天鳴地動(てんめいちどう) アルスラーン戦記14 (カッパノベルス)
- 作者: 田中芳樹,丹野忍
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2014/05/16
- メディア: 新書
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2015年11月の現時点でのアルスラーン最新刊だが、とにかくAmazon評が低い。
前作も評価は若干低かったが、自分は筆力の衰えなど感じず十分楽しめたのだから、今回も楽しめるはず。昔からの読者は求めるものも高いから仕方がないのかなあ、と思っていた。(以下、ネタバレ全開です)
しかし、実際に読んでみると、Amazonの低評価に納得。
何を急いでいるのか分からないが、主要キャラクターがどんどん消えていき唖然とした。前巻の彼女のように不慮の事故が原因で亡くなることも確かにあるだろうが、物語の中の話なのだから、変なところでリアリティに配慮しないで欲しいと思ってしまう。
さらに13巻に書かれた内容から考えるとナルサスが終盤に亡くなることが予言されているためか、エラムシフトもあからさまだ。あと2巻で完結を迎えることになっているようだが、火山噴火という自然災害の中でも最も凶悪な部類のものと、蛇王再臨が重なって、物語は一気に暗い方向に向かっていく。先日、火山学者の鎌田浩毅が、富士山が噴火したら、それによる実災害と同じくらい、日本人全体への精神的インパクトが心配と言っていたが、物語の中で起きているのはまさにそういうことで、不安を感じた民衆から国王であるアルスラーンへの批判が起きている。
このような緊急事態だからこそ「十六」翼将が協力して国王を支えていく流れが重要になるのに、こうも人が死んでしまうと、読んでいる方まで気が重くなる。
ラジェンドラが登場するのは、一種の清涼剤。この巻の悪い空気を中和させるために登場させているのではないか。こうなると、十六翼将は最後何人が生き残るのだろうかと思ってしまう。
ネットを見ると、田中芳樹は「皆殺しの田中」という異名を持ち、過去作品でも、かなりの数の主要登場人物を殺めた実績があるようだが、銀河英雄伝説を読んでいた高校時代にはそこまで感じなかった気がする。登場人物が多い作品は「そういうものだ」と思っていたのかもしれない。
次の15巻は、「皆殺し」*1を前提で、心の準備をしてから読むことになるので、少しは評価が和らぐかもしれないが、やはり自分にとって13巻〜14巻の流れは強烈だった。
- 第一章 ラジェンドラ王、困惑す
- カーヴェリー河を渡ってペシャワールへの道を急ぐラジェンドラは、少し前に美貌を誇るサリーマ(ラジェンドラと王位を争ったガーデーヴィの元妻と、国内にとどめているチュルクの王族カドフィセスを結び付けようと考えた。
- ペシャワール侵攻の準備を進める中で、ラジェンドラは、ペシャワール入城後にチュルクへ凱旋する計画をカドフィセスに打ち明け、サリーマにも承諾させていた。
- ペシャワールについてみると、城の荒廃が激しいことに気が付く。さらに、地震が起きた直後に、魔軍の襲来を受け、その独特の投石攻撃によってラジェンドラは象四百頭と五千の兵をを失うことに。一方でチュルク軍はほぼ全滅。
- パルス軍のペシャワール放棄の意図に気が付いたところで、二度目の地震が起き、シンドゥラ軍はさらに三千の兵を失うことになった。
- 噴火を続けるデマヴァント山では魔道士ガズダハム、魔人イルテリシュとその妻レイラ、そしてチュルクのジャライルがいるところに、有翼猿鬼が、蛇王の餌に、と、倒したばかりのチュルク兵を連れてくる。
- 蛇王のためにパルス征服を望むガズダハムに対して、イルテリシュはチュルク侵略を決心する。また、噴火口近くの柩を安全な場所に運ぶ際に、中の遺体の人物を見て驚く。
- 戻ってきた魔道士グルガーンは、蛇王復活を喜ぶガズダハムに、復活は不完全で喜ぶのは早いと説く。7人いた魔道士の最後の2名が彼らだ。
- ラジェンドラは宮廷書記官アサンガにパルスへの親書を送ることを申し付けたあと、臣下パリバダ将軍の残忍な性格を知り、恐怖をおぼえつつ、チュルク、パルスとの今後に思いを馳せる。
- 第二章 金貨の価値
- 円座の間で国王アルスラーンを囲む十六翼将。ミスルで王位の交代があったことや、ペシャワールにシンドゥラ軍、チュルク軍、魔軍が訪れたことを知る。そこにラジェンドラ2世からアルスラーンあての親書が届く。
- アルスラーンに恩を売る内容のラジェンドラからの親書に対して、ナルサスは金貨三万枚を送ることを提案し、エラムにも意見を求めた上で、アルスラーンの了承を得る。使節団はダリューン、イスファーン、ジムサ。
- 使節団は、途中、ソレイマニエで、大陸公路が寸断されていることから民衆が不満を募らせていることを実感しつつ、ペシャワールに到着。ラジェンドラに挨拶をするダリューンに向けてバリパダが矢を射るというハプニングが起きる。帰路で彼らはイルテリシュ率いる魔軍がチュルクに向かうのを目撃する。
- アンドラゴラス3世(アルスラーンの父)の柩が暴かれ、遺体が盗み出された事件を出世のチャンスと目論むカーセムとパリザードの町中での会話。
- 大陸公路の修復について、海路に重心を移し、ギランとの街道に力を入れるべきと主張するエラムに対して、アルスラーンは、歴史文化的な意味や、民衆からの信頼を考えて、修復は必須と説くのだった。
- 第三章 天鳴地動
- 天然の要害と言われたチュルクの首都ヘラートが、魔軍の空からの襲撃を受ける
- ジャライルは捕えられた家族を牢から出してやる、も、カルハナ王に襲い掛かられ、母を失う。カルハナ王に押されるジャライルだったが、イルテリシュがカルハナを討つかたちに。
- 王を倒したイルテリシュは、トゥラーン時代の臣下バシュミルに命じて、チュルクの文官を集め、国庫の中の財宝は一割を残して、将兵と庶民に与えるように指示する。
- 様々な思惑があり、イルテリシュの監視役の魔道士はガズダハムからグルガーンに交替。ガズダハムは有翼猿鬼をしたがえてパルスを襲うこととなった。
- ソレイマニエの町で大陸公路の修復をするダリューンとジャスワント、パラフーダ。ガズダハム率いる有翼猿鬼たちが空中から彼らに襲い掛かる。
- しかし、それは魔軍を誘い込む罠で、パルス軍は、矢じりに芸香(ヘンルーダ)が塗り込められた矢を打ち、魔軍は劣勢。大籠から地上に落とされたガズダハムは、パラフーダによって斬られてしまうのであった。
- ジャライルは家族を連れて田舎に帰ることに。ジャライルとイルテリシュのやりとりを見ながらグルガーンは、再度、「硝子の小瓶」を使うことを決める。
- チュルク国内の完全支配にイルテリシュが頭を悩ませる中、アルスラーンは、大陸公路のこれからと、エクバターナの生命線となっている港町ギランについて諸将と議論し、ソレイマニエとギランを結ぶ街道を回収することを決める。
- キシュワードと、(海を見たことのない)ジムサ、ファランギース、メルレインがギランに行くことになったその頃、エクバターナを大きな地震が遅い、大理石の柱の下敷きになってトゥースが命を落としてしまう。
- 第四章 血の大河
- 第五章 風は故郷へ
参考(過去日記)
*1:最近のニュースで18782+18782=37564という足し算を「嫌な奴」+「嫌な奴」=「皆殺し」と教えていた小学校教師が話題になったので、皆殺しと聞くとそれを思いだしてしまう…。