Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

吹っ切れるりん〜宇仁田ゆみ『うさぎドロップ(6)』

コウキの元カノ・紅璃(あかり)先輩から目の敵にされるりん。ちょいヤンキー風味の紅璃先輩はあの手この手でりんにいやがらせをするが…。〈中学生編〉を 交え、複雑な三角関係、ついに決着!! ダイキチ&コウキママのその後はいかに――!? りんとダイキチが二人三脚で歩む、癒し系・子育て奮闘記 ☆(Amazonあらすじ)

衝撃の5巻、7巻と比べると、ぼんやりした巻だと思っていたが、9巻読後に読み返してみると、7巻の展開に繋がる芽が、この巻で既に出ていたことが分かる。
前半部(Episode31-33)は、最初こそ大吉が出るものの、りんの視点の物語。しかも時間は中学1年生の頃、まだ、りんがコウキを好きだった頃まで巻き戻る。帰宅しないコウキを探しに大吉がゲームセンターに行くくだりは5巻で既に出てきたが、りんの視点で繰り返される。ゲームセンターのあとの夜中の電話のシーンまでは、りんは確かにコウキを好きだった。しかし、その後の紅璃の迷惑メール攻撃に辟易…。
Episode34では、これを踏まえて、りんが改めて現在(高1)のコウキに対する気持ちを確認している。

もぉいいや…
どうせわたしの気持ちは
3年も前に整理できてたんだから…
ぜんぶコドモの頃の話

そう、すでに整理できていたはず…。それなのに、この回でコウキが改めて告白したときに、りんの気持ちが揺れ動く様を見て、読者としては、やはり、コウキ−りんの線が復活するんだ、と安心した。


しかし、その直後に生じた紅璃の妊娠騒動(Episode35)で、完全にりんが吹っ切れてしまう。
紅璃のところに乗り込む前に、コウキの唇に軽くキスをして「中1まではずっと好きだったよ、コウキのこと」と、一方的にコウキとの恋にピリオドを打つ。この吹っ切れ方は、りん以外のキャラクターではあり得ない。
既に9巻まで読んだあとだから書くが、7巻以降の不思議な流れは、多分このときにスイッチが入ってしまったのだと思う。9巻で安原君が言うように、りんは「無理っぽい」大人びた同級生であり、自分の気持ちを分析的にコントロールしてしまう「頭のいい」人。そもそも恋愛というのは、自分の気持ちすら予測不可能な状態だが、りんは、それを受け入れることを拒否する。納得ずくで誰かに恋したい、というのが、このときのりんの気持ちなのだと思う。
このあと、「今なら理詰めじゃ負けない」と言って向かった紅璃との対決シーンでも、紅璃の上を行くが、ここで紅璃からひとつ大事なことを学ぶ。

でもすごいなーって思うこともあるの
かなわないなぁって…
やり方は好きじゃないけど…
強さっていうか生き抜く力みたいなものかなあ…
コウキもそういうの強いんだよね…
でも学校とかで他になかなかそういう子いないし…
私にも…足りてないと思うから
ちょっとうらやましいな…

あとで、大吉にそう言うように、自分の気持ちすらわからないまま人を好きになって、そこに向かってわがままに突き進む力が自分には不足していると感じた。(紅璃は、コウキのことを困らせたいのか好きなのかよくわからない)だからこその7巻以降の展開なのだろう。
そういう意味で、りんは紅璃の影響を強く受けている。


さて、表面的には、この巻の最大の目玉は二谷さんの大吉への報告。以前から言い寄られていた人と「お付き合いすることにした」というこの一言には衝撃が走った。
報告前までは大吉と良い感じで喋っていたのに…。しかも、大吉の方が早く告白しているのに…。
大吉と二谷さんは、この物語の中で、たとえ結婚しなくても、ピリオドが打たれない状況が続くと信じていただけに驚きだ。
ということで、コウキ−りん、大吉ー二谷さんの両方の線が望み薄になってしまったのが6巻ということになる。ただ、この時点では、コウキーりんの線には逆転ホームランが待っていると思っていたが…。