- 作者: 田中芳樹,丹野忍
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2008/10/07
- メディア: 新書
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この巻では、ついにパルスのいわゆる「十六翼将」が勢揃いする。
- ナルサス
- ダリューン
- キシュワード
- ギーヴ
- イスファーン
- ザラーヴァント
- トゥース
- エラム(最年少18歳)
- クバード(最年長36歳)
- ファランギース(女性)
- アルフリード(女性、ゾット族の族長)
- メルレイン(アルフリードの兄)
- グラーゼ(海上商人)
- ジムサ(トゥラーン出身)
- ジャスワント(シンドゥラ出身)
- パラフーダ(ルシタニア出身)
多様性に富んだ人選は、いかにもアルスラーンらしいが、ルシタニア代表としてパラフーダが入るとは全く予想をしていなかった。ルシタニアといえば、当然あの人が…。
(以下、ネタバレを気にしない細かいあらすじ)
- 第一章 地上と地獄
- チュルクでは、シング将軍と義弟のバッサルのパルス潜入失敗を受け、それぞれの息子ジャライルとバイスーンがカルハナ王からアルスラーン暗殺の勅命を受ける
- カルハナ王を信じられないジャライルは、パルスへの道すがら喧嘩からバイスーンを死なせてしまい、そこでイルテリシュと魔道士ガズダハム、レイラの3人と出会う
- ジャライルからの話を聞き、イルテリシュは、カルハナ王を討ち、チュルク国と仮面兵団(トゥラーン兵)をしたがえてパルスへ侵攻するというプランを思いつく
- 3人は魔の山で、ザーハックの魔影を見る。ザーハックは宝剣ルクナバードでしか切れない鎖一本で何とかその地に縛られていることから、蛇王の代理に飽きたイルテリシュが鎖を切ろうと考える
- 第二章 北の混乱、南の危機
- 第三章 雨の来訪者
- 第四章 悩み多き王者たち
- 第五章 蛇王再臨
- チュルク国のカルハナ王もペシャワールの状況を知り、国境付近に軍を終結させる
- ザラーヴァントは、捕えていた魔道士グンディーを案内役に、王都の地下にある暗黒神殿の再捜索に向かうが、有翼猿鬼の手を借りて逃げようとしたグンディーは殺されることに。
- その後出会った片腕の有翼猿鬼を従兄弟のナーマルドのなれの果てと知ったザラーヴァントは、油断して背を向けたところで、ナーマルドに刺され、十六翼将は、たったの20日間で十五翼将となってしまう
- デマヴァントの魔の山でペシャワールの状況を知った魔道士ガズダハムだが、それをイルテリシュには伝えず、蛇王再臨に専念する
- 魔道士やイルテリシュは触れられない鎖をジャライルはひたすら削りつづけ、ついに蛇王を縛っていた鎖が切れる。
何と言っても驚きだったのは呆気ないエステルの死。仇敵であるルシタニア人だからアルスラーンがいかに惹かれていても、結婚するのは難しいと分かってはいたが、例えば、アルスラーンの窮地に身代わりとなって死ぬなどのドラマチックな形ではなく、病死(しかも原因は最低最悪の人物であるルトルド侯爵)で命を落とすなどとは、まさか思いもよらなかった。
作中でもナルサスはこう言う。
以前もいったと思うが、エステルという娘に対する陛下のお気持ちは、まあ恋だの愛だのと称する以前の段階だった。あの娘がパルスに残っていれば、深い想いが時間をかけて育まれたかもしれない。ルシタニアへ去って、そのまま二度とパルスにもどらなければ、一時の想い出で終わっただろう。ところが彼女はもどってきて、すぐに、永遠に消えてしまった。(中略)
エステルという娘の死の意味は、けっこう大きいのだ。というより、今後、大きくなっていく。陛下が女声に接するたび、エステルの幻影が眼の前にちらつくようになる p186
アルスラーンの結婚や女性関係については、今後おめでたい展開が期待出来なくなったとともに、前の巻の記述から考えると、最後の最後にナルサスも命を落とすという、なかなか暗い終わり方になるようだ。
田中芳樹自らが完結を宣言している16巻ではどのような世界になっているのか。
なお、「死んだ一案だ、忘れてくれ」(p184)とナルサスが言った案に、アルスラーンとタハミーネの娘をむすびつけようとするものがあった。(つまり入れ替わりになった二人を結婚させる案)しかし、ここでもダリューンがいうように、イルテリシュと結びつきの強いレイラは勿論、かつてザンデの愛人で今はパラフーダの事実上の妻であるパリザードは、どちらもアルスラーンの妃には適さない。物語の今後を考えても、タハミーネの娘は、第三の女であるフィトナであり、最終的に、タハミーネ、ヒルメス、フィトナが、アルスラーン軍と争う展開になるのかもしれない。
話自体は盛り上がってきたが、エステルの死が落とす影は意外に大きい。