Yondaful Days!

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パリ協定と日本のこれから〜小西雅子『地球温暖化は解決できるのか』


最初に、パリ協定とは何か、について、毎日新聞の「ことば」欄から引用する。

京都議定書に代わり、全ての国が参加する地球温暖化対策の新枠組み。昨年末の気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)で採択された。今世紀後半に大気中への温室効果ガス排出を実質ゼロにし、産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑えることを目指す。各国が自主目標を掲げ、5年ごとに見直す仕組み。採択から10カ月で55カ国以上が批准し、世界排出に占める比率が55%以上に達する発効要件を満たし、発効が決まった。

このパリ協定に関しては、9月に起きたある出来事が原因で、今後の気候変動に関する取り組みは日本にとって重要な局面を迎えている。。
昨年末の採択から発効に向けた流れは、ニュースを拾い読みすると、このようになる。

  • 日本は、発効はまだまだと高をくくっており、想定外の事態(下参照)に、批准を急ぐことに。

パリ協定は当初、欧州連合(EU)が域内国の手続きを待って批准書を提出する方針だったため発効は2018年、早くても17年とみられていた。だが米中が9月初めの首脳会談に合わせて早々に批准。インドが続き、EUも域内国の手続きを待たずに批准し発効が決まった。
パリ協定の批准遅れ、「影響はない」はずがない

締約国として認められるのは批准書提出から30日後。COP22の最終日は11月18日で、その30日前の10月19日までに批准しないと日本は締約国としてルール作りに参加できない。現実には環太平洋連携協定(TPP)関連法案の審議が最優先され、19日に間に合わせる日程調整は難しい。
パリ協定の批准遅れ、「影響はない」はずがない

ということで、特に東日本の震災のあと、温暖化対策に後ろ向きだった日本の姿勢が災いして、重要なルール作りの初回には参加できないことが決定してしまっているのだ。


米中の批准のあたりから、ちゃんと勉強しなくては、と思っていたが、ちょうど7月に出たばかりのこの本(安心のブランド:岩波ジュニア新書!)に出会えたので、基本的な部分を改めて確認してみた。

気候変動に対する取り組みの歴史

この本では、気候変動に対する国際交渉がどのように進んできたのかを振り返る2章がまず面白い。下の図(本文p47)にあるように、1992年以降を大きく3つに分けて説明する。


このうち、第2段階に向けた取り組みは、2008年のリーマンショックによる経済減退で先進国が及び腰になる一方、一部の途上国が目覚ましい発展を遂げるという時期に交渉が行われている。そのため排出量削減義務を先進国だけが負うのか、途上国も削減するのか、という先進国と途上国の間での対立が深刻化し、2009年のコペンハーゲンでのCOP15が不調。翌2010年のCOP16では、何とか、法的拘束力のない「カンクン合意」が成立した。
こういった先進国と途上国の対立は修復不可能と思われたほどだったので、法的拘束力のある「パリ協定」の、去年から今年にかけての採択・発効の動きは、多くの人を驚かせたようだ。
ここではパリ協定の詳細は省くが、本を読んで、協定にはまだ決め切れていない部分がかなり沢山あり、今後の交渉が重要であること、また、批准各国の目標を全部合わせても、協定が目標として掲げる2050年でゼロという目標には全く届かないことは理解した。


なお、この交渉の過程では、日本が非常に消極的で、目標も低いせいで他国の説得に回ることもほとんどなかった一方で、EUが果たした役割が大きかったことがよくわかった。
英国離脱以降、その結束力は怪しくなってきているが、パリ協定の採択は、EUが掲げた理想が結実したひとつの形なのだろうと感じた。

日本の取り組み

第3章では日本温暖化対策とエネルギー政策について、やや否定的な観点で取り上げられている。
日本はオイルショック後、省エネに励んだため、1990年頃は世界でもトップを走る環境国だった。よく言う(やることは全部やっており省エネの余地がほとんどないという)「乾いた雑巾」は、この時期であれば当てはまる。

しかし、その後25年間にはほとんど進展がなく、むしろエネルギー効率が悪くなってしまった産業もあるのです。これに対して他の先進国は1970年には日本よりも悪かったエネルギー効率を、過去30年間で大幅に上げて、今ではほとんど日本並みか、日本を上回っているところも多くなりました。日本はもはや唯一の省エネ・世界一の国ではないのです。
p134


日本で1990年以降、省エネが進まない理由は何か。著者の小西雅子さんは、国が定める削減政策ではなく、産業界の自主的な削減の行動計画に頼ってしまっているという、日本の温暖化対策の特徴が、大きな原因だと考えている。
この本の主張は、トップランナー制度などの一部の取り組みは支持するものの、自主的な努力に任せる今のやり方は、削減実績から見ても中核の温暖化対策として位置付けるには不十分というもので、炭素税や排出量取引制度などの経済的手法をもっと取り入れるべきだと説く。
また、コジェネレーション(発電後の排熱の利用)やインバータ(需要に合わせて出力を調整)化など、工場単位でできる工夫も多い(逆に言うと、現在無駄が多い)点を指摘する。
まだまだ政府主導で排出量削減を進めていくことは出来るはずだ。
CO2排出量を2020年に1990年比で25%削減という鳩山イニシアチブは、福島第一原発事故以降の日本では到底達成できないし、目標の出し方も唐突だったが、日本が国際的な影響力を発揮するひとつの可能性としては、あり得たのかもしれない。

議論を進める上での論点整理

第4章では、これまでの議論をもとに、「私たちに何ができるのか?」を議論し、考えて行こうという流れになっており、とても教科書的な内容。
というと、つまらなくなってしまいがちだが、必要最小限の内容に抑えられた上で、議論を進める上での重要な論点が整理されていて、頭の整理になる。

  • 温暖化対策とは(1)省エネルギーを進めること(2)低炭素・脱炭素エネルギーに変えること
  • 多様なエネルギーのメリット、デメリットを考える上では4つの観点での検証が必要?安全?安定供給?経済性?環境面への悪影響

また、国際会議の交渉の中で特に重要な「公平性」の観点に立ち返っているのも良かった。2章では、「法的拘束力のある、強い条約ほど良いが、強いと参加国が減ってしまう」という温暖化条約のジレンマに各国が取り組んだ状況が描かれていたが、そこが国際的な協定の肝と言える。



あとがきでは、もともとテレビ局のアナウンサーだった小西雅子さんが、現在の仕事についた経緯についても簡単に触れられている。

この経験から、特に重要なこととして、世界に飛び出すこと、そのためには英語力とコミュニケーション力が大事だということを強調している。
勿論、この本全体の本論とは、ズレる部分なのだが、こういう話を読むと、やはり英語力はあるにこしたことはないよな、と改めて思いました。
もう少し英語を勉強します。