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難解なルール or die ~クリストファー・ノーラン監督『インセプション』

インセプション (字幕版)

インセプション (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


『テネット』公開に合わせてということか、クリストファー・ノーラン監督の『インセプション』が4DXで劇場公開中ということで、親子で観てきた。

一度目に観た記憶

それにしても、一度見ているはずなのに、実質的に、第二階層がホテル、第三階層が冬山ということ以外はほとんど覚えていないという安定の「低」記憶力。
いつ見たんだっけ?とTwitterの過去ログで確認すると、2011年7月に東北新幹線の中で見ていることを確認した。(なぜ新幹線内で見たのに、冒頭のシーンが新幹線内だったことが印象に残っていないのか?は疑問)
今回、ルール設定の巧みさに改めて驚いたが、二度目だったから可能なことで、残っている微かな記憶から考えると、一度目はもしかしたら理解できていなかったのかもしれない。


大まかな感想を辿ってみる。
複数階層で同時並行的に進行する話の中で、映像自体がスタイリッシュな第二階層(アーサー) 、安らかな寝顔がスローモーションで落下していく*1、特徴的な第一階層(ユスフ)に比べて、雪山でのドンパチ中心の第三階層は、単なるアクションで面白みに欠けると思っていた。
しかも、元妻のモルがクライマックスで登場することは流れから考えて当然で、しかもコブが妻との問題を克服するという大まかなストーリーはわかっているので、第三階層のクライマックスに至る部分は結構退屈に感じてしまう。


このあたりは、一度目に見たときも同じ感想を抱いていた。よく考えてみると、このあとに述べる「ルール説明」が最も停滞している時間帯であることが「退屈」の理由のように思う。


ところが、第三階層のラストではこの退屈な流れが一転し、コブがモルを撃つことを躊躇した挙句に作戦失敗となる。これは、やや予想外の展開だ。
そこで、アリアドネが「さらに下」ならもっと長い時間を稼げると提案する。
この部分で「その手があったか!」とストーリーに乗れるかどうかが映画鑑賞のキモだったと思う。
前回見たときは、ルールの理解が追いつかず、コブとアリアドネが第四階層(虚無)に行く場面はボンヤリと見過ごしてしまった。

「ルール説明」で成立する物語

物語はまさにゲームのガイダンスのように進行する。
いや、考えてみると、全編に渡ってギリギリまでルールの説明が続くのだ。

  • 冒頭でサイトーがコブを試すシーンは、他人の夢にグループで侵入して、アイデアを盗むこと(エクストラクト)が可能だという最も基礎的な知識が示される。
  • さらに、夢の中の夢、つまり「階層」の存在についても提示がある。また、夢から覚める「命を落とす」以外 の方法として「キック」についても示される。
  • サイトーからアイデアの植え付け(インセプション)について依頼される中で、インセプション自体が上手く行く可能性が低いこと、下の階層に行くほど不安定になり、虚無(リンボー)に落ちてしまう危険性があり、それを避けるための鎮静剤の存在が示される。
  • その後、学生であるアリアドネを仲間に引き入れトレーニングをする中で「世界の構築」について学び、また、下の階層になればなるほど時間の進み方が遅いこと(上の階層の20倍)、夢か現実かを判断する道具としての「トーテム」について説明される。
  • この中で、コブの元妻であるモルについても徐々に明らかになっていく。


飛行機内で行われるメインのミッションが始まっても、ルールの説明は続く。

  • 第一階層では、サイトーが致命的な怪我をするが、鎮静剤の影響もあり、夢の中で命を落とす、という方法で「起きる」ことは、危険であることが示される。
  • また、下の階層では、上の階層の重力変化の影響を受けることが示される。このため、第一階層で車が落下する間、第二階層は無重力の状態が継続することになる。


このように、ルールが繰り返し繰り返し示されることで、「全階層でキック(もしくは死)により上の階層に上がらなくてはならない」という、この映画以外では理解不能な、ラストの切羽詰まる展開に、手に汗を握ることができる。。
また、第四階層(虚無)で年老いてしまったサイトーをコブが救うことができるということも(薄ぼんやりと)理解できる。


ただ、全体を通してみると、そもそも「誰の夢」に潜り込んでいるんだっけ?という細かい部分で不明点が出てくる。
しかし、検索すると、それぞれの階層が誰の夢なのかということも作品内で明確に示されているようだ。
inception.eigakaisetsu.com
filmaga.filmarks.com


 
こう振り返ってみると、『インセプション』という映画は、2時間半程度(実際には2時間42分)という時間制限の中で、「どれだけ、この複雑なルールを理解させるか」という、それ自体が相当困難なミッションにひたすら取り組み続ける作品のように思えてくる。
「虚無」の設定は、自分にとっては明らかに伊藤潤二『長い夢』を思い起こさせるはずなのに、そこに思いが及ばなかったのは、ルールの理解に相当時間をかけてしまったからだろう。*2
勿論、小さな画面(タブレット)で観た視聴体験というのは、あまり記憶に残らないというだけのことなのかもしれない。
この、ルールを理解しながらストーリーを追いかけるというのは、なかなか大変だが、その報酬(ご褒美)としての強烈な映像体験が用意されている、というのも『インセプション』の大きな魅力だ。(単に難しいルールだけの映画であれば途中でついていけなくなるだろう。)
自分が好きなシーンは、ホテルの無重力の中で、アーサーが他の5人をグルグル巻きにして、エレベーターに運び出すシーン。
また、アリアドネの練習の場面とホテルの場面で2度登場する「階段」のだまし絵も好きなので、キャラクターとセットの画面という意味では、主役のコブよりもアーサーの印象が強い。*3
コブの場面から選べば、始終崩れ落ちる第四階層(虚無)の海岸沿いの風景も印象的だ。


なお、第一階層、第二階層、第三階層ともにアクションシーンには事欠かず、4DXの演出も効果的だった。
特に、背中が叩かれたり、後頭部に風が吹きつけられるような体験は、純粋に面白いと感じた。
ただし、前方から煙が出てくるような演出は映画の中に没入させることを妨げるため、やや気持ちが悪かった。


来月公開の『テネット』は、予告編を見る限り、まさに「難しいルール説明+「かつてない映像体験」という、『インセプション』的な映画になるようで、これもとても楽しみだ。
ただし、予告編は長過ぎたのではないか?見せ場をほとんど見せられてしまっているのではないか?という部分だけが心配。
『テネット』主演は、ちょうど先日見た『ブラッククランズマン』主演のあの人じゃないか!と思ったらジョン・デヴィッド・ワシントンという名前からもうっすら連想はしていたがデンゼル・ワシントンの息子だという。
公開まではあと半月あるが、予告編の内容をしっかり忘れた上で、何とか映画館に観に行きたい。


ところで、思わせぶりなラストシーンは、そのままコマは倒れる(コブが子どもたちに会えたのは現実世界の出来事)と捉えたが、夢か現実かを判断する道具としての「トーテム」は、何かの時のために自分も持っておきたいな…と思っていたら普通に売ってました↓


参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com

*1:映像が映るたびに榎本俊二『ゴールデンラッキー』を思い出してしまう

*2:なお、よく引き合いに出される『パプリカ』は、当時は未見で、つい3~4年前に見た。

*3:アーサーの顔を見ていて、どこかで見たことあるなあ、と思っていたら、井浦新でした。『アンナチュラル』で言えば、竜星涼の体型に井浦新の顔を乗せたのがアーサーでは?