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檻(憲法)をどう作り直す?〜楾大樹『檻の中のライオン』

檻の中のライオン

檻の中のライオン


憲法についてよくわかる一冊で、とても勉強になった。
基本的には、自分の立場は、絶対護憲!というわけではなく、改めるべき点は積極的に改めた方がいいのではないかというスタンス。それでも自民党草案は(逐一読んだわけではないにしろ)、問題が指摘される個所を見る限り、どうしても気持ち悪さを感じてしまう。
その、一番、根本的な問題が、まさにこの本に書かれている内容だ。参院選が、いわゆる改憲勢力が、全議席の2/3を占める結果に終わったことで、これから憲法をめぐる議論に触れる機会も多くなるだろう。その意味で、憲法の勉強をするべき今、読まれるべき本だと思う。


この本では「権力(ライオン)を法(檻)で縛る」という立憲主義の基本的な考え方を中心に、以下のような憲法の全体像が第1章で示される。

  • 個人の尊重→一人ひとりみんな大切
  • 社会契約→ライオンに政治を任せよう
  • 立憲主義→ライオンは檻の中へ
  • 国民主権→檻を作るのは私たち
  • 民主主義→ライオンを選ぶのも私たち
  • 憲法→価値観の異なる人たちが、互いに尊重しあって共存する仕組み

憲法が、国民が守るべき法ではなく、国家権力を縛るためにある、という考え方は、ラジオ番組のSession22を通じて、憲法学者の木村草太や伊藤真らの意見としてよく聞いていたので、納得しやすい意見で、スッと頭に入った。


第2章では、憲法で守られるべきものを示した重要な条文が、ライオンと檻の比喩を使って示されていく。


第3章では、檻を壊されないようにするための仕組みを示した重要な条文が示される。


そして4章では、最近の憲法問題について、これまで解説してきた憲法条文をもとにして解説していく。取り上げられるのは以下。

  • 憲法96条改正論(憲法改正の手続きを、改正しやすい緩やかなものにしようとするもの)
  • 安全保障関連法制(2014年7月1日に閣議決定され、2015年9月19日に可決・成立したもの)
  • 憲法改正による緊急事態条項の創設(比喩でいうと、内側から鍵を開けられるような檻に作り直したいというもの)
  • 特定機密保護法(2013年12月に成立したもの)


特に、安全保障関連の議論の中で、慣習法という考え方や、集団的自営権を認めるとしている国連憲章との関連性についてもうまくまとめられていて納得しやすかった。
巻末には、憲法全文と、本の中で扱われているページを示した索引もついており、気になる憲法上の諸問題があれば、すぐに確認できる。これは一家に一冊あった方がいい本ではないか。


なお、ここまでの文章でわかる通り、この本は、自民党改憲草案については反対の立場で書かれている。具体的には、11、12、13、21条第2項などで、「個人」と「国家」の関係がひっくり返っているように思えると書かれている。
ただし、檻(憲法)を作り直すこと自体に反対する立場ではなく、あくまでどんな檻がよいのかを決めるのは「主権者である私たち」であるとして、エピローグで次のように言っている。

ライオンは檻をどのようにしたいと言っているでしょうか。
私たちはライオンの言うことを信用してよいでしょうか。
どんな檻にするのかを、ライオンに任せていてだいじょうぶですか?
ライオンにとって都合のいい檻になってしまったら大変です。


どんな檻がよいのかは、主権者である私たちが決めることです。
しかし、檻の意義や仕組みもよくわからないまま、いや、それが檻であることすら知らないまま、檻を改修するのは危険です。
私たちの手で檻を作りかえても、檻として役に立たないような檻を作ってしまったら、取り返しがつきません。
主催者である私たち一人ひとりが、それぞれ自分の頭で、自分や自分の子孫の問題として、真剣に考えなければなりません。


もちろん、憲法の問題を比喩を用いて単純化してしまうことで、抜け落ちる部分もあるだろうし、自民党草案に沿った改憲を求める人もいるだろう。この本とは反対の立場の本も読んでみて、「真剣に考えて」いきたいと思った。そのとっかかりとしては、非常にいい本だと思う。