Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

アレだとしたらアレが成立しないよね~クリストファー・ノーラン『TENETテネット』

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TENETポスター


インセプション』でクリストファー・ノーランの作家性を復習し、十分に準備した上で迎え撃った『テネット』は、ちょっと凄い映画だった。

難解

やはりこの映画の特徴は、派手な見た目から想像できない、その難解さにある。
特にクライマックス。
物語が展開していることは理解しており、映像表現にもワクワクしているが、肝心の展開の内容自体が理解できない。


確かに、登場人物の目的がよくわからないまま話が進むのは、『インセプション』も似たところはあるが、あれだって、時間内に脱出しなければならないことだけはわかる。
しかし、『テネット』は、「ラスボスのセイターの死=世界の終わり」と知らされていたのに 、クライマックス直前にセイターが死んでしまい、ポカーン?としている上に、最後のトンネル内の争いも見た目が地味なこともあり、直感的に状況を把握し切れないまま、終わってしまう。


そもそも「挟み撃ち」という言葉から有効そうな作戦であることはわかるが、映像として印象的な建物の倒壊・復元シーンなどを見ながら、具体的に、どう挟み撃ちをしようとしているのかが、どんどんわからなくなっていく。
この、「どんどんわからなくなっていく」感覚が『テネット』初見時の醍醐味だと思う。(笑)  


なお、ミッションを成功させたらしいことがわかったその後での、ニールこそが「お前!まさか!俺のことを!」という展開も、トンネル内の色々が全く理解できていないので、響かない。(ここは感動シーンだというサインのみ感じる)
しかも、最後の作戦が、オペラ劇場での冒頭のシーンと同じ日に起きた謎の爆発が舞台ということから、映画のラストは劇場に戻って全体的にスッキリするのでは?という淡い期待も打ち破られる。(そもそも劇場のシーンは初見時では全く咀嚼できない)

パンフレットやネタバレ解説

パンフレットには、かなり詳しい解説があるが、さらに理解を深めるため、映画秘宝の町山さん解説や、いくつかのネタバレ解説サイトも読んで、何とか7割くらい(笑)理解した。
特に参考となったのは以下。(他にもオススメがあれば教えてほしいです。)
pixiin.com
www.eiganohimitsu.com
note.com


中でも、ニールについては、多くの見逃しがあったことが分かる。以下は主な見逃しポイント。

  • 冒頭の劇場シーンでは、 赤い紐飾りのリュックの人が 主人公を救ったこと。(逆光弾が使われていることのみ認識)
  • トンネル内で、赤い紐飾りのリュックの人が解錠した上、主人公の身代わりとなって死んだこと。(リュックのみ認識)
  • キャットが、ヨット旅行中に海に飛びこんだ女性を見て、羨ましいと思っていたこと。


もちろん、どこの解説でも書いてあり、ほぼ確定的となっているニール=マックス(キャットの息子)説は、納得感があり、面白いアイデアだが、3回目くらいにやっと気が付くことだろう。
この映画が少し入り込みづらいのは、主人公(名もなき男)や、ヒロイン(キャット)の、性格や悩み、生い立ちなどがないこと。その中では、ニールは一番愛嬌のあるキャラクターで、彼の正体が、この物語の最重要事項だったというのは、納得しやすい。
でも、それなら、もっとわかるように作ってくれれば良かったのに…とも考えるが…。


明言しなかったのは、おそらく、ニール=マックス説に大きな問題点があるからなのではないかと思う。
つまり、どうやって逆行してきたかという問題。


まず一つの可能性として、マックスが自らの意思で命を懸けて主人公を救おうと考えたとすると、作中でのマックスの年齢を8歳として、例えば18歳まで成長してから10年かけて8歳時点まで遡ったとする。(少し若いが28歳となったマックスがニール)
しかし、逆行は、酸素マスクが必要なのに、10年間も遡るのは難しいだろう。(ご飯をどう食べるかという問題もある…)
個人でやるとすれば、準備が難しいし、組織(主人公)の命令だとしたら、あまりに冷酷だ。


もう一つの可能性は、13歳くらいから「訓練」のために、何度も逆行を繰り返し(例えば2か月逆行+1か月順行を繰り返す)、累計年数として30代くらいまで年齢を重ねているケース。
「逆行」自体が、組織ぐるみでないと難しいことを考えると、「訓練」として、逆行を重ねる、というのはあり得る。
これは「テネット」創設者の主人公が手引きしたと考えないと成立しないが、若いマックスに「世界を救うために死んでくれ」と教育したこととなり、最初の案以上に主人公に共感しにくくなる。


結局、長期にわたる「逆行」を想定するのは難しいため、事件後の主人公が「TENET」を立ち上げたのは数か月後であり、ニールとマックスが別人と考えないと成り立たないのではないか。

今後読む本

ということで、映像表現としてものすごく楽しめたし、二度目を見ればさらに楽しいだろうが、ひたすら難解で驚いた。
これは、自分の中の「逆行」成分が不足しているのかもしれない。
関連作として、まずは、映画として、以前チャレンジして寝てしまった『インターステラー』を観てみたいが、それ以外に、パンフレットで大森望が挙げていた2冊『時間衝突』『匣の中』。また、映画秘宝町山智浩が関連作として挙げた『時の矢』、JGバラード『終着の浜辺』、純粋な「逆行」作品ではないが、以前読んだ『ベンジャミン・バトン』『僕は明日昨日のきみとデートする』も読み直したい。

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時の矢―あるいは罪の性質

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J・G・バラード短編全集3 (終着の浜辺)

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匣の中 (講談社文庫)

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ベンジャミン・バトン 数奇な人生(字幕版)

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ぼくは明日、昨日のきみとデートする

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参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com