Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

北方領土問題からウナギまで〜鈴木智彦『サカナとヤクザ』

何とか読み終えたが、内容が多岐に渡る。第一印象として、それほど字が詰まっていないので、すぐに読み終える軽い本だろうと思った自分を恥じたい。取材期間丸5年というのもよく分かる。


以下、1章ごとに備忘録替わりに簡単なメモを。(今後読み返す自分自身に向けて)

第1章 岩手・宮城 三陸アワビ密漁団VS海保の頂上作戦

「黒いあまちゃんがいるかも」という冗談から始まった取材は、いわば導入部。
三陸の密漁の現場を追ううちに、密漁が「市場ぐるみ」で行われていることが分かり、2章に続く。

第2章 東京 築地市場の潜入労働4ヶ月

作者が潜入したのは「荷受け」と呼ばれる卸会社。
中沢新一『アースダイバー東京の聖地』では築地市場で働く仲卸に焦点が当たったが、「荷受け」(卸会社)はその一つ前工程で、 密漁のアワビを買い受ける市場の窓口ということになる。
密漁云々よりも、前職も年齢も関係なく、色んな出自の労働者を受け入れる大らかさを持っているのが築地市場である(あった)という話が印象に残る。

第3章 北海道 “黒いダイヤ”ナマコ密漁バブル

黒いダイヤモンドと呼ばれるナマコは、特に中国では高級食材として珍重されるという。

  • 黒ナマコの密漁はチームで行い、それを暴力団が仕切っていること
  • 浅い海ではナマコは枯渇してしまったので、死亡事故が多発するような深い場所での密漁が増えていること
  • 発電所付近には漁業権が設定されていないため密漁しても違法にはならないこと

など、直接の取材による生々しい証言が多い。

第4章 千葉 暴力の港銚子の支配者、高寅

この章は、高橋寅松という実在のヤクザの評伝のような内容になっている。
かつての銚子は暴力団と漁業が強く結びついていたという話だが、今現在の人物への取材が出てこないので、他の章に比べて異質で読みにくい。

第5章 再び北海道 東西冷戦に翻弄されたカニの戦後史

この章がとても面白かった。
根室という街の特殊性を知ることができる内容で、北方領土の問題を学ぶ上で、漁業との関わりは避けて通れない道だということがよく分かった。

  • 昭和20年代:船で1,2分もすれば超えてしまうソ連領海(少し前までは日本領海)での漁で拿捕される漁船が続出。
  • 昭和50年ころまで:ソ連が秘密裏に許可した「レポ船(赤い御朱印船)」がソ連領海内を自由に航海。レポ船は、ソ連に機密情報を渡していた。
  • 昭和50年以降:レポ船は消え、ソ連との中間ラインを猛スピードで越境し、巡視船を強引に振り切る「特攻船」が誕生し、大規模密漁を繰り返すようになる。勿論ヤクザがそれを仕切った。
  • 平成以降:ソ連の体制変化により、日ソが共同して取り組み特攻船は壊滅。その後、ロシアからのカニ密輸(ロシア人漁師による密漁)⇒日本領海での第三国による密漁など抜け穴を探しながら密漁は続いている。

この章では過去のルポルタージュなど他の本からの引用も多い。北方領土の話はしっかり勉強しておきたい。(沢木耕太郎は『人の砂漠』野中の一編「ロシアを望む岬」で北方領土問題について書いている)

北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 (朝日新書)

北方領土・竹島・尖閣、これが解決策 (朝日新書)

人の砂漠 (新潮文庫)

人の砂漠 (新潮文庫)

第6章 九州・台湾・香港 追跡!ウナギ国際密輸シンジケート

ウナギについては一通り勉強してきたが、ウナギが減っているということに科学的根拠がないとする説の紹介など、これまでにあまり触れてこなかった話もあった。
が、それ以上に養鰻業者の話が目白押しで興味深い。

  • 露地池で育てる古いやり方は減り、加温ハウス養鰻がスタンダード化し、大規模業者によるユニクロ・ウナギも増えている
  • 大手の養鰻業者が稚魚のシラスウナギ仕入れ先は闇業者が跋扈している
  • 県だけの取り組みで言えば、流通の透明化を最も進めたのは宮崎県。県の協議会が「公定価格」を決めるが、それをもとに「裏価格」が決まるのが現実。
  • 正規・密漁を合わせても養鰻業者の求めるシラスの量には足りないくらいで、密漁シラスを買う業者は必ずいる。
  • 輸入されているニホンウナギのシラスは台湾、香港を経由して日本に来る(合法のものもある)
  • ニホンウナギよりも絶滅の可能性が高いとされるヨーロッパウナギも中国の業者が加工品にして日本に売っている

ウナギについては、改めて勉強したい。昔、Wedgeでウナギ特集をやっていたが、そのときの特集記事を鈴木智彦さんが担当していたらしく、そのときの記事がまとめられているので、こちらも読んでみたい。(この本と重ならない内容もあるようだ)

ウナギ密漁 業界に根を張る「闇の世界」とは Wedgeセレクション

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まとめ

「おわりに」には東京海洋大学の勝川俊雄准教授の言葉も出てくるが、かなり広い範囲の識者の意見を聞き、文献を参考にしながら書かれている本のようで、本当に読み応えがあった。北方領土をはじめ、いろいろな本を読むきっかけにしたい。日本の漁業については、やっぱりこれか。

魚が食べられなくなる日 (小学館新書)

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なお、BL漫画『コオリオニ』や桐野夏生『柔らかな頬』で描かれた北海道警の悪い面が自分の中で強化された読書となった。関連してこのあたりも見てみたい。

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白 (講談社文庫)

恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白 (講談社文庫)

参考(過去日記)