Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

四半世紀ぶりに再読したホラー短編集~井上雅彦『異形博覧会』


まさに四半世紀ぶりくらいに読む短編集。
高校生の頃だったか、ミステリーゾーントワイライトゾーン)の小説版をよく読んでいて、その頃のことも思い出した。『異形博覧会』が刊行された1994年は、自分は既に大学生になっているが、テレビでは『世にも奇妙な物語』が流行っていた時期と重なるように思う。(調べるとレギュラー放送は1990-1992)
角川ホラー文庫は1993年4月創刊とのことなので、『異形博覧会』は同レーベルの中でも初期の作品ということになる。ちなみに、角川ホラー文庫で印象深い作品は貴志祐介『黒い家』『クリムゾンの迷宮』『天使の囀り』(いずれもホラー文庫版は1999-2000)。『リング』は、単行本で読んでいたので角川ホラー文庫というイメージはない。


改めて読み直すと、本人もあとがきで触れている通り、海外のモダン・ホラー小説ぽさと、まさに『世にも奇妙な物語』風の「奇妙な出来事」短編のバランスがよくできている。叙述トリック重視のホラーが入っているのも、いかにも日本のホラー短編という感じがして楽しい。


新たな発見としては、故郷の島の奇妙な風習「オマネキの夜」と「オミオクリの夜」を扱った「潮招く祭」の、あまりに伊藤潤二を彷彿とさせるビジュアルイメージ。大量発生する蟹と、墓から蘇る死者のイメージは、ちょうど「墓標の町」「ギョ」に重なる。
それ以外にも、ホラー映画用のモンスターの特殊メイクが惨劇を起こしてしまう「とうにハロウィーンを過ぎて」は「顔泥棒」とも重なる。
おそらくそれが「異形」を前面に押し出している理由なのだろうと思うが 、井上雅彦作品のバックボーンに映画などがあることから、ビジュアルイメージが強い傾向にあることが伊藤潤二の作風と一致しているのだろう。


そのほか、ゾンビ物の「死霊見物」は、ゾンビを「墓から蘇って人を喰う腐った死体」ではなく、本来の意味では「ブードゥー教の魔術師が、労働させる目的で操る死体」を指すと、まず明確に定義づけ、その上で近未来技術「ワークマン・システム」というSF設定と結びつけているところが面白い。
つまり仕事時間はミスをせず効率的に作業を進める(生産性を上げる)ために、思考と人工知能(ワークマンシステム)に預けるというディストピアユートピアの世界である。
確かにそんな世界であれば、労働者は死人であっても構わないかもしれない。


そして何といっても星新一ショートショートコンテスト入選作である「よけいなものが」そして、「残されていた文字」の叙述の技の切れ味が素晴らしい。


ただ、自分の記憶にあった「ヒーローショーを題材にしたホラー短編」は、ここには含まれていなかったので、続編の『恐怖館主人』『怪物晩餐会』を読んでみたい。なお、この「異形」というタイトルは、その後、井上雅彦監修のアンソロジー異形コレクション」に受け継がれている。
こちらもかなりの巻数を重ねているが、少しずつ手を伸ばしたい。

進化論  異形コレクション (光文社文庫)

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  • 発売日: 2006/08/10
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憑依―異形コレクション (光文社文庫)

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