Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

知的好奇心は満たされるが変な本〜川添愛『白と黒のとびら』

魔法使いに弟子入りした少年ガレット.彼は魔法使いになるための勉強をしていくなかで,奇妙な「遺跡」や「言語」に出会います.最後の謎を解いたとき,主人公におとずれたのは…….あなたも主人公と一緒にパズルを解きながら,オートマトン形式言語という魔法を手に入れてみませんか?


これはまた、相当に変わった本だと思う。
もともと、最近発売された川添愛『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』(朝日出版社)の書評の中で触れられていて 「変な本」を期待して読んだが、想像以上だった。
読んだことのある本だと、この本に読書感覚は少し似ている。

10歳からの論理パズル 「迷いの森」のパズル魔王に挑戦! (ブルーバックス)

10歳からの論理パズル 「迷いの森」のパズル魔王に挑戦! (ブルーバックス)


どちらも、作中のストーリーと絡ませて、主人公に問題が出されるが、それは同時に「読者への挑戦」形式を取っている。しかし、その問題を解けない、もしくは十分に理解できない読者でも、ストーリーを十分に味わうことができる、という点も共通しており、どちらもとてもよく出来た話だ。
ただ、『「迷いの森」のパズル魔王〜』と比較すると、この本で出される問題は、日常的・具体的ではない。以下に、実際に作中の文章を挙げるが、ここだけ切り出しても全く意味がわからない。


物語のラストまで、これらの○●で作者が読者に教えようとしているものは何かという核の部分には一切触れられず、それはそれで正解だったように思う。自分は、意味が分からないなりに純粋にパズルの一種として堪能した。


ストーリーとしては、「魔法使いの弟子」である少年ガレットの成長譚ということになるが、ラストで見事に課題を解き、先生に認められるシーンはなかなかジンと来る。最後に先生がガレットに語り掛ける言葉が含蓄に富んでいる。

「馬鹿者」
「え?」
「何もかも自分でやらなければ、自分でやったことにならない、とでも思っているのか?そういうのはな、子供の発想だ。大人はそうは考えない。どんな人間にも、力の及ばない面はある。やり遂げなくてはならない仕事が大きなものであればあるほど、一人の力ではどうしようもなくなるものだ。そのようなときは、自分に何が必要で、何が足りないかを冷静に考え、頼るべき人に適切な仕方で頼るのだ。そして自分も他人から頼られたときに期待に添えられるよう、つねに力を磨いておく。自分の力の限界と、自分と他人に与えられた役割とを考慮し、日々精進する。それが大人だ」
p299

ガレットは素直な性格で、先生や親に感謝し、ときに反発しながら成長を続けるので、とても気持ちよく物語を読み進めることができた。このあとに書くように、この本は少し難しい内容なので、やや腰は引けるが、続編でのガレットの活躍も是非読んでみたい。そう思わせる物語だった。


オートマトン形式言語チューリングマシン

ところで、この物語でずっと出てくる○●が意味しているものは何か、ということになると、それこそ、副題に入っている「オートマトン」だとか「形式言語」だとかいうものになる。
作中で出される問題は、当然のことながら難しくなっていき、全16章のうち、13章まではほぼ理解しながら読むことが出来たが、14章で出される「最後の課題」については、しっかり理解できなかった。(ぼんやりと理解しているが)
16章を読み終えて始まる「解説」では、物語の種明かしとして、やっと「オートマトン」だとか「形式言語」の説明が出てくる。この中で、自分も作中の謎すべてについて深く理解できるのかと期待していたが、正直、この「解説」はかなり分かりにくいものとなっている。
この本を読むことで「オートマトンといえば、あれでしょ、ジャミロクワイでしょ」くらいの理解からステップアップできるのかと思っていたが、結局、自分の理解がジャミロクワイどまりだったことは、とても残念なことだ。
ただ、チューリングマシンの話などにも少し興味があり、それらの本を読んだときになって改めて、ここに戻って来るかもしれない。そのときに、この「解説」は、ステップアップした頭で、理解しながら読み進めることができるかもしれない。と、成長を、将来の自分に丸投げしつつ、悔し涙を流しながら筆を置く。

オートマトン

オートマトン

参考

⇒正直、この本が「数学」というジャンルに分類される意味を自分は理解していませんが、東京大学出版会のHPでは、「数学」にカテゴライズされています。