Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ヤッターアンコウがいるからこそ物語は楽しい~『スパイダーマン: スパイダーバース』感想

今年は月一本のペースで映画を観ている。
1月は『来る』、2月は『ギルティ』と来て、3月に観たのは、この『スパイダーバース』だ。
『来る』のタイミングで一番観たかったのは『へレディタリー/継承』だったのだが、そろそろ終わる頃で劇場が限られていたことと、一緒に観に行くよう太に選ばせたら、第二候補だった本作を選んだので、こちらにした。(気持ち悪さとエンタメのバランスが絶妙な映画でした。)
『ギルティ』は、アトロクで何度か紹介されていて、特殊なシチュエーションのミステリということを知り、ネタバレは嫌だなという気持ちで、公開週の週末に観に行った。(想像力を掻き立てられる見事なワンシチュエーション映画でした。)
『スパイダーバース』は、そもそもはあまり興味がなく、またMARVELの作品が映画されているのかという程度。しかもスパイダーマンは、確かこの前リブートしたばかりじゃ…とむしろ敬遠していた。しかし、アカデミー賞発表前に、細田守未来のミライ』がノミネートされた長編アニメーション部門は、どうも『スパイダーバース』でぶっちぎりで獲るらしいという話を(これもおそらくアトロク経由で)知った。そこで初めてこの作品がアニメ作品であり、過去作をあまり気にせずに見ることができそうだ、と興味を持てた。


さて、観る映画は決まったが、1月、2月と一緒に映画を観たよう太を誘うと、どうしても立川まんがパークで漫画を読みたいということだったので、立川まで一緒に行き、初めて立川で映画を観ることとなった。今思うと、これが素晴らしい選択だった。



映画『スパイダーマン:スパイダーバース』予告


デザイン・表現

事前に自分が知っていたのは、通常のスパイダーマン以外に小柄な黒いスパイダーマンと白いスパイダーマンが登場すること。 観るきっかけとして、この白黒2体のスパイダーマンのデザインのカッコ良さに惹かれた部分は確実にある。
カッコ良さといえば、映画が始まっても、序盤どころか、最初のソニーのロゴアニメーションから引き込まれっぱなしだった。その後の、ピーター・パーカー(本家)が、スパイダーマンについて紹介する場面、マイルス・モラレス(主人公)がノリノリで音楽を聴いているところに、親からの早く急いで、の声が重なる朝のシーン。アニメーションがリズムを持っている、絵そのものがビートを刻んでいる感じで心地良い。
マイルスが「黒い」スパイダーマンになる前の追いかけっこのシーンもニューヨークの地下鉄、トラックなどをよける動きそのものが見ていて全く飽きない。美術館で絵画を眺めるように、映画の場面ひとつひとつを隅まで追いたくなると共に、感覚的には、美術館にいるというよりはゲームをしている感覚に近い。これはもしかしたら、直前に、PS4のゲーム『スパイダーマン』を少し遊んだことが影響したのかもしれない。。


さて、物語は、マイルスが蜘蛛に噛まれて、直後に会話を交わしたピーター・パーカーが亡くなり、これでとうとう(期待していた)黒いスパイダーマン登場か!と思うと、まずマイルスが手に入れたのは、雑貨屋で買ったパーティグッズのようなスパイダースーツ。しかもサイズが合っていない。目の部分に完全に穴が開いているデザインもカッコ悪く、黒いスパイダーマンはまだなのか、とがっかり。
白いスパイダーマン(スパイダー・グウェン)が登場し、さらに3体のスパイダーマン(スパイダーハム、スパイダーマンノワール、ペニー・パーカー)が登場し、行動を共にするようになっても、マイルスは黒いスパイダーマンにならない。
このように溜めて溜めて終盤まで姿を見せないからこそ、黒いスパイダースーツがどのようにして誕生したのかが描かれる場面は、それだけで涙が溢れるほど感動した。グラフィティの才能のあるマイルスだからこそ、あのスーツなのだ!という意味付けも含めて最高だ。


デザインという点では、当初、登場を想定していなかった3体のデザインが素晴らしいことも自分にとってはツボだ。『パシフィックリム』が楽しいのは、悪と戦うロボットが、一体だけでなく、複数あるということ。結局は敵を倒す役割は主人公だったとしても観る側としてはオプションがあることで想像の幅が広がりやすく、楽しみが2倍にも3倍にもなる。
(ほとんど出番がなかったように思うヤッターアンコウが、自分にとってどれだけヤッターマンを観る楽しみを増やしていたことか…)
なお、追加3人のスパイダーマンは 、それぞれ全く他と似ておらず 、どのキャラクターも魅力的だが、やっぱりペニー・パーカーは、日本の萌えキャラとは少しズレがある点も含めて目が離せない存在だった。
デザインとは関係ないが、ピーター(B)パーカーの人間臭い感じ、もっと言うとカッコ悪い感じは、そのあとスパイダースーツを着たときとのギャップがそのカッコ良さを5割増ししていた。宮野真守がその声を当てるのもとても合っているように思うが、途中、勢い余ってゾンビランドサガになりかけていた場面が特に良かった。


その他、動きや絵について語ろうとするといくらあっても足りない。
敵キャラで言うと、キングピンの特殊な体型。あれは実写表現では無理で、アニメだからこそのデザインであるのだろう。
スパイダーマン同士が感じる「ニュータイプ」の表現や、アクションシーンで時々登場するコマ割り表現、吹き出し表現、書き文字表現はなど、独自の表現が多く、エンディング後にも続編があることも示唆されていたので、引き続き、続編にも、こういった新しい表現を期待したい。(ここら辺も、従来のアニメというよりゲームの世界に近い表現のような気がする)

極上爆音上映

今回、忘れ得ない映画体験となったのは、作品自体の(デザイン、ストーリーの)素晴らしさは勿論あるが、それと同等レベルで、立川シネマシティの極上爆音 上映が良かったということが言える。
振り返ると、2月に観に行った『ギルティ』は、劇場がフラットでスクリーンが低く、それだけでも字幕が見にくい上に、前席にとても座高の高い人が座り、作品の内容以前の問題として、視聴環境が最悪だった。(新宿武蔵野館でした…)
最悪の体験と比較するのもどうかと思うが、映画の内容に集中できて、アクションシーンで、音に、音の響きに驚いたり、本気で手に汗握ることが出来ることの幸せを、今回、しばらくぶりに感じたように思う。少なくとも、アクション重視の作品は、音響が良いところでないと観られない、そう感じるほどに衝撃的な体験だった。

ストーリー(疑問点)

最後に少しストーリーについて。
ストーリーは、マイルスの成長がしっかり描かれるシンプルストーリーで言うことなし。父子のシチュエーションが多めで、そこが特に涙腺を刺激した。(逆に、よう太と見に行っていたら恥ずかしくなっていたかもしれない。)スパイダー・グウェンという同世代の女性スパイダーマンがいながら安易な恋愛が描かれなかったのも良く、とにかくマイルスの人間的成長を中心に描かれていたように思う。


ひとつ疑問なのは、何故マイルスは最初に転校しなければならなかったのかということ。
物語の中では、父から成績の良さが評価されて補欠合格となった、というような説明を受けるが、同じタイミングでグウェンが同じ高校に転校してくるというのは出来過ぎ。
学校長が全てを仕組んでいて、能力者を一つの学校に集めたというのがよくあるパターンだが…。
今書いていて気がついたが、つまり、グウェンとモラレスの関係は、ピーター・パーカーとピーター・B・パーカーのように表裏一体で、パラレルワールドで同じ高校に通う存在ということなのか。
あ、物語上の必要性についても少し想像がついてきた。転校したモラレスは、週末だけ実家に戻る寮生活に入るので、つまり最初に「家族との別れ」が描かれているのか。だからこそ、学校の前でのパトカーからの「愛してる」の冒頭の名場面も出てくる。
ということで、何度も同じゲームを楽しむ感覚で、何度も楽しみたい映像体験でした。続編も望ましいけど、(キャラクター含めかなり異なるようですが)アメコミ原作も気になります…。

スパイダーバース【限定生産・普及版】

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エッジ・オブ・スパイダーバース (MARVEL)

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ワールド・オブ・スパイダーバース (MARVEL)

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なお、次に観る映画は、アカデミー賞関連映画として『ローマ』『グリーンブック』や『女王陛下のお気に入り』、大人気の『翔んで埼玉』、そして、『コードギアス 復活のルルーシュ』のいずれかになりそうです。