも記載があるが、いわゆる「つかみはOK」というやつだ。
なお、対談を読むと、荒川弘は、最初に企画の話が来たときには原作を未読だとのことで、むしろハガレン人気を受けて読者からの要望でこの話が上がってきたということのようだ。一方の田中芳樹ハガレンを読んでおり、荒川弘が引き受けると知りお喜びしたらしい。なかなか幸せな漫画化だといえる。


荒川弘版を最初に読んだときは、アルスラーンの外見にも違和感を覚えていたくらいだが、基本キャラクターはほとんど慣れたが、やはりヒルメスの銀仮面にどうしても違和感が残る。天野喜孝版で挿絵としてあったのか記憶にないが、形状そのものがイメージと違う。オペラ座の怪人では?


さて、1巻では、アルスラーン14歳の初陣。カーラーンの裏切りもあってアトロパテネで惨敗したパルス。ヒルメスヴァフリーズを斬り、アンドラゴラスと対面する。何とか戦地を逃れたアルスラーンダリューンとともに、エラムに導かれてナルサスのもとを訪れ、ナルサス登場の場面で1巻は終わる。
ナルサスは登場前から原作以上に「絵が下手」という特徴が前面に出されているが、漫画ゆえのキャラクターの味付けなのかもしれない。
当然、序盤の序盤で主要キャラクターで登場しているのは限られるが、そうなると、初回で登場する「ルシタニア人の捕虜」を、荒川弘が重要人物として位置付けて物語を組み立てているんだなあということが分かる。巻末対談での発言によれば、荒川弘は既に漫画版のエンディングを決めて、そこから逆算してキャラクターのイメージを全て作っているとのことなので、「彼」は最後の方まで絡んでくる人物なのかもしれない。
先回りして原作13巻(「蛇王再臨」)を読み終えたばかりの自分には、非常に興味深い部分だ。