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うわっ…日本の女性閣僚比率、低すぎ…?~前田健太郎『女性のいない民主主義』(その3)

女性のいない民主主義 (岩波新書)

女性のいない民主主義 (岩波新書)

先週発足した菅内閣の女性閣僚は、以前よりも1人減って2人となった。
妥当な人材がいない、という、ただそれだけの理由だとしても、ここまで少ないのは、国際的に見ても恥ずかしいのではないか。
ハフィントンポストの記事から引用する。

菅義偉氏が第99代首相に選ばれ、9月16日、官房長官に就任する加藤勝信氏が閣僚名簿を発表した。


20の閣僚ポストのうち、女性は上川陽子氏(法務)と橋本聖子氏(五輪)の2人に留まった。閣僚に占める女性の割合は10.0%となる。

これは世界と比べてどうなのか? 

列国議会同盟(IPU)とUN Womenの2020年1月1日時点のまとめによると、女性閣僚の割合が50%以上なのは14ヵ国。世界全体では、閣僚ポストに就く女性の割合は21.3%(4003中851)となった。


この調査時点では日本は15.8%(19人中3人)で、全体(190)の中で113位だった。仮に新内閣の10.0%をこの調査に照らし合わせると、148位のブータンマーシャル諸島サンマリノ(いずれも10.0%)と並ぶことになる。

女性閣僚2人だけ。菅内閣での比率は10%、G7最低 | ハフポスト

お隣の国である中韓両国を見ても、テレビで見る機会の多い、中国の報道官(華春瑩:ホア・ チュンイン)、韓国の外務大臣(康京和:カン・ギョンファ)が、どちらも要職を長い期間務めていることもあり、日本から見て羨ましくなってしまう。
特に、「民主主義」の国ではない中国と比べても、日本が劣っているような気持ちになり、こんなとき、まさに日本は「女性のいない民主主義」の国だと感じる。

2章では、そんな国同士の比較、もしくは、過去と現代の比較の中で、何が「民主主義」とされてきたのが説明され、この本の醍醐味である、ジェンダーの視点から捉え直すことにより、新たな発見が得られる典型。
ポリアーキー」という言葉がわかりづらく、最初に読んだときは十分に理解できていなかったが、「民主化」の中で「民主主義」を3つの段階で捉えていると考えるとわかりやすい。

シュンペーターの民主主義:権威主義体制との差異は示すことができるが、女性参政権を含まない。

  1. ポリアーキー:女性参政権の概念を含むが、描写的代表が確保されているわけではない。今の日本のように男性優位の体制が残る。つまり「女性のいない民主主義」。
  2. その先の民主主義:十分多くの女性議員(クリティカルマス理論では30%)が存在するポリアーキー

このように整理していくと、日本は、国際的な潮流を見ても、現時点の「民主主義」に留まるわけにはいかない、という気になってくる。
また、コロナ禍で、政策(公助)が及ぶ範囲が広がっていくことを考えると、(男性に比べて、自助・共助(地域)で果たす役割の大きい)女性の議員の少なさは、政策を決める上でも日本の大きな弱点と言える。*1
現政権の問題点を考える上でも、この本の投げかける課題はとても有効だと思う。


以下、第二章『「民主主義」の定義を考え直す』のまとめ。

民主主義とポリアーキー

  • アメリカの女性参政権導入は1920年。しかし、それ以前からアメリカは「民主主義の国」と呼ばれ、1917年のドイツへの宣戦布告の際には、ウィルソン大統領は権威主義のドイツとの比較から、スピーチで「世界は民主主義にとって安全にならなければならない」と述べた。
  • 1917年当時のドイツはアメリカ同様、複数政党制をとり、男子普通選挙が行われており、人種の制限がない分だけ有権者の範囲は広かった。
  • ドイツとアメリカを分けるものは何か。現代の政治学においては、権力者が選挙に敗北して退場する可能性があるかどうか、をもって、ある国が民主主義国であるか否かを判断する。(シュンペーターによる「民主主義の最小定義」)
  • これとは異なり、女性参政権を民主主義の最低条件とするダールによる「ポリアーキー」という考え方がある。
  • 民主主義とは、市民の意見が平等に政策に反映される政治体制を指し、相対的に民主主義体制に近いものをポリアーキーと呼ぶ。ポリアーキーは、普通選挙権を付与する「参加」と、複数政党による競争的な選挙を認める「異議申し立て」という2つの要素から構成される。
  • しかし、ダールの時代には、ポリアーキーの下で行われる選挙でも、当選者のほとんどが男性だった。これは、ポリアーキーという概念は、シュンペーターの民主主義の最小定義と同じく、「代表」という非常に重要な要素を欠いていることを意味する。

代表とは何か

  • 「政治家が、自身に投票した有権者の意見に従って立法活動を行っている」という意味での代表を「実質的代表」という。
  • シュンペーターの民主主義は、これを不可能として定義から除いている。(エリートによる政治を想定している。)ダールのポリアーキーもこれに倣っている。
  • 実質的代表の考え方に対して、「その政治家が、自らの支持者の社会的な属性と同じ属性を持っている」という意味での代表の概念がある。すなわち、代表制の確保された議会とは、議会の構成が、階級、ジェンダー、民族などの要素に照らして、社会の人口構成がきちんと反映されている議会である。このような意味での代表を「描写的代表」と呼ぶ。
  • ジェンダーの視点から見た場合、描写的代表が確保されることは政治において決定的に重要な役割を果たす。男性ばかりが議席を占める議会は、女性を代表することはできない。(描写的代表なくして、実質的代表を確保することはできない)
  • 描写的代表が重要な理由(1)選挙戦において政党間で争点とされる氷山の一角のテーマ以外の争点に関する意思決定については、政治家が幅広い裁量を行使することになる。女性にとっては、同じ経験を共有する女性政治家の方が、男性政治家に比べて自分の意見をよりよく反映すると想定できる。
  • (2)それまで争点化していない問題を争点化できる。
  • ポリアーキーそれ自体は、女性を男性と平等に代表するには、それほど役立たないといえる。少なくとも、男性優位のジェンダー規範が働く環境の下では、政党間の自由競争は、事実上、男性の間の競争となる。

民主化の歴史

  • サミュエル・ハンティントンの『第三の波』(1991)によれば、これまでの世界史において、民主化の国際的な「波」は3度起きた。
  1. 第一の波は、19世紀に広がり、一次世界大戦で後退した。
  2. 第二の波は、第二次世界大戦後に始まり、1960年代にに後退した。
  3. 第三の波は、1970年代半ばに始まり、世界中に広がった。
  • しかし、この議論で前提としている「民主主義」は、普通選挙権を前提としていない。(①成人男性の50%が選挙権を有していること②執政部が議会の多数派の支持に基づいているか、定期的な選挙で選ばれていることを条件としている)
  • これは、1828年アメリカ(女性、黒人は選挙権を持っていない)を、最初の民主主義として分類するための基準と言え、民主化の歴史の見え方を大きく歪めていると批判される。
  • 女性参政権を考慮すると、ニュージーランド、オーストラリア、フィンランドなどが並び、欧米列強で最初に女性参政権を導入したのはロシアとなる。
  • 様々な民主主義の指標の中でも、最も広く用いられているポリティ指標(指導者の選出方法の競争性や政治参加の開放性に関する5つの指標からー10~+10の21段階に分類し+6以上を民主主義体制と分類)も、女性参政権を考慮していない。
  • 近年、ポリアーキーの定義に忠実な指標として作られたポリアーキー指標(0~1の値を取り、数値が高いほど数値が高くなる)では、アメリカは民主主義の先発国ではなく、ニュージーランドが先行していることがわかる。
  • 女性議員の割合との比較で見た場合、ポリアーキーの広がりは女性議員の進出の傾向と連動しない。女性議員の割合が30%という値を世界で最初に突破したのは、1960年代末の東ドイツソ連といった旧共産圏の権威主義体制であり、ポリアーキーの下で30%を超えるのは1983年のフィンランドが最初となる。

民主化の理論と女性

  • 社会経済的な構造が近代化するにともなって、中産階級が拡大し、貧困層が縮小することで、経済的な対立が穏健化する。その結果、政治的な紛争が抑制され、政権交代をともなう政治体制としての民主主義が成立しやすくなる。(近代化論)
  • 民主化論」の中で最もポピュラーな学説である「近代化論」は、シュンペーター型の民主主義を対象としており、女性参政権を含まない民主主義に対する説明である。
  • ポリアーキーとしての民主主義をもたらすメカニズムは近代化論からは導くことはできない。それを考えるのであれば参政権の拡大をもたらす論理の説明が必要となる。
  • しかし、参政権の拡大に関する学説「階級間の妥協としての民主主義」も、男性の参政権拡大を説明するものである。
  • 体制転換を求める抗議活動の中で、女性行動は大きな役割を果たしてきたが、結果として、男性優位のジェンダー規範が強く働き、女性の権利の拡大につながらない事例も多い。
  • そのような中、女性参政権が拡大した過程においては、男性優位の規範を覆す「規範の転換」のメカニズムが見られる。
  • (規範1)国を守る人には、参政権を認めなければならない。
    • 20世紀以前とは異なり、第一次世界大戦以降、総力戦の時代になると、女性も軍需生産など様々な場面で戦争に参加し、国を守る役割を果たす。その結果、女性も参政権を得る資格を持つようになる。
  • (規範2)国民国家は、女性参政権を認めなければならない。
    • 「資格」ではなく、国民国家一般がどのような政治制度を定めるべきかを示す規範。
    • 1878年の国際女性の権利会議開催、1888の国際女性評議会の結成、1904年の国際女性参政権同名の設立など、19世紀末に、女性運動の国際的な連携を通じて広がった。
    • 第二次世界大戦以後、多くの植民地が独立する時期には、男女双方に参政権を認めることはすでに常識となっていた。
  • (規範3)文明国は、女性参政権を導入しなければならない。
    • 野蛮な国と自国を差異化するため、文明国の仲間入りをするためなどの理由で女性参政権を導入する場合がある。典型的なのは、ソ連を中心とする共産圏の国が、資本主義諸国に対する社会主義国の文明的な優位を示すという意図によって導入したケース。
  • ここまで、ポリアーキーの成立過程を見てきたが、ポリアーキーよりも民主的な体制へと進む道はどのようにすれば開けるのだろうか。
  • ポリアーキー』を著したダールは、ポリアーキーの弱点を克服する手段として福祉国家に対する期待を述べているが、そこにジェンダーの視点はない。3章では、福祉国家に関する議論を中心に「政策」について検討する。

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com

*1:「アベノマスク」や「一人10万円給付を世帯主の口座に振り込む」という、頭を捻るコロナ対策は、高齢男性議員の発想ではないか