- 作者: 清水玲子
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 2013/08/09
- メディア: Kindle版
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バレエは、山岸涼子『アラベスク』からの流れなのか、少女マンガでは伝統的に用いられるモチーフなのかもしれないが、少年マンガにはまず出て来ない。
そもそも、こういう部分に少年マンガと少女マンガのスタンスの差が典型的に表れているように思う。
夢や憧れの対象である世界、つまり読者の生活とかけ離れた世界で美男美女が活躍する物語を描くのが伝統的な少女マンガであるのに対して、伝統的な少年マンガは、読者の生活と地続きの場所から始まる。たとえゴールが華やかな舞台であったとしても、「ふりだし」は、読者と同じような「日本」の学校生活だったり、家族との小市民的な生活だったりする。
だから、自分は、先日読んだ萩尾望都『ポーの一族』のような世界には、なかなか入り込めない。ログインできずに、外部から物語を眺めている感じになってしまう。そこが、一部の少女マンガに入り込みにくい原因であるように思う。
このような意味で、『月の子』を読み始めてしばらくは「ログイン」できなかった。舞台は外国で、メインキャラクターがバレエダンサー。しかも、バレエダンサー(アート)と、いわば恋敵の相手(ショナ)は、顔が似ていて髪形でしか区別ができない。
これはとっつきにくい。引っ掛かるところがなくて、ダメかも…と思っていた。
しかし、意外なところから出てくる言葉が、自分をこの物語世界に繋ぎ止めることになった。
それは「ニガヨモギ」。
第三の御使い ラッパを吹きしに
大いなる星 天より隕(お)ちきたり
川の三分の一と 水の源の上に隕(お)ちきたり
この星の名をニガヨモギという
そう、2巻になってから黙示録の予言の話が出てくる。
つのだじろうをこよなく愛し、中高生の頃に五島勉に夢中になったオカルト大好きな時代のある自分(笑)にとっては、月や人魚、運命の相手みたいな話は全く刺さらないのだが、黙示録の話題は、とてもとっつきやすいモチーフだ。
『月の子』も、つのだじろう先生が描いていると思えば、途端に夢中になって読める話になってくる。(笑)
実際、2巻のその頃になってから話の全貌が分かってきて盛り上がっていき、3巻最後の段階では、様々な設定が絡み合ってこの物語が出来ていることが分かる。
- 人魚姫
- 人魚は、寿命が200〜800年ある宇宙人で、地球には産卵のために訪れている。
- アンデルセン童話の人魚姫(セイラ)が人間との間にもうけた子がティルト、セツ、ベンジャミン(ジミー)。
- セイラに失恋した男の人魚(ポントワ)の子がショナ
- ベンジャミンは、満月の光を浴びると女性体になる
- 女性体になったベンジャミンは、人魚姫(セイラ)と同様、人間に対しては声を出すことができない
- 黙示録
- クマノミ
- クマノミはオスとメスの両性生殖腺を持っており、群れの中で一番大きい者だけがメスになってタマゴを産むことができる。その他の魚は未成魚のまま発育しない。
- それと同様、ティルト、セツ、ベンジャミンの3人の人魚のうち、一人だけ女性体になれるのがベンジャミン。(ベンジャミンが死ねば他が女性体になる)
- 人魚姫の魔女
- ティルトには実は卵細胞がない。(ティルトだけが知っている)
- したがって、ベンジャミンが死ねば女性体になるのはセツなのだが、セツは幼い頃にティルトからうつった病で死んでしまう
- 病で死んでしまったセツを甦らせるために、ティルトは魔女(人魚姫から声を奪った魔女)に、地球を死の惑星にし、体すべてを捧げる契約を結ぶ(引き換えに、セツの復活とショナとの卵を産むことを要求)
- この契約により、ティルトは体を失い、実業家の御曹司ギル・オウエンの体を乗っ取ることになる。
- 恋愛関係
- ショナは、小さい頃から夢に出てきた運命の女性ベンジャミン(ジミー)を好き
- ジミーは、冒頭の交通事故で、自分の命を心配してくれたアートが好き
- アートは、元カノであるダンス仲間のホリーとよりを戻したが、謎の女性(ジミーの女性体)が気になっている
- 女性体になったジミーは、人間に向けては声を失っておりアートに喋ることができない
- ジミーは、ショナが自分を好きなことを知っているが、それは自分が女性体に変化したからだと考えている
- セツの解説によれば、ベンジャミンはアート(人間)との真実の愛を得ることができれば、人間になれる
- ギル・オウエン
- ギル・オウエンとなったティルトは、以前よりも「能力」が強くなっている
- ギル・オウエンにロシア語を教えているリタ(36歳女性、身長190cm)は「幻影」を目にすることができる
- ギル・オウエンは、この星の未来を決めるため、反原発団体と話をすることになる
特に、3巻最後に話題にされる外見の話は、SF設定なしでも色々なバリエーションが考えられる話で興味深い。つまり、好きな相手は、普段の自分を好きになってくれなくて、特別な状態のときの自分のみを好きだという設定。
これは、普段の北島マヤを好きなのが桜小路君で、女優・北島マヤを好きなのが速水真澄という、いわば少女マンガの王道でもある。また、自己認識と、他から求められる外見が整合しないという意味で、トランスジェンダー的な部分と類似する要素があるかもしれない。
ジミーがベンジャミン(女性体)としての自分をどう受け入れていくのか、女性体になったときにアートとの関係性がどうなっていくのか、4巻以降はその部分に注目したい。
やや反原子力という政治的な部分に目が向き過ぎると熱中できなくなる気もするが、これも(萩尾望都や山岸涼子など)少女マンガの伝統なのかもしれない。これも、どう物語に絡めていくのだろうか。
4巻以降に期待しながら、まずは途中段階での感想でした。