ひとつ前の『パワー』は、苦手な翻訳小説で、やや社会的なエッセンスを含む内容。
こういうのを読むと、反動で、「もっと、ベタに日本の小説で、もっとバカなお手軽小説が読みたい!」という欲が湧き上がってくる。
先日、この思いから手に取ったメフィスト賞受賞作『誰かが見ている』は、メフィスト賞っぽくなく、自分の選書が間違っているのにもかかわらず、怒りを本に向けてしまい大反省。
今度こそは!と、しっかり下調べをして、これなら大丈夫だろうと選んだのがこの本。
- 作者: 柾木政宗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/09/07
- メディア: 新書
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メフィスト賞史上最大の問題作!!
「絶賛」か「激怒」しかいらない。
これはすべてのミステリ読みへの挑戦状――。
私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた! 私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育てる! そのためには……ねえ。「推理ってべつにいらなくない――?」。
読んでみて一言。
こういうのが読みたかった!
こういうバカミスが読みたかった!
ミステリというジャンルは、SFとは違って、できることが限られているからこそ、後発になればなるほど、物理トリック、叙述トリックにかかわらず、既出のトリックの焼き直しや組合せになってくる。
だから、真面目に「新しい方法」で驚かせようと考えると、どうしてもバカミスに近づいていく、そういうことなんじゃないかと思う。
まず、この作品の特徴は、ひとことで言うとメタ。
第四の壁を破る演出、と言うと、登場人物が読者に語りかける演出が良く見られるが、この作品の語り手のユウは、物語が「本」という媒体で読まれていることを意識して喋りまくる。
こういう演出は、いわば楽屋オチのようで、読者を醒めさせるデメリットがあるが、ここまで徹底していると、「そういう作品」として読むしかなくなる。
例えばこんな場面。あまりにメタ寄りな発言を隠さないユウを名探偵役のアイがたしなめるというのがお約束展開。
川越まつりは関東では数少ない山車の曳き回しの祭りで…(略)
アイちゃんは怒って私を見ている。その視線に気づいた私は、
「なーに? アイちゃん」
「何で急に黙りだしたのよ」
「ちょっと今は話しかけないでね。今は地の文で川越の魅力を語っているんだから」
「うわっ、また出たよ、謎の概念『地の文』」
旅情ミステリを成立させるんだから黙ってろ。
私は地の文で、名探偵に悪態をついた。
P113
「そうね。でもその線は消えるわ。だって被害者の手にはふ菓子がついていたんでしょ?」
「うん、105ページ上段13行目で……」
「うるせーーーーーーーーー」
ついにアイちゃんが大噴火をかました。
「逐一何ページの何行目とか言わなくていいのよ!そんなの聞いたことない!」
「前例があることしかやらないなんて、アイちゃんもとんだ腰抜けだね」
P207
物語は
と、冒頭で「推理」する能力を失った名探偵が、1~4話では本格以外のミステリジャンルを舞台に、推理なしで事件を解決に導く。ユウは、アイちゃんのサポート役というよりは芸能人のマネージャーという役回りで、アイドルとしての魅力を持つアイちゃんなら、推理なしでも、十分に名探偵になれる!と、さまざまなジャンルのミステリに取り組ませる。つまり、ユウは、この小説のプロデューサーとも言えるかもしれない。
最終話で、アイは推理能力を取り戻し、4話までを、「推理」でおさらいした挙句、「最後の謎」に挑む。ここでは「読者への挑戦状」が出されて、いかにも本格推理っぽい体裁をあしらわれてはいるが、明かされる真犯人は、裏表紙で書かれた言葉を使えば「絶対予想不可能な真犯人」。
このオチは、書き方によっては本当につまらないオチだと思うけど、ここまでおふざけが徹底していると、むしろ応援したくなる。
でも、激怒する人もきっといる。
バカミスって何?と聞かれたときに、教えたくなる本が『6枚のとんかつ』『○○○○○○○○殺人事件』のほかに1冊加わった。
アイ、ユウのコンビが登場する8月に出たばかりの最新作もAmazonレビューで★一つだし、これは期待しかない(笑)
ネタバレ厳禁症候群 ~So signs can’t be missed!~ (講談社タイガ)
- 作者: 柾木政宗
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2019/08/22
- メディア: 文庫
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