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前向きな気持ちはどこから生まれるか〜水野敬也『雨の日も、晴れ男』

雨の日も、晴れ男 (文春文庫)

雨の日も、晴れ男 (文春文庫)


水野敬也は、ベストセラーとなった『夢をかなえるゾウ』以来。
以前、ビブリオバトルで取り上げている人がいたので、普段は読まないタイプの本だが折角だからこそ敢えて読んでみた。
とはいえ、久しぶりの自己啓発系の本。だからと言って「けっ」みたいな感想を持たないよう、できるだけ純朴な気持ちで読み進めた。

二人の幼い神のいたずらで不幸な出来事が次々起こるアレックス。だが、会社をクビになろうとも、家が焼けようとも、妻子が出ていこうとも、彼は常に他人を楽しませ、前向きに生きていた。その様子を見た二人は、全知全能の神ゼウスの制止を振り切って…。人生で一番大切な事は何かを教えてくれる感動のエンターテイメント小説。


読後の感想としては、想像以上に「コメディ」だった。
あらすじにあるように「不幸な出来事」がベースなのにコメディだということは、読者が、主人公から距離を置いた安全な位置から、「不幸」を他人事として眺めることができるからだと思う。
つまり、主人公に共感して、主人公とともに思い悩む、もしくは、その悩みをメンター役の人に解決してもらう*1、というような「自己啓発小説」っぽいパターンではない。
むしろ、この主人公はバカなの?と、その奇想天外な行動をむしろ観察するような読書姿勢になる物語だ。だから、中盤にかかっても「笑わせる」ことに重きを置いた内容が続き、終わらせ方が気になってきてしまうほどだった。実際には、読者が身に引き寄せて考えられるラストが待っており、そういったミスディレクションは、当然、作者自身が意図しているものだろう。その意味では、ミステリ的な構造を持っていると言えるかもしれない。
「著者のコメント」では、以下のように書かれている。

もしかしたらこの本の序盤ではアレックスの奇想天外な行動を理解できないかもしれません。しかし最後には「悩み」や「不幸」にどう立ち向かっていけばいいのかをアレックスははっきりと示してくれます。この本は、できれば途中であきらめずに最後まで読んでいただけるとうれしいです。

この本の結論(ネタバレ)

さて、ネタバレの部分になるが、アレックスの物語が終わったあと、それを振り返った幼い神は、「大切なこと」に気が付く。

確かに、アレックスの行動はいつもうまくいったわけじゃない。誰かを怒らせてしまったり、悲しみに負けてしまったこともあるけれど。
それでもアレックスは、いつも人を楽しませることを考えていた。
そして、アレックスは、そうすることを楽しんでいたように思う。
だから、アレックスは、いつも前向きに生きることができたんだ。
いや、前向きに生きるっていうのは、いつも近くにいる誰かを楽しませ、笑わせ、喜ばせようとする姿勢そのものなのかもしれない。
(p233)


一番最後になって、これまでのアレックスの奇想天外な行動に一本筋が通っていることに「気が付く」仕掛けになっている。そのことがあるから、直球で「人を楽しませることが重要」と言われるのに比べて、何倍ものインパクトを持って読む人の胸に突き刺さるのかもしれない。
やはり「気が付く」というのが重要で、「気づき」によるカタルシスが、自己啓発本のポイントなんだと思う。その点は多少あざとくても良いと思う。


しかし、この本の結論には、疑問符がつく。
まず、第一に、アレックスの奇抜な言動によって引き起こされる「笑い」、というのが、読み手がそれを他人事として捉えるリラックスした部分から出てきているという点。繰り返しになるが、このことは、読者が自己の行動を(本を読みながら自分の事として)振り返り、「気づかせる」ことを目的とした自己啓発本的主題とは相性が悪いのではないかと思う。
そして、何より、アレックスが人を楽しませるために行った行動を、自分は真似てみたいと思わないので、全く説得力がないという部分が大きい。
Amazonの本書紹介部分にも引用されている部分で)水野さんは、「悩み」や「不幸」を癒すことのできる本を目指してこの本を書いた、ということを語っているが、やはりアレックスが特殊過ぎるため、悩んでいるときにこの本を読んでも混乱すると思う。


さらに、この本の核心である「前向きに生きるっていうのは、いつも近くにいる誰かを楽しませ、笑わせ、喜ばせようとする姿勢」という部分。これも少し自分の意見と異なる。(自分は、まさにそうした姿勢に欠けているので、アレックスに学ぶべき部分はあると思いつつ…。)
自分の思う「前向き」は、自分の好きなもの(未発見な部分を含む)に貪欲にエネルギーを費やせる+その喜びを分かち合える友達を大切にする…ことが前提。
つまり、これまでにも何度か引用した、小沢健二『痛快ウキウキ通り』の一節が全てだと思う。

喜びを他の誰かと分かりあう!
それだけがこの世の中を熱くする!

意図しない相手から、意図しないタイミングでフラれる「笑わせ」は、非常に不快だったりする。
それは、気持ちを共有していないから。
また、よく言われるように、誰かを楽しませようと思うなら、まず自分が楽しまなくてはいけない。
アレックスの「人を喜ばせよう」という気持ちは立派だが、アレックス自身、自分の人生を楽しむことが出来ていたのか疑問だ。自分は、アレックスみたいになりたくない。


と、少しきつい感想になってしまいましたが、ギャグは思わず笑ってしまった部分もあり、楽しい本だとは思います。この人の文章は読みやすいので、もう少し読んでみたい。これとか。

LOVE理論

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*1:『夢をかなえるゾウ』はそんな小説だったように思います。