- 作者: 想田和弘
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/07/15
- メディア: 新書
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とても面白く読んだ本。
面白い理由の一つは、勿論、観察映画を含むドキュメンタリーについて詳しく知ることができるという題材が興味をそそられる、という点にある。しかし、それ以上に、編集の上手さに驚く。
観察映画やドキュメンタリーとは何か、その面白さはどこにあるのか、対極にある台本至上主義とは何か、報道やフィクションとどう違うのか、という、本のタイトルから想定される内容については、非常にわかりやすく説明されている。
しかし、その文章が、2010年の作品『Peace』の制作過程と合わせて語られることによって、読者も、映画監督である想田和弘に近い視点で理解することができる。いわば頭だけでなく、身体的に理解できる。
特に、映画祭からの短編依頼から制作を開始するまでの着想の過程や、撮影途中での大きな方向転換(牛窓ばあちゃんの撮影断念、猫や橋本さんという撮影対象との出会い)については、ワクワクしながら読める。また、撮影終了後の編集作業についても、(読者が)ここまで監督の撮影についてきたからこそ、53分版と75分版の2バージョンを作成する場面の悩みなどが、実感としてわかる。
『Peace』の制作過程を抜きにして編集された本であったならば、本を読み進める原動力は知的好奇心のみしかなかったかもしれないが、『Peace』という映画作品が何処に向かうのか?その先に何があるのか?という、ある種の冒険も含んだ物語が、強く読書を駆動する。
勿論、『精神』や『選挙』など過去作への言及も多く、『Peace』だけでなく、これらの作品にも非常に興味が湧くが、やはり、読み進めて一番最後に、『Peace』が映画祭のオープニング作品に選ばれ、日本でも海外でも高評価を得ることができたことを知り、まだ見ていない『Peace』という映画が、改めて好きになる。そういう風に編集されている。そこが上手いところだと思う。
エピローグでは、映画から少し広げて文明社会について次のように論じている。
僕らが生きているこの文明社会の問題点は、とどのつまり、あらかじめ定めた旅の終着点ばかりを重視して、そこになりふり構わず、景色も眺めずに一直線に向かっていく所作にあるような気がしている。
あらかじめ定めた終着点とは、ドキュメンタリーでいえば台本だ。
(略)
ドキュメンタリー作りとは無縁の皆さんも、それぞれの住む場所、仕事をする場面で、それぞれの台本を一度捨ててみると、もしかしたら世界が違って見えるかもしれない。要は、あらかじめ定めた終着点のない旅に出てみるのだ。終着点が決まっていたときには見過ごしていた、思ってもみないような面白い景色が、きっと見えるのではないかと思う。
想田和弘さんは、twitterなどでの発言で反安倍政権の傾向が強いことから、ネット上では批判の的にされることもあるが、その思想は、ここで書かれている通り「あらかじめ定めた旅の終着点ばかりを重視」することへの抵抗の現れだろう。自分は、常に想田さんの意見に賛成するわけではないが、間違いなく、自分の頭で考えて発言するタイプの人物という意味では、非常に信頼できる人物であるということが、この本を読んで改めてよくわかった。
これまで、タマフルなどで取り上げられることもあり、興味を持っていたが、改めて映画が見たくなった。レンタルで借りられる作品もあるようなので、まずは一度見てみたい。
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