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知らない人こそ読んでほしい!〜『なみきビブリオバトル・ストーリー』

なみきビブリオバトル・ストーリー

なみきビブリオバトル・ストーリー

11月3日、並木図書館のビブリオバトルに4人の小学生が集まった。
シュートを決めるようにカッコよくチャンプ本をとりたい修。
ペットショップの子犬の現状を伝えたいと願うアキ。
恋バナの主人公へのあこがれを胸にゆれとまどう玲奈。
ケンカ中の修にどうしてもわかってほしいことがある陸。
そして、4人それぞれの思いをかけたビブリオバトルの幕があがる……


これは素晴らしい!
いろんな人にオススメしたい本です。
そして、この本がどのように書かれたのか、舞台裏を知りたくなる、そういう本でした。
というのも、この本は4人の登場人物のエピソードを4人の作家が別々に書く、競作という形式が取られているからです。4人で書いたにもかかわらず絶妙な選書。絶妙なエピソード。


どの程度までビブリオバトル関係者が打ち合わせに顔を出し、どの辺までお互いに選書について詰めたのか、よく分かりませんが、まず、タイトルは伏せたままで絶妙な選書のバランスについて。

  • 小説
  • 小説
  • ノンフィクション
  • 雑学(サイエンス)


この選書のバランスだけで、上手いし、リアルだと思いました。
子ども同士のビブリオバトルも何回か見たことがありますが、(少し慣れた)小学生がやれば、多分こんなバランスになると思います。大人同士の場合もほぼ同じですが、大人の場合、小説を避けたり、特にメジャー作品を避けたりする傾向があるので、メジャー小説2冊が登場するゲームというのは稀かもしれません。
ビブリオバトルを知らない人が、ルールだけ聞いてこの本を作ったらこういうバランスで書かないと思います。(物語4冊にしてしまうのでは…)その意味で、とてもリアルな選書バランスで、そこにまず感心しました。
ちなみに、小学生同士でやる場合、たとえ1回目は物語系に寄ったとしても、他の人の発表を見て、2回目以降は選書のバランスがガラリと変わると思います。つまり、物語系ではない方が、スキルがなくても楽しく発表できる、ということを理解して、小説は避ける子が増えるのではないかと…。自分が6年生の授業参観で見たときは、生徒たちは慣れたもので、西原理恵子や古墳うんちく本、猫本と、大人でも読みたいもの続出で驚きました。


次に、4人それぞれが本に込めた思いと選書の過程。
これが本当に見事でした。
以降は選書についてはネタバレしてますので未読の方は注意。


1人目に発表した修は、自分の読書人生を振り返って、本当に自分が面白いと思うものを選びます。修は心に決めた一冊はあるものの、クラスメイトに何を発表したらいいかを相談し、紹介された『チョコレート・アンダーグラウンド』と『都会のトム&ソーヤ』を読み3冊で迷います、この過程がとてもいい。結局、最初に思いついた『ヒックとドラゴン』を紹介することになりますが、その選択も大正解。
これに似ているのが3人目の玲奈で、彼女の場合は、最初に、知人の大学生のビブリオバトルを見て、ビブリオバトルをやってみたい、という方向から入りますが、選書は最初からブレずに、小説だけでなく、マンガ、映画DVDも全部そろえている『バッテリー』。
2人目に発表したのが、家でペットを飼いたいアキ。彼女の場合は、最初から「この本を広めたい」という思いが先行しているので迷いがありません。そして紹介するのが、ペット業界の裏に迫る『子犬工場』。詳細は省きますが発表はとても素晴らしいものでした。
そして4人目は読書家の陸。自分は4人の中では、陸を一番応援したくなりました。彼は、まず、心理学者・池谷裕二の『単純な脳、複雑な「私」』を紹介したいと考えます。以前、自分の“色弱”がきっかけで(勘違いから)仲違いしていた修に、本の中の、この部分を伝えたかったからです。

同じ赤色を見ても、自分の見ている赤色を隣の人も同じ赤色に感じているだろうか?

結局、もう少し本の難易度を下げて、発表するのは、同じ池谷裕二の『ココロの盲点』の方にするのですが、「この本を通して、自分について、知ってほしい、理解してほしい」という強く願う気持ちが、自分には刺さりました。そして、プレゼンを失敗してしまうあたりも最高です。
ビブリオバトルは勝ち負けよりも、発表時の気持ちの揺れ動きも含めて、聴いている人に向けてどれだけ思いを届けられるか、という部分こそが、面白い部分だと思っています。陸の発表は、その意味で、チャンプ本に引けを取らない発表でした。


この本の良いところは、いくつもあります。

  1. この本自体が、面白そうな本のブックガイドになっている
  2. 4人の個性が異なり、男女比も半々で、本のジャンルも異なり、読者は自分に似たタイプを探せる。また、「推し」を決めて読むことができる
  3. それぞれの発表のあと質問のやりとりがあり、4人の発表ののち、チャンプ本が発表される、というビブリオバトルの流れがそのまま再現されているので、一読すればルールと流れが理解できる、
  4. これからビブリオバトルをしようという人には、本の選び方の参考になる
  5. ビブリオバトルの何が面白いのか、という核の部分が読者に伝わる


中でも、やはり、5番目に挙げたことに尽きます。
この本を読めば、子どもも大人もビブリオバトルをやってみたくなるし、本を読みたくなります。
本の中で、「読書が素晴らしいものだ」という書き方は一切せず、4人がそれぞれ自分のペースで読書を楽しんでいる、ということも大きいのかもしれません。まさに副題にある通り、「本と4人の深呼吸」というキャッチフレーズがぴったりです。


まとめると、自分の考える、ビブリオバトルの良いところが、かなりしっかり語られている本で驚きました。児童用書籍だと侮っていた自分を恥じたいです。特に、ビブリオバトルをこれまで見る機会が無かった人にオススメしたいです。


そろそろちゃんと山本弘ビブリオバトル部の本を読まなくちゃなあ…

参考

⇒修が結局発表しなかった『チョコレート・アンダーグラウンド』の感想はこちら。『都会のトム&ソーヤ』も1巻だけは読んでますね。

⇒『バッテリー』関連の感想はこちらにまとめられています。最終巻についてはまだ書いていない…

池谷裕二作品の感想は、これしか書いていなかったか…。この人の本は読みやすいですね。

⇒ペット関連の本は、この本と杉本彩の本を読みました。『子犬工場』も是非読んでみたいですね。