Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

さらに広い心を試されるクライマックス〜映画『名探偵コナン 純黒の悪夢(ナイトメア)』

ある漆黒の夜、日本警察にスパイが侵入。イギリスの「MI6」、ドイツの「BDN」、アメリカの「CIA」など各国の諜報機関、さらにはFBIの機密データを持ち出そうとするが、間一髪のところで安室透率いる公安が駆け付ける。スパイは車を奪って逃走。高速道路で安室とのデッドヒートを繰り広げ、他の車をも巻き込む大惨事になろうとしたその瞬間、スパイの車はFBI赤井秀一のライフル弾に撃ち抜かれ、道路の遙か下へ転落していった―。
翌日、コナンたちは東都水族館へ遊びにきていた。リニューアルしたばかりで大盛況の水族館。その目玉となる巨大観覧車の下で、コナンはケガをして独りたたずむ容姿端麗な女性を発見する。見ると、左右の瞳の虹彩色が異なる、通称“オッドアイ”だった。
しかし、女性は自分の名前もわからないほどの記憶喪失状態で、所持していた携帯電話は壊れてしまっている。その記憶が戻るよう手助けをすることを約束したコナンたちは、そのまま一緒に過ごすことに―。一部始終を陰で監視していたベルモット
そしてその場を後にしながらサイレンサーを取り出し、装着していたインカムに言い放った。「そのつもりよ、ジン。」


今回、しっかり事前準備ができなかったが、「黒の組織」が係わるストーリーということは知っていたので、昨年購入したコナン新聞で、黒の組織に関連する人物の情報については、あらかじめチェックしておいた。特に安室透と水無玲奈のことは全く忘れていたので、とても役に立った。
なお、今回の映画の見どころのひとつになっている赤井秀一と安室透の関係については、物語の本筋と無関係な情報として、名前がガンダムの役名+声優名に由来すること(赤井秀一=シャア【赤い彗星】:池田秀一、安室透=アムロ古谷徹)を知っておくと、映画の盛り上がりに乗りやすい。若干ネタバレがあるが、対談形式の記事もある。


以下、完全ネタバレ。




映画冒頭は、公安と黒の組織のカーチェイス。今回、警察庁に忍び込んだ相手を追いかけるのはコナンではなく、安室と赤井。追いかける側だから問題ないと言えるのかもしれないが、二人ともにド派手なスポーツカー…。
その後、追われる側の黒の組織の人間(キュラソー)が二車線道路を車の間をすり抜けながら逆走したりするのを見て、そうか、今回は、ここまでリアリティラインが緩いのか…と改めて気を引き締めた。


本編が始まってみると、リニューアルオープンした東都水族館が舞台で、施設の目玉が世界初の二輪式巨大観覧車(逆方向に回転する二輪の観覧車)というトリッキーな乗り物で、映画ファンとしては期待が膨らまざるを得ない。
つまり、今回は(施設の爆発・脱出がクライマックスに来る)「ボカンコナン」の展開になることが決定したので、物語の細かい問題は置いておいて、既に「いつ観覧車が爆発するのか」を楽しむ気持ちにシフトしていた。
以前の自分だったら、クライマックスに至るまでの以下のような展開にイチイチ突っ込みを入れて、「これはない!」「そんな馬鹿な!」「光彦君が子どもっぽさを失ってる!」と憤っていたかもしれない。しかし、何年もコナン映画を見続けたことによって、このような無理設定も些細なことと受け止められる広い心を獲得したのだ。

  • オープンしたての観覧車に乗りたいからと、すぐに鈴木園子に携帯電話で連絡をする光彦君(この手の設定は、通常ならば、鈴木園子から蘭あてにプレゼントされるか、阿笠博士が偶然入手している)
  • 水族館の入口で出会ったばかりにもかかわらず、(もしかしたら命に係わる怪我をしている可能性もある)記憶喪失女性と行動をともにして、すっかり打ち解ける少年探偵団。
  • 動く歩道から身を乗り出して、地上20mはあろうかという高所から落ちてしまう元太君
  • 元太を助けるためとはいえ、ぴょんぴょんと忍者的な動きを見せる謎の記憶喪失女性(キュラソー
  • 何とか無事だった元太とキュラソーに対して、「すみませーん、大丈夫ですかー?念のため医務室に…」で済ませてしまう東都水族館スタッフ。
  • 警察病院に入院して面会謝絶のキュラソーに会いに行きたいがために、すぐに高木刑事に携帯電話で連絡を取る光彦君
  • 観覧車で原因不明の大停電が起きているのに、水族館の営業は継続してしまう東都水族館の危機管理能力のなさ。
  • スパイ的な活動をしているはずなのに、停電の中でハンドライトひとつ持ってない安室透の準備不足。
  • 明らかにそれより大事なことがあるのに、観覧車の上部で殴り合いの喧嘩を始めてしまう赤井秀一と安室透(当然落ちたら死ぬ)


そもそも今回の映画は、黒の組織へ潜入捜査を行なっている安室透と水無玲奈の二人が、裏切り者と疑われることが全ての発端になっている。それにもかかわらず、その張本人が、変装どころかサングラス着用もせずに素顔で大立ち回りをするというのは、普通じゃ考えられないし、見抜けない黒の組織が間抜け過ぎないか…。
と、昔の自分なら思ったかもしれない。コナン君にスケボーで歩道を走るのは危険だから絶対にやめてほしいと思っていた2年前なら文句を言っていたかもしれない。
でも、コナンはそういうもの。


コナン映画というのは、言うなればプロレス。
風車の理論よろしく、コナンもしくは一般人に絶体絶命の危機が訪れて、それをコナンが秘密道具(?)を駆使して解決するという一連の流れを「よ!待ってました!」と楽しむべきものなのだ。
過程がどんなに理不尽でも、クライマックスで建物が爆発し、それを間一髪で脱出するコナンを楽しむ気持ちが必要なのだ。
これまでの映画の中でも三本の指に入るほど、物理法則を犠牲に成立するクライマックスの展開に、自分は手に汗を握って楽しんでいた。
コナンプロレス万歳!と叫びそうになっていた…。


劇場でもらう青山先生からのメッセージにはこう書かれている。

コナンの映画もついに20作目!
これもずっと応援してくれた皆さんのお陰です!
その感謝の意を込めて、今回は黒ずくめあり、FBIあり、公安ありのお祭りになっています。
なので、どうぞみなさん、踊りまくってくださいね!
でも、踊り疲れて燃え尽きないように…(笑)

そう、コナン映画とは、プロレスであり、祭りなんだ!
同じ阿保なら踊らにゃソンソンなんだ!!


と、ひとしきり感動したが、劇場を出て改めてよく考えてみると、


やはりアレはないんじゃないか?


という気持ちがふつふつと沸き上がってきた。


コナンのサッカーボールやベルトの件は、毎回物理法則を無視しているので、もうそれは良い。
そんなことで怒ったりはしない。
それじゃなくて、黒の組織が考えたキュラソー奪還作戦。
アレはどこをどう考えてもおかしい。


キュラソーを奪還したいなら、病院から外に出る際を狙えばいいし、むしろ病院内にいるときの方が狙いやすいかもしれない。にもかかわらず、黒の組織が考えた計画は

  • 捜査のために公安がキュラソーを病院から出し観覧車に乗せる場面を待つ
  • 黒の組織の3人は観覧車上空のヘリコプターで待機する
  • 観覧車が最上部に差し掛かるタイミングで、ヘリコプターを近づける
  • ヘリコプターの下部から出るロボットアームで観覧車の一室をもぎ取る。


裏切り者は殺せというようなハードボイルドな組織であるはずが、タイムボカンシリーズを思い起こさせるような「UFOキャッチャー作戦」に全てを懸ける、という、あり得なさすぎる展開に、観客はもっと怒っていいはず。第一、奪還した後がかなり大変…
加えて言うならば、(劇場内では興奮していて意識しなかったが)この後の怒涛の展開は、あまりに大味過ぎて、大のオトナが集まって作ったとは到底思えないほど振り切ったつくり。
特に、一番最後で、(不可能を可能にする)コナンの万能アイテムでも止められなかった観覧車の進行を、たった一台の重機で止めてしまう、というのも理解に苦しむ。見終わったあと、よう太に、「なんでショベルカーだけで観覧車を止められるのか?」と聞くと、「あそこでキュラソーが死ぬような展開にしないと、あとでいろいろと困るからだよ」という、聞きたくもない大人の事情的な回答をもらった。


展開以外で残念だったのが、二輪式巨大観覧車の設定が、トリックも含めてほとんど活かされていないように見えること。二輪が逆方向に回転することから、特殊な時刻表トリックを疑ったが、そういった読みは外れた。そんな緻密な物語ではない。
これについても改めてよう太に聞くと、「二輪式にしないと、動力部周辺に人が入り込んで爆弾を仕掛けるようなスペースを確保できないからじゃないか」とのこと。確かにその通り。その通りなんだが、特殊な建築物を用意しながら、それを最大限に活用するトリックを用意できないのは肩透かし過ぎる。「俺のわくわくを返せ」と言いたくなる。


ということで、久しぶりにダメ出しをしたくなった映画名探偵コナン。よう太のランキングでは、全20作中5位に入るということで、小学生的には大満足のようだ。
映画公式HPには「驚異の満足度96%(東宝初日アンケート)」などと書いてあるが、全部小学生が回答しているのだとすれば納得が行く。
コナン映画の文法を踏まえて見れば楽しめるところの多い映画だったが、あまりに大味過ぎるので、ちょっと大人には難しいかも…。
いや、無理のあるシーンも含めて全部笑って受け止められる、さらに広い心が求められているのかもしれない。