- 作者: 宮部みゆき
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/08/30
- メディア: 文庫
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宮部みゆきの著作を読むのは、20年ぶりくらいかもしれない。
『龍は眠る』『火車』『ステップファザー・ステップ』『パーフェクト・ブルー』などの初期作は結構読んでいたが、その後、全くタイミングが合わず読まないままとなっていた。
そして、今回は久しぶりというだけでなく、時代小説。
SFと並び、自分にとってはなかなかハードルの高いジャンルである時代小説だが、今回重い腰を上げたのには少し理由がある。
詳細は省くが、9月末頃のタイミングで、(縁もゆかりもない)江東区付近の歴史について説明をしなくてはならないことになってしまったのだ。
ということで、急遽、タブレットでは、アニメ『鬼平』を見て、イヤホンでは落語を聞き、そして、読書は、本所深川を舞台にしたこの本を読んで、地域の生活を身に沁み込ませている。
さて、本の感想。
近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが……。幼い頃お美津に受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けた職人がことの真相を探る「片葉の芦」。お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられた奉公人の娘おりんの出会った怪異の顛末「送り提灯」など深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編。
まさに、この惹き文句でいう「下町人情の世界」を存分に味わえる本。
上で紹介されている「片葉の芦」が殺人事件を題材にしており、この話も含めた全7話は、いずれも「回向院の茂七」という探偵役が登場するので、江戸時代を舞台にした「ミステリ」なのかと思っていたが、そうではない。やはり「人情もの」としか言いようの無いバランス。面白過ぎない。
つまり、「問題解決」よりも、親子関係や恋愛関係など「人情」が、一番最後に残るというバランスになっている。解かれるべき謎は、「誰が犯人か」ではなく、「AがBのことをどう思っていたか」という部分で、結果として、茂七の「探偵」としての存在感も控え目になる。
アニメ『鬼平』も同様で、もう少し通常のエンタメ寄り(ということは「問題解決」より)ではあるが、やはり「人情もの」としての側面が強い。
でもって、今回、この文章を書くために、読後1週間経ってから少し読み返したが、全く憶えていないことに驚いた。(笑)
「人情もの」というジャンルが同じだけあって、落語、鬼平、そしてこの本と固め打ちした関係で話がどれがどれだか分からなくなってしまったのだった。
特に、第六話「足洗い屋敷」は、美しい義母が実は…という話で、あれ、これは鬼平で見た話では…?と勘違いしてしまうほど、ビジュアルイメージが頭に残っていた。(よくよく考えてみると、平蔵と左馬之助の初恋の人・おふさが久しぶりに会ってみると…という「本所・桜屋敷」(アニメ『鬼平』第2話)とイメージが重なったのだった)
それ以外では、第五話「馬鹿囃子」。
最近、市中を騒がせている「顔切り」。満月の夜の度に犯行を重ね、最初は麻布、次は四谷、駿河台、どんどん東に移動して、とうとう大川を越えて両国へ。次は…という満月の夜に、主人公の「おとし」は最近動きの怪しい婚約者・宗吉を思って堅川を渡り、そして、小名木川橋で事件が起きる。
この流れが、今回、目的としている、実際の場所を想像しながら本を読む、という趣旨に合っていて良かった。
関連して、こちらのHPでは、宮部みゆきの時代小説の舞台が分析されていて、とても楽しい。こういう楽しみ方ができるようになる、というのが、今の自分の、時代小説を読むモチベーションだ。
→宮部みゆき作品 お江戸お徒歩日記
なお、第五話と第四話では共通して「足入れ」という風習を題材にしており、これを批判的に見る茂七の考えも含め、この時代の文化を感じることができた。
ある娘を正式の嫁として迎える前に、短いあいだでもまず一緒に暮らして、家風に合うか、働きぶりや気性はどうかなどを見る、いわば試しの期間を設けることを「足入れ」というのである。
茂七自身は、これは感心しないやり方だと思っている。うまくいった場合はいいが、なにか不都合だと理由をつけられて縁談が壊れてしまった場合に、娘の受ける心と身体の傷が大きすぎると思うからだ。p118
宮部みゆきの時代小説は、次は、先ほどのHPにも場所が載っており、評価の高い『ぼんくら』あたりでしょうか。茂七の登場する『初ものがたり』あたりも読みやすそうです。
- 作者: 宮部みゆき
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