Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

努力しなくても音楽は楽しい~岩井澤健治監督『音楽』


アニメーション映画『音楽』特報予告【2020年1月劇場公開】

これは、何だろう。
作中登場人物の森田(古美術)が、3人の音楽を評したように、初期衝動というか、原初的な喜びに満ちた作品になっている。
製作期間7年以上、すべて手描きという製作の裏側を知らなかったとしても、大橋裕之の特徴的すぎる「目」がそのままのキャラクターが、描き込まれた背景の上で動くのは、それだけで面白く、どこか癒される感覚がある。ただ、自分は直前に、1月から始まったアニメ『映像研には手を出すな!』を見て、手描きや絵コンテの上でキャラクターが動く、かなり特殊なスタイルも楽しんでいるので、その点で少し新鮮味には欠けてしまったが、特にクライマックスのフェスシーンなどは大迫力だった。
なお、途中、驚いたのは、バンドメンバーのひとりでリーゼントの太田がサンドバッグに向かってシャドーボクシングをするシーン。実はシャドーボクシングは経験者以外ではすぐにボロが出る。*1アニメとは言え、そのフォームがあまりにちゃんとしていて何だこれは!と思ったが、 HPを見ると、全体的に「実写の動きをトレースする“ロトスコープ”という手法を採用」しているとのことで納得だ。

アニメーション映画『音楽』の原作は、「シティライツ」(講談社)、「夏の手」(幻冬舎)などで人気を集める漫画家、大橋裕之による「音楽と漫画」(太田出版)。楽器を触ったこともない不良学生たちが、思いつきでバンドを組むことから始まるロック奇譚です。

というような説明を事前に読んで知ってはいたが、主人公の研二からは、音楽への情熱は感じられない。だけでなく、努力をしない。自分は『はじめの一歩』のような、ダメな主人公が努力して上達する話が好きなので、それとは正反対だ。
しかし、よく考えてみると、この映画は「努力をしない」ことで成り立っているのではないか、という気がしてきた。
通常、物語は、始める→努力する→挫折する→乗り越える→達成する、という流れで出来ているが、『音楽』は、その展開を避ける。
3人が始めたバンド「古武術」の演奏は、楽器に触ったその日からフェスの日まで何も変わらない。唯一、研二が楽器をベースからリコーダーに持ち替えているが、フェスまでにリコーダーを練習した成果ではなく、単に研二はリコーダーが得意で、リコーダーを吹くのが大好きだったのだろう。
つまり、努力をするから、上達するから、達成するから、音楽は楽しいのではなく、楽器自体に触って音が出ること自体が楽しい。そういうことだろうと思う。
例えば、絵を描いたりスポーツをやることも同じで、実は上達がなくても楽しいことはたくさんある。
自分は、3日坊主という言葉が嫌いだ。それは、何かを始めないことの言い訳として最もよく使われる言葉だからで、自分が何に向いているのか、何が得意なのかは初めてみないとわからない、と思っているからだ。でも、この映画を観て、得意でなくても向いてなくても、もっと「楽しめるかどうか」を重視していい気がしてきた。


ということで、気まぐれに何かを始めたくなるという意味で、素晴らしい映画だったように思います。
ちなみに、観た人は誰もが好きになるだろうと思いますが、森田、いいですね。


なお、岡村靖幸が声で出演ということで、ずっと気にして観ていたら、ここしかない、という場面で登場して、とても納得した。ただ、終わったあとで、ヒロインのアヤを駒井蓮が演じていることを知り、これには無駄遣いでは?という感想を持った。これ、原作はどんな感じなのか、気になる。

音楽 完全版

音楽 完全版

  • 作者:大橋裕之
  • 出版社/メーカー: カンゼン
  • 発売日: 2019/12/09
  • メディア: コミック

*1:これまで観た中で一番しっくりきたのは、『1円の恋』の安藤サクラ