- アーティスト: ORIGINAL LOVE
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2019/02/13
- メディア: CD
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まず、アルバムの曲順を再度確認します。
オリジナル・ラブのアルバムは基本的にA面B面を意識して製作されていることは、ファンはよく御存知かと思いますが、今回も全10曲の前半5曲、後半5曲でA面B面が分かれます。
そして、『bless You!』のB面は、また凄い曲が揃っています。
いわずもがなの名曲「bless You!」。アルバムのテーマ的には 「bless You!」と双璧をなす「いつも手をふり」。そして、本作の中でのいわば“地獄兄弟”「空気-抵抗」「逆行」*1
その中で、少し浮いた存在がB面1曲目の「疑問符」です。
ところで、これまでのアルバムでB面1曲目にはどのような曲があったか復習してみます。
- LOVE VISTA(LOVE! LOVE! & LOVE! )
- フレンズ(結晶)
- Wall Flower(EYES)
- 心 ~ANGEL HEART(風の歌を聴け)
- 夏着の女達へ(RAINBOW RACE )
- Words of Love(Desire)
- ローラー・ブレイド・レース(ELEVEN GRAFFITI )
- 大車輪(L)
- ダブルバーガー(ビッグクランチ)
- 守護天使 (ムーンストーン)
- のすたるぢや(踊る太陽)
- 13号室からの眺め(東京 飛行)
- ひとりぼっちのアイツ (街男 街女)
- ハイビスカス (白熱)
- きらめきヤングマン(エレクトリックセクシー)
- クレイジアバウチュ(ラヴァーマン)
書いてみて、曲の並びが面白くて、独りで盛り上がっています。*2
また、やや自分の意図と異なる曲が並んで驚いています。
自分の中の、これぞ"B面1曲目”という曲は「ローラー・ブレイド・レース」や「ダブルバーガー」などの攻撃的な楽曲。もしくは「ひとりぼっちのアイツ」や「クレイジアバウチュ」などのヒットチューンなのですが、「のすたるぢや」や「守護天使」など、ゆっくりした曲もあるのですね。
田島貴男自身は、この「疑問符」についてインタビューで次のように答えています。
これはもう、絵に描いたようなソウルバラードですよね。オーディオを一新して、The Stylisticsの1stアルバムを聴いたら、あまりにも素晴らしくて椅子から転げ落ちるぐらいのショックを受けて。演奏もコーラスも、とにかくすごくて。 (略)
それぐらい完璧すぎるアルバムで感動しちゃって。自分でもそういう曲を作りたいなと思ったんです。ただ、弦を入れるつもりはなかったんで、シンプルなスウィートソウルをこの曲で追及しようと思って。今までだったら、もっとゴテゴテな感じにしたと思うんだけど、最小限のメロディ展開で“なんかいい曲”っていうのを作りたかったんですよ。
──本当に音数を絞りに絞った“いい曲”ですよね。
そういうふうに作りたかったんです。この曲は真夏に作ったんだけど、真夏っていうのは創作に向かないですね(笑)。冬のほうが圧倒的に曲のイメージが浮かぶ。大変だったけど、パッとイメージが浮かんで急いで書いたんですよ。
音楽ナタリーインタビュー
──「疑問符」はオーセンティックなソウルバラードですね。
田島:うん、これはソウルバラードを作ろうと思って作りました。3年くらい前にオーディオセットを揃えて、1970年代初頭あたりのソウルばっかり聴いてた時期があったんですけど、その頃のバラードってシンプルでいいんだよね。「疑問符」みたいな曲も、以前だったらもっと展開を考えたり、装飾したんだろうけど、今回はなるべくシンプルにしたくて。曲も短くしかったんだよね。──3分半くらいですね、「疑問符」は。
田島:そう。昔のソウルバラードって、AメロとBメロしかなくて2分くらいで終わったりするんだけど、短くするのもテクニックが必要で創作が洗練されてないとダメなんです。そういうものを目指したんですよね、「疑問符」は。
RealSoundインタビュー
こうしてインタビュー記事を読んでみると、シンプルな楽曲を目指したチャレンジが、実際に成功していることを実感できて、またアルバムを聴くのが楽しくなります。
なお、音楽評論家・小倉エージさんの曲ごと解説は以下の通りでした。
「疑問符」は、シンプルなスイート・ソウル。ニール・セダカの「雨に微笑みを」風のポップなメロディー。ファルセットによる歌はスタイリスティックスを意識したのかも。(オリジナル・ラブの金字塔!? 新作は傑作だ!-AERAdot)
さて、歌詞の面から考えると、特にB面はアルバムのテーマである「人生賛歌」、そして裏テーマの「逆行、抵抗、心意気」(適当です笑)がてんこ盛りの中、かなり毛色の違う歌詞となっています。具体的には、「ハッピーバースデイソング」や「ゼロセット」なども含め、聴く側に向けたメッセージ性の強い曲が多く並ぶ中で、まさにそれらとは逆行した内省的な歌詞となっています。
しかも、この歌詞の主人公は、答えを出せずに迷っている。だけでなく、運命や偶然に頼ろうとするなど、考え方に「逃げ」が見られるのです。「ゼロセット」で「ためらってないでしっかり掴んで」「チャンスはRight Now!」と歌ったのとは全く別のタイプの男です。
しかし、B面1曲目にこの曲があることで、このアルバムのメッセージ性、説得力はさらに強まるように、自分は考えます。
今回のアルバムはテーマが「人生賛歌」で、メッセージソングが多いため、ともすると「上から目線」のアルバムになってしまいます。例えば(また改めて書きますが)「ゼロセット」は良い曲ですが、あまりにも歌詞の内容が田島貴男本人のこと(継続して努力できる資質)を指し示すようで、自己評価の低い自分には、純粋な応援ソングとして受け取るのは難しいです。
また、ここで「大事なことに気づかない」と書かれているからこそ、気がついた大事なことを歌いたい、という気持ちが表れている「bless You!」のメッセージ性が際立ちます。つまり、人生は、何かひとつ大切なことを手に入れたら、別の何かを忘れている、その繰り返しだということだと思います。
「疑問符」があることは、悪いところはたしなめつつも弱い心も肯定してくれるような曲で、自分にとっては、仲良くしたい、贔屓にしたい友達のような存在です。
そういう面が同じ田島貴男の中にあるのだろうと思うと、アルバム全体のメッセージがより真実味を帯びてくるように感じます。
先日、川崎市にある岡本太郎美術館で「重労働」という油絵を見ました。
1949年の作品で、工業化が進み、生活がよりよくなる一方で、環境破壊やエネルギー危機などの問題が進行することに対する不安を表現した作品で、岡本太郎の好む原色が多く使われながらも、画面全体としては暗い作品です。
検索するとどのような絵かすぐにわかるので是非見ていただきたいのですが、この絵の中には中央左側に唐突に長ネギが描かれています。*3自分は今回の美術館で初めて見たので、とても驚きましたが、このユーモラスにも見える長ネギがあることで、不安一辺倒でもないということもわかり、一方で、不安感も増すのです。いわゆるスイカに塩理論です。
「疑問符」は、まさにそのような楽曲で、名盤『bless You!』のB面1曲目として、過去のB面1曲目の名曲群と比べても遜色ない名曲だと思います。