Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

字は人を表す、のか?〜新保信長『字が汚い!』

字が汚い!

字が汚い!


新保信長(南信長)さんは朝日新聞の漫画評で名前だけは知っていました。2年前くらいに、自分の書いた『 レタスバーガープリーズ.OK、OK!』の書評をTwitterでリンクして頂き(そのときに 松田奈緒子さんの旦那さんであることも知りました)、それ以来、朝日新聞の漫画表も、それまで以上に勝手に親しみを感じて読んでいます。
ただ、この本を選んだ理由はそこではありません。最初はタイトルと、背中の西原理恵子のイラストに惹かれて手に取り、しばらくしてから作者が新保信長=南信長さんであることに気が付いたのでした。


読み終えてみると、自分がこれまで「手書き文字」について真面目に考えてこなかったこともあり、色々な部分で刺激を受けました。
ポイントは大きく2つあります。


表紙には、「汚い」字が沢山書かれていますが、その中に
「練習すれば字はうまくなるのか?」
「そうだ、ペン字教室 行こう!」
と書かれている 通りの内容が 、前半は繰り広げられます。


新保さんは、字がうまくなることを目指して、色んな本を試したり、字の上手い人・下手な人にも聞いたりするわけですが、そもそも「目指すところ」は何なのか、という根本的な問いを持ちながらスタートしているところがポイントです。
自分は、書き文字にコンプレックスを持ったりはしていないのですが、漠然と「もっときれいな字を」と常々思っています。新保さんの問いは、自分の「もっときれい」と直結していて、この部分に共感して読むことができました。
(逆に、「目指すところ」を掴んでいる人で、しかも、そこに達しているような人が読んだらちっとも共感できず面白くない本と感じるかもしれません)


そして、もう一つのポイントは、本書の中で色々な人の書き文字を見る機会を得られる、ということです。読者は、この文字はOK、この文字はNGと考えながら字を眺めて行きます。
特に、「これは目指すところじゃない」代表として登場する面々。

このあたりはオーソドックスな「下手」の部類に入ると思います。
しかし、「悪筆という点で右に出る者はいない」と評される石原慎太郎の、一見うまそうに見えて、何を書いているのか全くわからない字は、なかなかの衝撃です。(原稿用紙の右余白にすべての文字に編集者がそこに書かれている字を併記しています)
そして、その直後に紹介される中上健次の字には、「怖さ」を感じます。
(新保さん評は「今田勇子」の字に似ている…。「中上健次 原稿」で検索すると確認できます。)


そんな中で、最終章で、新保さんが辿り着いた「いい感じの字」。
例として挙げられている寄藤文平沢野ひとしヨシタケシンスケの字は確かに魅力的。
しかし、新保さんは、自分の目指すのは「いい感じの字」だけでなく「大人っぽい」ことが重要として、荒木経惟アラーキー)の字を挙げています。自分の理想とする字が見つけられたのは嬉しいことですが、これは自分は同意できませんでした。(笑)
自分自身の力で見つけようということですね。


その他、美文字本で示されるメソッドを一通り知ることが出来たり、パソコンではなく手書きで文字を書く意味を問い直すことが出来たり、そして、綺麗な字を書くためのペン選びなど、実用的な意味でも興味深い内容が沢山ありました。
また、「ゲバ字」や「丸文字」、「変体少女文字」から「長体ヘタウマ文字」への変遷や海外での書き文字の扱いなど、蘊蓄も楽しく、ややまとまらない感もありますが、色んな人にオススメしたい一冊となりました。
と、ともに、自分も「いい感じの字」を見つけて、少し字を書く機会を増やしたいと思いました。