Yondaful Days!

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2作目ならではの展開〜西尾維新『不気味で素朴な囲われた世界』

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス)

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス)

時計塔が修理されない上総園学園の2学期の音楽室。
そこから始まった病院坂迷路と串中弔士の関係。歪な均衡を保つ学園の奇人三人衆、串中小串、童 野黒理、崖村牢弥。そして起こってしまった殺人事件。迷路と弔士による探偵ごっこの犯人捜しが始まり、崩れたバランスがさらに崩れていく……。これぞ世界 に囲われた「きみとぼく」のための本格ミステリ!

前作が意外にも正統派出題形式ミステリだったシリーズ2作目。
しかし、前作の主人公である櫃内様刻も、探偵役を務めた病院坂黒猫も登場しない。そもそも高校内で事件が起きる前作と違って、『不気味〜』の舞台は中学校。つまり、冒頭を読む限り、繋がりがまるで無い。
今回の主人公は中学一年生の串中弔士(くしなかちょうし)。姉の串中小串(中3)との仲の良い様子は、前作の櫃内兄妹をイメージさせる。作者が好きな設定なのか…。
しばらく読み進めると、病院坂姓の中学2年生女子が登場。その名も病院坂迷路。


壊れたままの時計塔のある上総学園を舞台に、UFO研の奇人三人衆、串中弔士の同級生女子、ねじれた関係の中で殺人事件が起き、迷路と弔士は何とかそれを解決しようと挑む…。


(以下ネタバレ)



今回は前作のように正統派ではなく、メタミステリというべきか。
探偵役の交代という裏技に意表を突かれ、終わってみれば、つまり前作と類似した設定自体がミスリーディングになっていたのだと気が付く。
今回、前作を読んでいたからこそ、(前作の主人公兄妹と同様に)串中弔士&小串(こぐ姉)の姉弟は最後まで生き残るだろう、と思い込んでしまったが、小串は第一の事件の被害者となる。
また、主人公(ワトソン)と探偵役(ホームズ)として、弔士と迷路がいて、二人が謎に挑んでいく物語だと思い込んでしまったが、終盤でホームズ役が呆気なく死んでしまう。
特に、病院坂姓は探偵役のサインと思い込んでいたので、彼女が犠牲となり、探偵役が代わるというのは想定外。
そこで登場するのが、病院坂迷路とは従姉関係にあたる病院坂黒猫
情報収集能力に優れており、聞き上手の黒猫は、事前情報と弔士との話だけから事件の真相に到達してしまう、という究極のアームチェアディテクティブ。
そして真相は、語り手(弔士)が真犯人、という古典的だが破壊力の強いオチ。ラストの探偵VS犯人の直接対決は緊張感のある名場面。
しかし、弔士は直接手を下していないために、罪を問われないまま、黒猫のライバルとして今後の直接対決に期待を残す終わり方となった。


なお、結局本編の展開と直接関係してこないが、面白いのは迷路がひとことも喋らないまま弔士と濃密な会話を果たすということ。名人芸のようなレトリックに唸ります。
次作は一作目の櫃内&黒猫コンビの話のようでこれも期待。4作目くらいでまた、黒猫VS弔士対決が見られるのか。