Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

シンプルに楽しい短編集~品田遊『名称未設定ファイル』

17編が入った短編集だが、ネット炎上や掲示板など、インターネット上の話題を扱ったものが多く、最も短いものは2ページの超短編。縦書きだけでなく、突然上下を逆さ*1にして横組みの掲示板小説に移行したりとバラエティに富む。

中には「パスティーシュ」としか形容できない作品もあり、読んですぐに清水義範を思い出した。
読後に内容を振り返ってみると、わずか3.7秒のGIF動画の中に出てくる男女がお互いでコミュニケーションを取ろうとする「GIF FILE」の2人の名前はジャックとベティで、もしかしたら『永遠のジャック&ベティ』が念頭にあるのかもしれない。


どれも面白いが、ホラー要素が入ったものが上手く、「意味が分かると怖い話」というジャンルになるのか、「04カスタマーサポート」は怖い。また、朝井リョウ『正欲』を思い起こさせる「06紫色の洗面器」も奇妙な味わいを残す。架空の医療ガジェットを題材にした「09過程の医学」も皮肉が効いている。

SFでいえば「11ピクニックの日」や、袋とじのついた最後の話「17クラムゲートの封は切られる」は、架空の種族(異星人)の世界観を描くものだが、これも話の長さとアイデアの塩梅がちょうどよい。アイデアの扱いが粗いと途端につまらなくなるだろう。

17話どの話も、手を抜かずに作られている気がして、大満足で読み終えた。
もともと雨穴『変な家』を読んで、作者のことが気になり、Amazonで検索したら、同様にweb上を作品発表の場としている品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)の作品がいくつか出てきたのが読んだきっかけだと思う。
これほどのアイデアマンだったら、漫画(くーろんず)も面白いものになっているはずで、そちらも読んでみたい。

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com

*1:上下逆さにしないと逆開きになってしまうため