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女性キャラクターが戦う理由~王谷晶『ババヤガの夜』

ババヤガの夜

ババヤガの夜

  • 作者:王谷晶
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: 単行本


ちょうど、Yahooの記事で、『鬼滅の刃』に登場する女性キャラクターについて取り上げた記事があった。鬼殺隊の中心メンバー「柱」を担う甘露寺蜜璃と胡蝶しのぶという二人の女性が、それぞれ何故鬼殺隊に入り「柱」となったのかという動機の部分に焦点を当てた、植朗子さんの記事だ。
記事はこのように結ばれる。

甘露寺蜜璃と胡蝶しのぶは、「鬼のいない平和な世の中」のために、その身をささげた、戦いの女神である。胡蝶しのぶは、小柄な女性という体格を克服するために、苦痛とともに自分の肉体を変化させていくことを選択した。甘露寺蜜璃は、女性という抑圧から脱却し、人々のために戦い続ける道を選択した。この2人の女神によって、鬼殺隊は、本来なら互角に戦うことすら困難な強大な敵・鬼を撃破していく。彼女たちの願った平和な世は、彼女たちの強靭な意思によって実現へと向かっていくのだった。
甘露寺蜜璃と胡蝶しのぶ 『鬼滅の刃』で2人の「女神(ミューズ)」が必要だった意味 (1/4) 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)


かように、女性が戦うのには、「理由」が必要だ。
男は常に好んで戦いたがり、 「戦う理由」などいらないのに対して…。 


そこで、この『ババヤガの夜』の主人公・新道依子の特異性が際立つ。
新道は、「理由なく暴力をふるう女性」なのだ。

お嬢さん、十八かそこらで、なんでそんなに悲しく笑う――。暴力を唯一の趣味とする新道依子は、腕を買われ暴力団会長の一人娘を護衛することに。拳の咆哮轟くシスターハードボイルド! 


寺田克也によるカッコよすぎる表紙の二人は、とにかく強い新道依子と、新道が守る尚子。
生まれも育ちも全く異なる二人の関係性が、物語の一番のポイントで、最初はあくまでガードマンと主人。しかも、新道は、主人に対してすらぶっきらぼうで、どちらからも寄り添おうとはしない。
かといって、何かの出来事をきっかけに打ち解けるようになったというのでもなく、しかし、二人は段々と心を許していく。


もともと王谷晶さんは、『完璧じゃない、あたしたち』のときから気になっていたが、結局、この本が初読。アトロクのシスターフッド特集で王谷さん自身が出演されていたのが、最後の一押しとなって読んでみた。  

アトロクのシスターフッド特集のキャッチフレーズは「仲良しじゃなくたって、わたしたたちは戦える。 今こそ、女性同士の連帯を扱った『シスターフッド』な作品を見たり読んだりしよう!特集 by 王谷晶」。
この「仲良しじゃなくたって、わたしたちは戦える」というキーワードこそがシスターフッドの概念のキモだと受け取ったが、まさに『ババヤガの夜』は、「恋愛」でもなく「仲良し」でもない二人の関係性が面白い作品だった。


この面白さは、自分の感覚的にはBLを読んだときの気持ちと似ている。

『ババヤガの夜』を読み始めると、一時期好きだった花村萬月の暴力もの、もしくは夢枕獏のバイオレンス作品を読んでいるような気分になってくる。それでも、暴力描写に特化した、この種の作品で女性が主人公なのは初めてなので、どこに連れていかれるか分からずにワクワクする。
暴力団会長の一人娘 の尚子が登場すると、結局は「勇者がお姫様を救う物語」なのか、と思いきや、物語中盤に大きな仕掛けがあり、以降の展開には、そう来たか!と唸ってしまう。それと同時に、自分は、「何でもあり」のはずの小説にも、ステレオタイプの「型」を嵌めて見ていたのだろうな、ということに気がつかされる。

自分にとっては、「男+女=恋愛」という典型的な物語の流れから少し外れることによって、より「恋愛」や「嫉妬」を純化した形で感じられるのがBL作品で、それと同様に「枠を外される」快感が、この『ババヤガの夜』にもあった。

勿論、『鬼滅の刃』に戻れば、使命感を持って戦うというよりは、単に「異常に戦闘能力の高いクリーチャー」という側面もあった「竈門禰豆子」こそが、ある意味で女性キャラクターのステレオタイプの枠を外す重要な役回りを持っていたと語ることもできるし、鬼滅の女性キャラと言えば普通は禰豆子を扱うのに、そうしなかったのが冒頭の記事の面白いところだろう。

なお、アトロクの特集では、改めてセーラームーンの偉大さが取り上げられたり、ステレオタイプから外れる女性キャラクターの企画が通りやすくなった理由に村田沙耶香コンビニ人間』が挙げられるなど、新しい発見もあった。今まで読んだ作品も、女性キャラクターがどう扱われているか(ステレオタイプに縛られていないか)という視点で読み直すのも面白いかもしれない。


『ババヤガの夜』は単行本として出ているが、それほど長くなく中編。映画だったら90分作品というイメージであっという間に読み終わる。しかも、社会的な問いかけが強かったりするわけでもなく、痛快なエンターテインメントなので、是非、(暴力描写が大丈夫な人には)いろんな人にオススメしたい本だった。
王谷晶さんは引き続き、著作を追いかけようと思う。

完璧じゃない、あたしたち

完璧じゃない、あたしたち

  • 作者:晶, 王谷
  • 発売日: 2018/01/26
  • メディア: 単行本
どうせカラダが目当てでしょ

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