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イギリス料理は本当に不味いのか?〜コリン・ジョイス『「ニッポン社会」入門』

「ニッポン社会」入門 英国人記者の抱腹レポート (生活人新書)

「ニッポン社会」入門 英国人記者の抱腹レポート (生活人新書)


最近、以下のような記事を読んだ。


この『「ニッポン社会」入門』で、作者のコリン・ジョイス(デイリー・テレグラフ東京特派員)は、よく日本で聞かれる「日本の料理はおいしいが、イギリスの料理はひどい」という言説について、はっきり「賛成できない」と書いている。

ぼくは声を大にして、イギリス料理は日本人が思っているよりもはるかにおいしいと言いたい。イギリス料理に欠けているのは、マーケティングと細部への気配り、それに日本人が持っているような食事への愛着、食事をたんに食べること以上の経験へと変える食への強いこだわりである。p195

作者は、このようにイギリス料理を擁護するが、特に、ベーコン、チーズ、パン、ビールは日本のものよりイギリスのものが断然おいしいと断言し、また、ロンドンは、カレーに関しては世界の首都だと胸を張っている。
一方で、上の引用部分の最後にもあるように、日本の食文化の異質な点についても述べている。

このときわかったのだが、日本人にとって食べ物とはたんに「食べるもの」ではない。日本人は食べ物について語り、楽しみ、ときには訪れたりさえするのだ。ある料理を食べることだけを(主たる)目的にして観光旅行をするなんて、イギリス人のぼくには思いもよらなかった。p193


作者が、それでも敢えて、「イギリス料理は美味しい!」と声を大にして言いたくなったのは、この話題に対する日本人のスタンスに違和感を覚えるからのようだ。本文中にも括弧付きで、本音が記されている。

  • (その口調にぼくはときに自惚れが混じっているように感じることもある)
  • (ふだんは礼儀正しく控えめな日本人が、ことこの話題に関してはひどく無礼で慎みがなくなってしまうのはいったいどうしてなのだろう?)


このように、『「ニッポン社会」入門』のいいところは、日本の良い点を沢山挙げているけれども、同時に、直した方がいい点も厳しく指摘するところで、ここでなされる指摘は多くの日本人に当てはまると思う。
最初にリンクした記事を読んで、自分はイギリスに行ったことはないけれど、特に考えずに、沢山の人がそう言っているから「イギリスのご飯は不味い」というのは確かだし、日本でのハイレベルな食事を求めるのが間違いでは?と、記事の意図通りに素直に読んだ。
しかし、よく考えてみれば「栄養失調寸前」は話が盛りすぎだし、記事の内容自体が、あまりにもイギリスを馬鹿にし過ぎだ。


少し話はずれるが、作者は、よく泳ぎに行く目黒の屋外プールで常連利用客の集団が、我が物顔で好きなように利用することについて、次のように書いている。

こうしたさほど害のない目黒のプールの利用客から本物の暴走族やヤクザに至るまで、大きな集団の悪事に対して寛容すぎるのは、日本人の弱点と言わざるをえない。まるで、大きな集団は自分の好きなように規則を決めてよいみたいではないか。p22


イギリス料理の問題とは直接結びつかないかもしれないが、特にネットでは「大勢がそう言っているから」と思考停止で、判断を「大きな集団」に委ねてしまうことはよくある。
しかし、特にネットだからこそ、量よりも質で判断しなくてはいけないし、できれば自分の頭で、もしくは実際に経験してみて考えてから判断するべきだろう。
どこまでが日本人の特質で、どこまでがネット社会の特質なのかはよくわからないが、いわゆるネトウヨ的な主張や、ブサヨ的な主張と括られてしまうようなフレーズは、判断を「大きな集団」に委ねてしまっていることの現れだろうと思う。2006年にこの本が出てから10年を経て最近出た続編では、そういった「ネトウヨ」の話は載っているのだろうか。また、東北の震災の話などの新しい話題と合わせて、2006年に書かれていた日本人の美徳は、2016年にも変わらず残っているだろうか、という部分も気になる。
是非、早いこと読んで確認してみたい。

新「ニッポン社会」入門―英国人、日本で再び発見する

新「ニッポン社会」入門―英国人、日本で再び発見する

補足

作者の感じる「面白い日本語」が、非常に良いセンついていてものすごく面白かった。(第参章:おもしろい日本語)
ここで、お気に入り日本語表現ベストスリーとして挙げられているのは「勝負パンツ」「上目遣い」「おニュー」だが、こんな言葉も取り上げられていて、心の中でスタンディングオベーションをした。(笑)

まだ辞書には載っていないが、最近、耳にしたフレーズがある。複雑な経緯を持っているが、まぎれもなく独創的な表現で、ぼくはこれについて記事を書こうとさえ思ったのだが、あいにく知り合いのイギリス人記者に先を越されてしまった。「全米が泣いた」という言い方である。p38