- 作者: 宇仁田ゆみ
- 出版社/メーカー: 祥伝社
- 発売日: 2010/02/08
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新装版 うさぎドロップ (7) (FEEL COMICS swing)
- 作者: 宇仁田ゆみ
- 出版社/メーカー: 祥伝社
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「会ってみるか? お前の母ちゃんに」ダイキチのギックリ腰をきっかけに、今後のことや自分のルーツが気になりだしたりん。ダイキチに秘密で戸籍を取り寄せようとしたけれど――。「母親」の記憶のないりんが対面したあの人が、少しずつ話す昔のことと、今のこと。(Amazonあらすじ)
いきなり10年が過ぎた5巻や、実質的な最終巻の9巻以上に衝撃を、2つの衝撃波を受けた問題の巻。
第一の衝撃波は、正子の妊娠。
この巻冒頭(Episode37)で、第二部で初めて正子が登場するも、チーフアシスタントの「彼」との会話シーン(「あの子の通帳」のお願い)のみ。そして、Episode38になって、その「彼」との間の子どもを正子さんが妊娠していることが判明!
自分は『うさぎドロップ』を既に読み終えた人たちから納得しづらい終わり方をすると聞いていたので、次のように漫画のラストを想像していた。
- この物語のテーマは親子関係にあるのは間違いないから、正子が、りんのこれからにコミットしていくような終わり方をするのではないだろうか?考えにくいけど正子がりんを引き取るみたいな形で終わるというのが、物語全体の構造から考えるとかろうじて理解できるラストなのではないか…。
しかし、この状況で妊娠、結婚という完全に想定外の展開が来てしまうと、予想が外れたことは明らかだし、幸せに向かって「イチ抜けた」状態の正子には、これまで以上に共感しづらくなる。
これに加えて、当初の主人公である大吉は、この巻では(前巻からの流れもあり)その恋が完全に終わって、健康不安も醸しつつ、この先どうするのか?というやや暗い部分ばかりに目が行くようになっている。勿論、正子は40歳での妊娠ということで、なかなかハードな状況だともいえるが、大吉とは対照的過ぎる彼女の未来を素直に祝う気になれず、困惑する。
そして、最大の衝撃波は、りんの恋愛感情。
「大吉−二谷さん」とは違って、「りん−コウキ」のラインは、回復の見込みアリと思っていたのに、この巻を読むまで一度の考えたことがなかった「りん−大吉」ラインが突如現れる…。
これだけリアルな線を外れない中で、親子関係や、家族と仕事の問題を追求してきた漫画で、ここに来て韓国ドラマみたいな唐突な展開に驚いてる。
いや、そんなことはないのではないか?改めて状況証拠を整理すると
- 麗奈の「パパが最近におう」という話に、大吉とのDNAの違いを考える(Episode37)
- 大吉が動けなくなったときに看てくれる誰かを想像したときの嫉妬に気がつく(Episode38)
- コウキママとの会話から、大吉が自分を想う気持ちを確認する(Episode39)
- 母親に会いたいと思いつつ、そのときが来て大吉と離れ離れになることを心配する(〃)
- 正子に会う前日に、自分が大吉の家の子でいいか、大吉に直接聞く(Episode41)
- 正子の話を聞いて、大吉がなぜ自分を引き取ってくれたか考え、一緒にいたいと思う(Episode42)
改めて抜き出してみると、りんが「恋愛感情」として意識しているシーンはほぼ皆無で、Episode38と42のラストだけ、やや気持ちが強い程度だ。しかし、麗奈がつき合って別れて、竹内君が麗奈と付き合おうとしてという周囲の動きと合わせると、りんが自分の恋心を意識しているのも明らかだ。
明らかなのだが、多分りんの勘違いだと信じたい。
〜〜〜〜
…という部分が読了直後の感想だが、9巻を読み終えた視点からいくつか補足。
正子の気持ち
正子について言えば、この巻で、当時の正子の行動と気持ちが色々と明らかになる。
Episode41の独白では、正子が初めて、りんのことを「りん」と言っている。
「悪くない!!」
(ムリにでもそう思ってないと)
(前に進めない)
(りんがお腹にいた17年前からずっとそう)
(多分これからもずうっと…)
その「前に進めない」という気持ちについてEpsisode42では、直接りんに詫びながらこう言う。
ごめんね…
どうしても…やりたい仕事があったの
まだこんなこと言ってもわかんないかもしれないけど…
そのとき…思っていたの…
「お母さん」になれる人はいっぱいいるけど
「あたしの仕事」を出来る人はあたししかいないって
どっちも
まったく逆だったって気づいたときにはもう…
あんたは手の届かない所にいたの
…ごめん…
なさい…
正子の言葉によれば、5歳までは正子はりんと一緒にいたという。コウキママが、コウキの世話をしてぎっくり腰をした時期もその頃で、それだけ大変な時期に、仕事を続けながら正子はりんの世話をしていたことが分かる。
最後に、正子の方から、りんに「だっこしていい?」と問いかけるシーンも含めて、読み直してみれば、母娘が初めて会って歩み寄ることができた良いシーン。でも、7巻読了後は、正子のことがどうしても自分勝手に思えてしまった。
また、妊婦としての正子初登場シーン(Episode38)での、チーフアシスタントの「彼」のセリフは、9巻で明らかにされる設定の伏線になっている。この巻で、りんとコウキが入手のために手を尽くした戸籍が、大吉の手に渡り、結局見られず仕舞いになる自然な展開も含めて、ラストのための細工は流々だ。
あの…河地さんがどう思うかは僕はよくわかんないけど
今回は前と全然違うでしょ?
父親が…
僕が…
望んだことだし
りんの変わっているところ
読み直すと、Episode37は、りんが友達がいないことがよくわかる回。
- (麗奈と話していて)わたし知らない人に話しかけられたことないもん…お年寄り以外。
- (麗奈と別れて1人での帰り道で)やっぱ友達は…多いほうがいいのかなー…?
- (麗奈が彼氏ができたかもという話を聞いたコウキから)あーそんで りん ひとりなんだー…友達少なっ!
読者側から見ると、りんはとても良い子で「何で彼氏ができないんだろう?」と思うけど、この回で、コウキと会わなくなってからはずっと麗奈と会っているりん を見ると、結局りんは親を通じて付き合ってきたこの2人しか友達が作れない。周りから見るとつきあい辛いというのが、りんの本質なんだろう。
さらに、正子との会話の中で、5歳まで一緒にいた「お手伝いの正子さん」のことを完全に忘れていることが判明。6歳の頃には「嫌い」という言い方ではあったものの記憶には残っていたcのに…。
ここら辺も含めて、やはり、りんは「難しい人」なんだと思う。この巻以降の心変わりの根本はここにある。