Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ORIGINAL LOVE『bless You!』全曲感想(5)空気-抵抗

今回は、アルバム7曲目(B面2曲目)の「空気-抵抗」についてです。
はっきり言って、この歌は相当面白いです。
今回のアルバムで聴くべき曲として3本の指に入ります。
渡辺香津美さんが参加しているギターも、素人に分かりやすい聴きどころで、楽曲的にも魅力はあるのですが、何と言っても変なタイトル、変な歌詞。(褒めてます)
「逆行」とセットで語られることの多い曲だと思いますが、この「空気-抵抗」が他と異なるのは、怒っていること。ここまで真面目に怒っている曲も珍しいのではないでしょうか?一番のサビはこんな感じです。

Peer Pressure 同調圧力
屈しないで抵抗しろ
Peer Pressure 脅されてもひとり
本当のことまっすぐ言え
Peer Pressure 同調圧力
盾ついて行け

田島は何に対して怒っているのか。
「クラス中笑っても俺ひとり」なんて、小中学生時代を想定させるような歌詞もありますが、内容は、ネット社会を意識しているのは明らかで、インタビューでも本人がそう答えています。

──そこに乗ってる歌詞がまた異様で(笑)。

この曲に関しては、どういう歌詞を書いたらいいのかわかんなくなっちゃって。それでずっと悩んでたんだけど、ある種のいら立ちみたいなものをテーマに歌詞を書いていったらハマったんですね。日本人にありがちな、ロックなら“ロック村”とか、政治好きなら“政治好き村”とか、まあ、なんの村でもいいんですけど、1つの方向で急に熱くなって盛り上がってる中で、そこに対して違うことを言うと、めっちゃ叩かれたりするでしょ?

──確かにそうですね。

僕はそういう風潮がすごく嫌で。例えば、学者の人たちは自分が追求してきた学問に対して、世の中の人たちが違うことを言っていたとしても、それが自分の結論ならば意見を貫き通さなければいけない。それはプラトンの時代から同じで。自分の意見を貫き通したことで殺されたりしたことがあったかもしれない。現代社会でも、そういう部分は変わってなくて、それがSNSという非常に見えやすい形で存在していて。「みんなが右を向いてる中で、自分が左を向いていたとすれば、それを堂々と表明できるのか?」っていう。そういう自問自答と、周りに対する違和感みたいなものを表現したのがこの曲で。つまり「空気」に「抵抗」するということですよね。こういう気持ちって、みんな本当は持ってるはずなんです。でも「言ったら叩かれる」とか、そういう空気が今は昔より強まってるから、なかなか言い出せないんですよね。生きてくうえでは、ある程度、そういう空気を受け入れなきゃいけないのかもしれないけど、本当は違うんじゃないかなっていう。
ORIGINAL LOVE「bless You!」インタビュー|逆行し続ける男がたどり着いた新境地 (3/5) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

──そんな“bless You!”と“いつも手をふり”の後に、パンキッシュな曲調で<この流れに逆らえ>と歌う“逆行”でアルバムを締め括ってるのも田島さんらしいなと思いました。
ある意味さっき言ったこととは正反対というか、みんな一緒くたに何かを信じるのってやっぱりちょっと不気味だし、嫌だから、「全部逆を行け!」って言ってて、そうしたら、友達が一人もいなくなっちゃったっていう(笑)。そういう生き方もあるというか、そういうモノの見方もどこかしら心の隅に置いておいた方がいいと思うんですよ。僕は昔からそうで、クラスのみんながワッとなってると、一人だけ別のことをイメージするタイプ。今SNS見ても村社会っぽくて、何かひとつの考えにまとまり過ぎて、そうじゃないとめちゃくちゃ叩くでしょ?あれがすごく嫌で、“空気-抵抗”は「空気を読むな」っていう曲。「これ言ったら叩かれるんじゃないか」って、自分の考えを言わないでおくのはやっぱりおかしいんじゃないのか、ひとりひとり本当の自分の考えを言うことができるのか。そういう覚悟を問うた曲っていうかね。
──今の時代感だからこそ、「空気を読まないこと」や「流れに逆らうこと」の大事さっていうのは非常によくわかります。
どっちかっていうと、仲間外れの方が好きなのかも(笑)。でも、僕はポップスをやっていて、普遍的な、誰もが普通に感じることはとても大事だと思ってる。だからこそ、大衆心理の負の部分、危ないところも感じるわけですけど、その両方の感覚を持っていたいですね。
オリジナル・ラブ、4年ぶりの新作『bless You!』をリリース!“一発録り”で「音楽のアンサンブルの良さ」を込めたライブ感溢れる作品を田島貴男が熱く語る!|DI:GA ONLINE|ライブ・コンサートチケット先行 DISK GARAGE(ディスクガレージ)

少し長めに引用しました。特に後者では「逆行」のことを聞かれているのに、「空気-抵抗」のことまで答えているこの流れ。実際、歌詞も「逆行」で不足していることを「空気-抵抗」で過剰に補っている感じのバランスになっています。
「逆行」だけだと、ものすごく天邪鬼な人の(変わった)歌のようにきこえてしまいますが、「空気-抵抗」があることで、田島の本気度合いが分かります。
おそらく、ツイッターなんかでの盛り上がりや、ネタ的な消費のされ方に田島は敏感で、歌詞で「歩き方話し方キャラクタが変わっているとクラス中笑っても」と歌っているのは、田島本人が、自分自身のこと(外見など)を言われるのが嫌だという表明なのかなと思います。
例えば、先日、最近のインタビューでよく身につけているベレー帽の本人写真と、同じくベレー帽をかぶった藤岡弘、写真を並べたツイートが回ってきました。自分は不用意にRTしてしまった*1のですが、多分ああいうのに対する意見表明が、怒りのこめられた「空気-抵抗」の歌詞なのかな、という気もしています。


さて、「逆行」と「空気-抵抗」の一番のメッセージは何かについてよく考えてみると、タイトル通りの、流れに逆らえ、抵抗しろ!ということではなく、歌詞で歌われる次の部分だと思います。

  • 空気-抵抗:本当のことまっすぐ言え
  • 逆行:自分で考えさせず巻き込んで使うそんなものに逆らえ

つまり、自分で考えて、その考えを大事にしろ、ということなのでしょう。上のインタビューからその部分を抜粋します。

「これ言ったら叩かれるんじゃないか」って、自分の考えを言わないでおくのはやっぱりおかしいんじゃないのか、ひとりひとり本当の自分の考えを言うことができるのか。そういう覚悟を問うた曲っていうかね。

これは言うのは簡単ですが、実行するのはなかなか難しいことです。
日々思うことですが、一番自分の頭を使って考えていたのは、ブログを始めた頃です。
2010年頃からTwitterを始めましたが、Twitterは、本当に考えるのに向いていません。触れる情報の量が増えれば増えるほど、人は考えなくなると思うのです。
そして、Twitterが得意にしているのは「暇つぶしからかいつっこみ」で、それを嬉々として行っている大量のカオナシが、自分のような人間というわけです。


少し話を変えますが、つい先日、イチロープロ野球の一線から退くこと、つまり引退を表明しました。
突如報じられた引退のその日(翌日)に行われた会見は生中継されて、深夜にもかかわらず多くの人が、その様子を見ていたと言います。
自分は生中継では見ませんでしたが、その後、会見の一部をテレビで見て全文を記事で読みました。
引用しだすと全文引用してしまいそうなので控えますが、「生き様」について聞かれた際の回答がグッときます。

生き様というのは、僕にはよくわからないですけど。うーん、まあ生き方というふうに考えれば…。

先程もお話しましたけれど、人より頑張ることなんてとてもできないんですよね。あくまでも、秤(はかり)は自分のなかにある。それで自分なりに秤を使いながら、自分の限界を見ながら、ちょっと超えていくということを繰り返していく。

そうすると、いつの日か「こんな自分になっているんだ」という状態になって。だから、少しずつの積み重ねが、それでしか自分を超えていけないというふうに思うんですよね。

一気に高みに行こうとすると、今の自分の状態とギャップがありすぎて、それが続けられないと僕は考えているので。地道に進むしかない。進むだけではないですね。後退もしながら、ある時は後退しかしない時期もあると思うので。

でも、自分がやると決めたことを信じてやっていく。でもそれは正解とは限らないですよね。間違ったことを続けてしまっていることもあるんですけど。でもそうやって遠回りすることでしか、本当の自分に出会えないというか。そんな気がしているので。

ここでも、「生き様」を、わざわざ「生き方」という言葉に直して答えていますが、何故多くの人が、イチローの「言葉」を待って深夜に会見の中継を見ていたかと言えば、イチローが「自分の考え」を「自分の言葉」で語れる人だからだと思うのです。
それは、言い換えると「空気を読まない」ことだとも言えます。会見の流れは明らかにイチローが握っていて、むしろ記者の方が、イチローの空気を読むことに必死になる、そんな会見だったのではないでしょうか。


ただ、イチロー会見についての能町みね子さんのTweetについても、自分は痛いところを衝かれたという感想を持ちました。。
星空の能町みね子 on Twitter: "イチローの会見、みんな、イチローが何言ったかより記者会見のダメな質問を批判する、ってことが楽しくなっちゃってんのね。ツイッターではみんな神の立場になれるからよいことですね。"
星空の能町みね子 on Twitter: "そりゃまーダメな質問もありましたけど、ダメかどうかの基準をイチローとまったく同じ部分においてツイッターで叩くだけで、どこの馬の骨ともわからんもんがイチロー様と同格の気分になれますよね、さぞ気持ちよかろ"

これは、普通の人がTwitterで陥る一番よくあることで、実際、自分でもやってしまいがちです。
世の中の空気に、独りで抵抗するイチローを絶賛するあまり、「爆笑とヴァイオレンスチラつかせて迫る気まぐれと正義ヅラ見物客」になってしまうパターンです。
だからこそ田島は「逆へ行け その逆へ 逆の逆のその逆へ」と歌うのでしょう。
繰り返しますが、そのこころは「逆に行く」ことではなく「自分で考える」ということです。このメッセージは、実はかなりハードルの高いことを聴く人に求めているという難点はありますが、同意できます。イチローが語るように、僕らも少しずつの積み重ねで自分を越えていく必要があるのです。


ただ、だからこそ「空気-抵抗」の最後の歌詞は「本当のことを言うんだ」と書いてほしくなかったと思います。
ネットで「本当のこと」に目覚めて極端な健康、環境、政治への思想にハマる人がいかに多いことか。*2そういう人たちは皆、自分は「同調圧力に屈しないで抵抗している」と思い込んでいることを考えると、「本当のこと」にこだわる「空気-抵抗」の歌詞は、少し気持ちが悪いのです。


とはいえ、田島貴男の言いたいことは、インタビューなどを読んで伝わってきたし、その超攻撃的な歌詞を単純に楽しんでいます。
ただ、田島貴男のメッセージに一番素直にしたがうとすれば、まず、世の中の流れに抗ってまで通したい「自分の考え」を持つところから少しずつでも進めていきたいです。


*1:自分なんかは、あくまで「田島愛」の表明のつもりなのですが、数パーセントは「からかい」の気持ち(愛情の裏返し)もやっぱり入っています。とすれば、その絶妙なバランスが全ての人に伝わらないSNSでの拡散はダメだろうなと思うわけです。でも時々そこを踏み越えてしまうからブロックという憂き目に遭うわけで…笑。なお、藤岡弘、の件はブロック後です。また、言うまでもないことですが、先日も仮面ライダー関連の本を読んで、いかに藤岡弘、がすごい人なのか改めて思い知りました。

*2:具体的な事例については、例えばこの記事が参考になります→ 「ネットde真実」 ズレた正義に目覚めて無駄な行動力を発揮|NEWSポストセブン