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好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

きっと大事なのは最高の恋〜山崎ナオコーラ『ボーイミーツガールの極端なもの』

ボーイミーツガールの極端なもの

ボーイミーツガールの極端なもの

最近、ずっと1月に発売された岡村靖幸の11年半ぶりのオリジナルアルバム『幸福』を聴いている。
先行シングル「ラブメッセージ」の中では一番最後にこう歌われる。

いつまでも人生は きっと 大事なのは最高の恋

岡村ちゃんらしくて、いい歌詞、いいメロディー。


今回読んだこの本は、そんな「ラブメッセージ」の歌のイメージとマッチした小説。
9話収録のオムニバス形式の作品だが、それぞれの話の主人公同士がお互いの話に出てくるので、多角的な視点で、ひとつの出来事を眺める楽しさがある。たとえば第1話〜第3話は同居する年の離れた3人の女性の話。第4話〜第6話は、男兄弟とその両親。第7〜第9話は女性アイドルと付き人、そして男性タレントの話。大きく3つに分かれる話もそれぞれがリンクしていたりする。
エピローグでは、多肉植物屋「小さい森」の店主ピエールが登場するが、すべての話で「小さい森」のサボテンが贈り物として登場し、物語の途中にサボテンのカラー写真とその解説が挟まる。
なぜサボテンなのかという意味付けについてはエピローグで少し明かされるが、その意味がなくても物語全体の雰囲気に合っていて、ストーリーを邪魔しない程度の存在感。しかし読者としては、色々なタイプのサボテンに見惚れるという楽しさもあった。


山崎ナオコーラと言えば『人のセックスを笑うな』が頭に浮かぶが、この本も書名が印象的。しかし、掌編ひとつひとつには、それ以上に破壊力のあるタイトルがつけられている。

  1. 処女のおばあさん
  2. 野球選手の妻になりたい
  3. 誰にでもかんむりがある
  4. 恋人は松田聖子
  5. 「さようなら」を言ったことがない
  6. 山と薔薇の日々
  7. 付き添いがいないとテレビに出られないアイドル
  8. ガールミーツガール
  9. 絶対的な恋なんてない

特に「処女のおばあさん」と「付き添いがいないとテレビに出られないアイドル」はタイトルを見ただけで頭の中で物語が動き出しそうなくらいの威力を持っているが、内容的にはそれほど「極端」ではなく、とても優しい話になっていると思う。
とはいえ、書名で書かれてあるように、この本は紛れもなく「恋」を扱った小説。内容もだが特にタイトルがとんがり過ぎているので、読んでいる途中で、「なんとなく」「それっぽく」書いた小説なのかなと思ったが、7〜9話の流れからのラストの盛り上がりが心地よく、最近ではないほどいい読後感だった。読者に向かって投げかけるような問題意識を持った小説も面白いが、こういう風に、何も考えずに読んで爽やかな気分になれる小説も、自分は好きなのかもしれない。


小説の核の部分は9話目の主人公・俳優の俊輔が一番最後に考えたことに集約されている。

これまでの俊輔は男女が対になることを恋愛と言うのだと思い込んでいた。しかし、振られたって恋だ。想いを伝えられない片思いだって恋だろう。同性に恋をする人もいる。ひとりではなく何人もの人に恋をする人だっている。言葉も体も交わさない恋もある。絶対的な恋なんてない。ひとりひとりの、個人的な恋しかないのだ。

この小説の読後感がいいのは、基本的に扱っているのが、始まったばかりの恋、もしくは始まる前の恋だからだ。(6話目はそうではない。6話目の作中でも多くその言葉が多く使われるように「愛」を扱っているのかもしれない。)
岡村靖幸の歌も、ほとんどの歌で今から始まる恋を歌っている。『ラブメッセージ』はその最たるもの。
松田聖子に恋する話も出てきたが、岡村ちゃんを好きなのも恋。別にボーイミーツガールにとらわれず、心が弾むもの、わくわくするものを沢山増やしていくことが大切なんだと思った。

幸福

幸福