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天下一品のような中毒性〜西尾維新『きみとぼくの壊れた世界』

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

きみとぼくの壊れた世界 (講談社ノベルス)

きみとぼくの壊れた世界

きみとぼくの壊れた世界

西尾維新初体験。
最近では『アルスラーン戦記』で慣れたにしても、そのボリュームから未だ苦手意識のある上下二段のノベルズ方式。
しかし、さすがベストセラー作家というべきか、そういった心配は杞憂に終わった。
最初こそ、そのあまりに特殊な登場人物名と立ち過ぎたキャラ、特殊な主人公の兄妹設定、そして、ロジック過多な心理描写におろおろしたものの、最後には慣れた。いや、味が濃すぎて体に悪いことがわかっていても、どうしても食べたくなる、天下一品みたいな感じの読書になった。
中でも、普通の小説を読んでいたら絶対に出てこない名前とキャラ設定の病院坂黒猫。病院坂(表紙の女の子)は、常にジャージかブルマの体操服姿で、一人称が「僕」。極端な人間嫌いで、体力もないため、保健室に引きこもっているが、学年トップの頭脳で、学内で起きた殺人事件を解決する、いわゆるアームチェアディテクティブ。
主人公の櫃内様刻(ひつうちさまとき)は、純朴で周りに翻弄されるような普通の主人公タイプのキャラクターではなく、計算ずくで生きようとする、こちらもロジック野郎で、様刻の病院坂評が、小説の冒頭からラストまで大きく動くのがいい。そして、最後の最後まで病院坂がどのような女性なのかについては謎を残したままとなる。


人間関係だけに目を向けると、様刻の妹・夜月への思い、同級生・琴原りりすへの思い、そして、病院坂への思い、それぞれが予想も出来ないような変化を見せて、最後に奇妙なところに着地するジェットコースター小説、という見方もできるが、推理小説としては、探偵クイズのような「本格」タイプ。心理描写が多過ぎて隠れ蓑になっているが、言われてみれば、解決のためのヒントは全て読者に提示されており、非常に丁寧なつくりになっている。
ミステリの中ではよくあることだが、作中でミステリ談義(パズラーや本格などの歴史と位置づけ)をぶっておいて、それが結局この小説を援護するような論になっている。その部分が情報過多なところも楽しい。
「もんだい編」「たんてい編」「かいとう編」に分かれた構成も親切。自分にとっては、この問題を抱えたままシリーズ次作に続くの?と一番驚いたのは「かいとう編」のあとに書かれている「えんでぃんぐ」だったが。


もともと「掟上今日子」シリーズがドラマ化したことから、興味が湧いた西尾維新だったが、これなら次作以降も大丈夫そう。まずは、このシリーズを読み進めて行きます。