Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

切実な思いのこめられた啓蒙書〜西原理恵子・吾妻ひでお『実録!あるこーる白書』

『アル中病棟』の吾妻ひでおと、依存症の夫(鴨志田穣)を支えた西原理恵子に加え、やはりアルコール依存症を克服して、国のアルコール依存対策にも関わっている月乃光司による対談集。
最初に「実体験者だからこそ伝えられる、エンタテインメント啓蒙書」と書かれているが、ひとりでも多くの人にアルコール依存症の知識を身に付けてほしい、つまり啓蒙したいという意図が非常に強く現れており、そういう意味で、読む前に想定していた「エンタテインメント」感は薄目。
以降は、対談の中での頻出重要単語を取り上げながら、アルコール依存症に関する知識メモとして整理した。

アルコール中毒

『アル中病棟』の感想のときには、タイトルに入っているのであまり意識していなかったが、「アル中」という言葉は、現代では差別表現に含まれている。また、「中毒」という言葉は、厳密には急性中毒のこと(一酸化炭素中毒など)を指すので、「アルコール中毒」という呼称自体が俗称。
したがって、「アルコール依存症」という言葉が正しいのだが、本の中では「依存」という単語が、「本人がだらしがなくて酒に頼っている」と思われかねないため、他の呼称を考えた方が病気の理解が進むのではないかという話が4章で出ている。(例えば、精神分裂病統合失調症と呼称を改めたように)

底付き

依存症は「否認の病」であると言われ、依存症者は自発的な意志で酒量をコントロールできているとして、ギリギリまで依存症であることを否認する。勿論それは、依存症を認めたら飲酒が続けられないということがわかっているので「気づいてはいるが、認められない」という状況がほとんどだ。
これに対して、もう自分の意思ではどうにもならない酷い状態であると悟ることを「底付き」といって、それがあってはじめて治療(断酒)が開始できるようになる。
しかし、西原理恵子の元旦那の鴨ちゃんも結局、ガンを患って死ぬ間際になってから底付きに至ったように、底付きは、本人にとって生と死の境だったり、周囲の人間にとってもどん底の状態だったりする。そこで、最近では認知行動療法などで、底付きに至る前に断酒の方向に話を進めやすくする取り組みが進んでいる。ただし、経験者からすると、「底付き」という絶望を通らずして依存症者が断酒を続けることは難しいと感じているようだ。
(P70)

イネーブラー

助長者の意味で、依存者の被害に遭いながら、依存者を助けるつもりが、間違った支援をしてしまい、結果的に病気の進行に手を貸してしまっている人のこと。ほとんどの場合は配偶者や両親で、「自分がいないとこの人はダメ」と思うことに満足して、その状況に依存している共依存のタイプの人が多い。
反対に、解決の糸口となりえる存在をキーパーソンと呼び、イネーブラーがキーパーソンになることも多い。イネーブラーも依存症の人と一緒になって現実を直視していないことが多いため、まずは周囲の人が現実を直視し、早く底付きに持って行けるように、支え過ぎないことが共倒れを防ぐためにも重要ではないかとしている。具体的には、状況によっては家族が一時避難することも「家族を見捨てた」と考えずに積極的に選択すべきで、これについて西原理恵子は以下のように書いている。

依存症の家族は、同じ難破船で遭難してる状態なんです。だから旦那を蹴って、子どもを持ってこの木切れで向こうに行ってください。p119


今回読んでみて、アルコール依存症は病気である、そしてそれは治らないということ、また、当事者でない立場では少なくともそこは抑えておく必要があることを再認識した。
特に以下の部分は印象に残った。

コントロール喪失になるまでの過程はさまざまだと思うんですけど、そうなってしまうとあとは肉体的な反応なんですよ。僕は「依存」と「依存症」の区別をちゃんとつけたほうがいいんじゃないかと思います。例えば、吾妻さんも僕も今はアルコールに依存してないじゃないですか。でも、ふたりともアルコール依存症者ですよね。それは体内的に”コントロール喪失”って体質を持っているということなんです。(略)
自分でも今はお酒を飲んでいないので、「治った」と言ってしまうんですけど、ほんとは「精神的な依存は治ったけど、肉体は変わっていない、だから飲まない」なんです。(p112 月乃光司

最後にもう一度確認させて頂きたいんですが、アルコール依存症に「軽い」「重い」といった区別は存在しないということなんですね。(略)
(月乃)その例えでいえば、妊娠一ヶ月でも三ヶ月でも妊娠で、妊娠してるってことは必ず出産にまで至るんですよ。途中で戻れないんですよね。はじまったらもう進行するだけなんですよ。(p213)


なお、アルコール依存症に苦しんだ多くの著名人や書籍の名前が出ており、これまでも読む本リストに挙がっていたものも多い。西原理恵子の本もちゃんと読んでみたい。
あと、本書の中で取り上げられている本ではないけど、Amazon評で(依存症の取り上げ方が軽いと)厳しい意見を言われている『アル中ワンダーランド』も読んでみたい。


補足

この本の中の西原理恵子さんの一言をツイッターで呟いたところ、ものすごい数RTされました。ツイッターってやっぱりちょっと怖いところあるな…。