Yondaful Days!

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麗奈との時間、りんとの時間〜宇仁田ゆみ『うさぎドロップ(4)』

うさぎドロップ (4) (Feelコミックス)

うさぎドロップ (4) (Feelコミックス)

麗奈(れいな)をつれて家出をしてきた春子の打ち明け話を聞き「親になるって何だろう…」と考えこむダイキチ。りんが風邪を引いたら大騒ぎ、抜けた歯を屋根に投げるのは、時代遅れなのか!? 小さいことで焦ったりビビったりする気持ちは一体なんだろう。子育てって自分の時間を犠牲にして成り立っているものなのか? でも犠牲とかとちょっと違うような…。そんな気持ちになりつつあるダイキチ31歳の春――。(Amazonあらすじ)

この巻は、お父さんが多数登場する。春子の夫と、パパ友2人だ。最初の話でメインとなる、イトコの春子も主婦で、これまでワーキングマザー、シングルマザーに的を絞って描かれてきた漫画の対象領域が少し広がっている。


春子の回の話はなかなか辛い。夫の実家には嫁ぎながらも夫が残業続きで家におらず、実質的に麗奈ちゃんと2人家族。結婚してからずっと自分の気持ちを閉じ込めたまま暮らしてきたという春子の心の奥底が吐露される。
春子の場合は、子育てが大変なのではなく、子育てに救われている。ただ、大家族に嫁ぎながら「麗奈以外はみんな他人で敵」と言い切るのだから、全く気が休まらない中で、子育てをしなくてはならないのは、かなりのプレッシャーだろうし、この漫画で何度も出てくる言葉を使えば「自己犠牲」で成り立っている生活なのかもしれない。結婚しても子どもを産みたくないという、カズミ(大吉の妹)の子育て観は、春子を見ているからこそ出てくるのだろう。


それにしても、毎日離婚のことを考えているにもかかわらず、春子の取る選択は「現実的」だ。この漫画のキャラクターは大体において、こういう「アンチ」ドラマティックな判断をする。(そして、登場した旦那さんが、ちゃんとした人っぽいのが、また居たたまれない…)

離婚したくもなるよ…
でもね あたしにとって それは現実的じゃないの
麗奈のこと考えて…それからあたしの生活力とか・・
そこにたどりつくまで一体どれだけモメるんだろうとか


結局のとこ…
あたしの場合は今のままでいるほうが
まだマシみたい


あたし 就職してすぐ就職決めちゃったから…
若い頃 いいお嫁さんになることしか考えてなかったからね
それしかないんだよ…
麗奈を守る方法もそれしか…

「なあんにも感じないようにしていれば多少のことはやり過ごせるし」と言って、(辛い結婚生活の中で)麗奈と生きていくことを決めるこの巻の春子は、大変な中でやりくりしている人が多いこの漫画の中でも一番辛そうだ。5巻まで読んだ限りだと、10年後の春子はまだ登場していないが、どんなにスッキリした顔をしているのか見てみたい。



そういった「犠牲」話を相殺するように後半では、子どもといる時間は自分の時間を削っているのではなく、「それも自分の時間」とポジティブに捉えるコウキママと2人のパパ友の話が出てくる。
大吉は、そういった子育ての問題を、途中参加の立場で、いわば訪日外国人が日本を語るように、しがらみから離れて見渡す。そういった観察者の立場は、大吉の性格と合っているのだろう。そして、りんとの時間は「犠牲」じゃないと言い切るのも気持ちがいい。
結局のところ、子育てというのは、親にとって忘れかけている「成長」というものを実感させてくれる貴重な時間なんじゃないかと思う。りんの前歯が抜けるエピソードで終わるこの巻は、そういった「成長」にフォーカスが当たっていたし、作者の狙いもそこなのだろう。


子どもの病気の話で、今回は後藤さんも登場。後藤さんいいね。
あと、風邪をひいたコウキママ、いいね。