Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

百戦百打一瞬の心 VS 脱走~橋本絵莉子『日記を燃やして』

百戦百打一瞬の心

久しぶりにテレビでしっかり高校サッカー準決勝「青森山田(青森)×高川学園(山口)」を見た。
元々スポーツ観戦はそれほど熱を入れて観ることはなく、現地で応援ということもほとんどしないが、高校時代にサッカー部に所属していたこともあり、国立競技場で1日2試合を楽しめるの高校サッカー準決勝はお得だと、大学生時代には数回応援に行った覚えがある。

それでも、最近はテレビ観戦からも離れていた。
今年、観てみようと思ったのは、やはりセットプレーでニュースに何度も取り上げられて気になっていた高川学園がまだ準決勝に残っており、相手がここ最近は決勝の常連チームとなっている青森山田だからだ。

www.soccerdigestweb.com


ところが、試合開始早々に青森山田が先制。
結局、高川学園は、ゴール近くではフリーキックどころかコーナーキックも蹴らせてもらえず、いわゆる「トルメンタ」や「列車」等の多彩は技を披露する機会すらない圧倒的な格の違いを見せつけられ、6-0という結果に終わった。

なお、青森山田の圧倒的強さは、やはり高校サッカー界では問題もあり、ちょうど昨日亡くなった島原商業、国見学園監督だった小嶺忠敏との比較から、監督就任27年目の青森山田・黒田剛監督(51)について書かれた記事もあり、興味深く読んだ。
spaia.jp


ただし、青森山田の強さは、(全国から集められた選手の)個々の技術力・体格だけでなく、個々のプレーの集中力にあるのは見ていてよく分かった。まさに、チームのモットーである「百戦百打一瞬の心」が体現されている。
圧倒的にボールを支配できる力があるからではあるが、ダラけた局面がほとんどなく、常にゴールに向かって得点を狙うプレーが、観ている観客を熱くさせる。


勝戦の相手は、優勝候補だった静岡学園を下した関東第一にコロナ感染者が出たため、準決勝を不戦勝で勝ち進んだ大津高校。もともと地力の差があることに加えて、準決勝が無いことによる気力面のマイナスが泣きっ面に蜂となり、準決勝以上の圧倒的な試合になってしまう可能性がある。大津高校イレブンは、今頃、『ロッキー』を集中的に見てメンタルを整えているんだろうか…。


さて、話が飛んだが、繰り返すと、青森山田のプレーはまさに「百戦百打一瞬の心」というキャッチフレーズがそのまま表れているようで、いわゆる「勇気をもらう」「元気をもらう」=何かの目標に対して前向きな気持ちになる効果があり、こういうのが正月スポーツを皆が見る理由なんだよなあと思った。

脱走

ポップスの歌詞は前向きなものが多い。
だから、後ろ向きなものが耳に入ると、お!と思って聴いてしまう。
堀込高樹1人体制になったKIRINJI『crepuscular』の中でも「How old?曖昧だ 俺 今 いくつだっけ」(曖昧Me)とか「ネタバレしてる人生」(薄明)という歌詞に惹かれるし、このアルバムは、そういった内省的な歌詞が多く自分好みだ。


そんな中、年末に聴いた元チャットモンチー橋本絵莉子のソロアルバム『日記を燃やして』が、KIRINJI『crepuscular』を超える面白い歌詞と、統一したアルバムコンセプトで夢中になって聴いている。


中でも、年初に聴きたい楽曲は「脱走」「前日」。
それぞれの描く「百戦百打一瞬の心」と真逆な世界が良い。


「脱走」は毎日のルーティーンから外れて、好きなところに脱走してもいいじゃないかという歌で、練習のシュート一本一本にまで魂を込める「百戦百打一瞬の心」とは正反対の内容。
ここまで努力を重ねて成果を出してきた人だからこそ説得力があるとはいえ、サビは誰にでも当てはまる。

やってみて嫌だったらやめたらいいねって
やってみて飽きたらやめたらいいねって
ただやってみようと思ったから
やってみただけ
一年の中のたった一日さ
人生の中のたった一瞬さ

もしカレンダーめくるの忘れても
ただカレンダーめくるの忘れた日なだけで
止まってなんかいない
明日2枚めくろう
それだけの話さ

そして「前日」の、部屋を掃除しようと決意してから諦めるまでの変わり身の早さ!
2番では、笑って聞き過ごした他人から言われた嫌な一言に対して明日は何か言い返そうと決意する悔しい内容。それでも、最後は、前向きになれるいい曲。

わーめっちゃモノある
今すぐこの部屋大掃除したい
そういえばお腹すいたな
その前にたぬきち撫でよう
まー明日がんばるか
部屋は逃げんし
そういう体でいこう

それ以外の曲も歌詞が良すぎて全部引用したいくらいだし、これから聴いていくうちにもっと心に響いてくるんじゃないかと思う。

  • 初心には返れない(かえれない)
  • 解散はできないようにもうバンドは組まない(今日がインフィニティ)
  • 「誰ももらってくれんかったら 嫁にもらってあげるな」世界一嫌な曲ね(ロゼメタリック時代)
  • あんなに口うるさかったかあさんが 結婚したとたん何にも言わない さびしいよ それはそれで(あ、そ、か)
  • 少し年をとったね 順番通りだね(特別な関係)

スポーツでも仕事でも、これ!というときは「百戦百打一瞬の心」が重要だけれど、人生全体で考えると、いわゆるゾーン(『鬼滅の刃』でいう全集中)に入っていない時間の方がずっと長い。年を取ればとるほど、そういうダメな時の自分と付き合ってくれる歌の方に惹かれていく。
そして、物語ではなく、フレーズ単位で頭に入ってくる「歌詞」という媒体だからこそ、人は自分の気持ちを、人生を、そこに載せてしまうし、だから歌は楽しい。
しかも『日記を燃やして』は、方言交じりの歌詞やたぬきちという飼い犬まで登場する橋本絵莉子の、まさに日記的な内容で、曲ごとの切り売りではなくアルバムで聴くことに意味がある。


昨年半ばからまた音楽を少しずつ聴く習慣を取り戻しつつあるけど、その中でもアルバム単位で楽曲を聴く楽しさを最高レベルで味わえる一枚に出会えて嬉しいです。