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松岡茉優から目が離せない2時間〜映画『勝手にふるえてろ』


勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

初恋相手のイチを忘れられない24歳の会社員ヨシカ(松岡茉優)は、ある日職場の同期のニから交際を申し込まれる。人生初の告白に舞い上がるも、暑苦しいニとの関係に気乗りしないヨシカは、同窓会を計画し片思いの相手イチと再会。脳内の片思いと、現実の恋愛とのはざまで悩むヨシカは……。 (シネマトゥデイ

大好きな綿矢りさの小説が、気になる女優・松岡茉優の主演で映画になったということで、正月の新宿シネマカリテに観に行った。
もともと、原作は、ヨシカとイチとニが登場するという基本的なことくらいしか内容を覚えていなかったが、驚いたことに、映画を観ても、原作の内容をほとんど思い出せない。
逆に、ヨシカが歌いだすシーンや、関連して、釣りのおじさんやコンビニ店員、喫茶店のウェイトレスと話をするシーンは原作には無かった映画オリジナルだ、ということは明確に言えるので、むしろほとんどの部分が映画オリジナルなのじゃないか、とすら思えてしまう。(オカリナや火事などアパート関連のエピソードも全く憶えがない)
ただ、原作小説を読んだときの感想を読み直してみると、映画化の一つのポイントは、エキセントリックなヨシカのキャラクターを、「共感できない」「共感できる」のバランスを上手くとって見せることができるかどうかにあったと思う。
その意味で、映画版は大成功だった。
終盤で、会社に嘘の産休願いを出すなど、完全に爆発してしまうヨシカには、全くついていけず、スクリーン越しに「そこまでしなくても…」「まずは君が落ち着け」と言いたくなってしまうほど。ただ、一方で、その引き金を引いた同僚くるみの余計なお節介は、そのせいで、自分が一番知られたくなかったことを知られてしまうことになったのだから、同情してしまう。ここで、観客がしっかり同情できるようなストーリー、キャラクターに上手く作られていたように思う。
特に、ヨシカがニに心を開く流れを卓球シーンで見せて行く流れは、ヨシカのこともニのことも応援するようにして観ていた。


そう考えると、当然のことながら、ニの役割がものすごく重要で、それを演じた渡辺大知は、かなり上手い俳優だと思った。もともと、主題歌を歌うバンドの人という認識しかなかったのだが、以前から役者としても活躍しており賞も取っていると鑑賞後に知って納得した。
初登場シーン(ペンを借りるシーン)は勿論、飲み会と初デート&告白で、ヨシカに「カオス…」と言われるシーンまで、序盤はとにかく「うざい」キャラクターを演じ切った。
また、物語中盤までは、ニはイチよりも魅力が二人が対面する唯一のシーンであるタワーマンションのエレベータのシーンでは、ヨシカの気持ちに乗っかって「早く消えろ!」と思ってしまうほどだった。
ところが、ラストのヨシカの部屋の玄関のシーンでは、ニはカッコ良く見える。発言内容が若く青臭いのは全く変わらないが、観客から見ても信頼できる人物だと思えてくる。


とはいえ、やはりこの映画の魅力は、ほぼ出ずっぱりの松岡茉優
可愛い、というのとは少し違っていて、表情や表現に幅があって魅力的。目が離せない。
ただ、『桐島』のときは、あまり覚えていないし、『あまちゃん』のときは、彼女の持つ魅力の一面だけだったように思う。今、Amazonビデオで見ることのできる主演ドラマ『その「おこだわり」、私にもくれよ』も見たが、これはフェイクドキュメンタリーということもあり、素の彼女に近いのだろうが『あまちゃん』寄り。
勝手にふるえてろ』の松岡茉優の魅力は、そういった「素」から少し離れた「ぶりっこ」演技と、対極にあるキレ演技も含めた幅の広さ。そして本人がモー娘。オタクであることも知っているから、こういった「オタクっぽい美人」にも猛烈にリアリティを感じる。
綿矢りさも好きな自分にとって、永久保存したいweb対談では、綿矢りさが次のように褒めているが、まさにその通りで、松岡茉優のポテンシャルを活かし切って、作品全体の空気を生んでいたように思う。

完全に意図的にあの演技をされてるのかと思っていたので、意外です。ヨシカが喋る感じも、「こんなにきれいなのに、オタクっぽい」というのが伝わってきたし、動作もとにかくおもしろい。家でひとり凹んでるときの変な姿勢とか。日常の奇怪さと、想いを寄せるイチに会いに行くためにめかしこんだときのギャップも笑えたし。ヨシカのキャラクターと周りの人たちのチャーミングな雰囲気が全編を通してにじみ出ていて、裏切らない安心感があります。ある意味、隙がない。
綿矢りさ×松岡茉優 暴走ぎみの妄想女子に共感するのはなぜ? 映画「勝手にふるえてろ」公開記念対談#1


なお、この対談での、松岡茉優による作品解釈の言葉には彼女の誠実さを感じた。ちゃんと読んでるし、ちゃんと読めてるように思う。

私は、この作品に関して「ここに共感した」と言ってもらえるのはすごくうれしい。ヨシカみたいに、人とお付き合いするのが苦手だったり恋愛経験がない、という女子はもちろん、毎日髪を巻いてお化粧もばっちりしてキラキラ頑張ってるような子にも、ヨシカとの共通点ってきっとあると思うんです。男性には「女の子ってこんなめんどくさいんだ」って思われるかもしれませんが(笑)。でも女子の大半ってああいう子ですよね。撮影を通してヨシカと一緒に生きた身として思うのは、ヨシカって、いろんな女の子たちの、報われなかった魂の集合体なんじゃないかと。原作者の方を前にして言うのも変ですが。


ということで、あの、歌いだすシーンは改めて見たい、というか繰り返し見たいのでDVD化されたら見直したいし、『ちはやふる』や、見始めたばかりの『その「おこだわり」…』の続き等、他の彼女の主演作を確認して、もっとその魅力に迫りたい。
また、原作は読み返したうえで、綿矢りさのその他の小説も読み進めたい。『憤死』『夢を与える』あたりかな。

憤死 (河出文庫)

憤死 (河出文庫)

夢を与える (河出文庫)

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