Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

なぜ?の嵐〜宇仁田ゆみ『うさぎドロップ(5)』

第二部スタート!! 亡き祖父の隠し子・りんと暮らし始めてから10年…俺も保護者としちゃけっこうなベテランだ――。りんは高校1年生に、ダイキチは独身のまま40歳に。同じ高校に進学した幼なじみ・コウキとの関係に揺れるりん。ダイキチはダイキチで二谷さんと微妙な雰囲気!?(Amazonあらすじ)


Why japanese people!?
…と厚切りジェイソンのように吠えたい気分になる、まさかの10年後。(4巻最後にはそんな雰囲気は微塵もなかったのに…)
月日が過ぎただけでなく、物語の構造が大きく変わった。
「観察者・大吉が見た子育ての世界」という大枠が、この巻には感じられない。高校生の恋愛に思春期の子を持つ親たちの視点が加わったという感じの話になっている。4巻まで、どこか「よそ者」的だった大吉も、10年経つとほぼ父親だ。
コウキとの会話の中からコウキママ改め二谷さんの気持ちがよく分かるepisode27を含め、りん、コウキなど、大吉以外のキャラクターの内面が多く語られる、かなり普通のスタイルの漫画になって来た。
勿論、それまで4巻の積み重ねがあるから、面白くないはずがない。でも、「30歳独身男性が体験する本当は怖い子育ての世界」風の物語が突然終わってしまったことは少し残念だ。


とすれば、3巻以前までに登場せず(もしくはなりを潜め)、この巻から出てくる恋愛要素が、作者がこの作品で描きたいことなのだろうか。
10年が経過した原因として、主人公・大吉の恋愛をメインで描こうとした場合に、大吉が二谷さんに告白するには、少し月日が必要だと考えた部分はあるかもしれない。しかし、大吉が告白したのは、りんが中学生の頃で、物語の現在はその2〜3年後。大吉の恋愛は休止中。(というか、コウキ話によれば「金森さん」なる人との再婚話が浮上中)
とすると、やはり今回登場ページ数を格段に増やしたコウキに主人公が移るのだろうか。
まあ、りんが幸せになって欲しい。ただそれだけなのだが、恋愛以外の大きなテーマがある作品だから、上手くまとめて欲しい。


その大きなテーマであるはずの「正子さん」問題についてだが、今回は、正子は登場しない。ただ、大吉が二谷さんの仕事観を聞く中で、正子との比較を考える場面がある。そう考えると、やはり「子どもか仕事か」という問題が一番そこにあるテーマなのだろう。次巻以降のバランスに期待。


少し細かい部分を。
高校生のりんやコウキ、麗奈は進路のことを気にして、就職まで見据えて進学先を考えたりする。漫画の中では「嫌なキャラ」である紅璃さえも指定校推薦を狙っている。前に、春子のことを「この漫画のキャラクターは大体において、こういう”アンチ”ロマンチックな判断をする」と書いたが、そうではなくて、自分の人生を地に足をつけて考えているということなのだろう。
だから、この漫画のキャラクター達は信用できる。
そしてその中心にいるのがりん。
りん、麗奈、コウキの3人で模試対策の勉強をするシーンがある。ここで、古文対策の会話で3ページ使ってしまうところもすごい。普通の漫画なら語形変化だけ言わせて3コマくらいで勉強してるっぽく見せるところだと思うが、語られている内容がかなり高校生の会話っぽい。作者は、塾講師とかをやっていたのかもしれないが、こういう細かい会話シーンのリアリティは、この『うさぎドロップ』で感心するところ。


Episode30では、中学1年生の頃に話が戻る。
ここで語られるように、コウキは1年生の夏休みに決定的に「不良」になってしまった。
Episode26で出てくる図書室でのキスシーンのコウキはガキっぽいから中学校に入ってすぐのことなのだろう。大吉がゲームセンターで見つけた(紅璃と一緒にいた)コウキは、髪を赤く染めてからの秋のことだろうか。
この流れで大吉がコウキママに告白するシーンが出てくるが、次巻以降も、こういう風に「空白の時間」を遡りつつ物語が進んでいくのかな。