Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

やはり目立たない北条義時~坂井孝一『承久の乱』


今年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の時代考証担当の坂井孝一さんの著書。
ということは、歴史の勉強になるだけでなく、これから大河ドラマで描かれるストーリーを探る上でもヒントになるだろうと思って読んでみた。

既に漫画2冊で予習済*1みということもあったが、非常にわかりやすく書かれており、理解が深まった。
本書の文章を引用しながら、主要登場人物の印象について、これからの大河ドラマへの期待も込めながら綴ってみた。

源実朝

坂井孝一さんは、本書の前に源実朝の本を書いているということもあって、もしかしたら抑え気味にしているのかもしれないが、熱が入っていることがよくわかる取り上げられ方。悲劇の天才歌人という一般イメージから離れて、幕府を治める将軍としての実朝について理解できた。
特に、「東国の王権」構想は興味深い。

尊敬する亡父頼朝と同じく王権を意識し、また自分に子供ができないと自覚した実朝にとっても、名付け親であり政治・文化の模範である後鳥羽の皇子を将軍に推戴し後見するという策、つまり王権という公家政権の伝統的権威を新興のの武家政権に取り込み、幕府をいわば親王に譲ってその後見になれば、後鳥羽が譲位して自由を謳歌したように、実朝も前将軍の権威を保ちつつ、将軍が果たすべき公務から解放され、遠隔地に足を延ばすなどの自由を謳歌できる。(略)いわば、実朝による「幕府内院政」である。p96

一方で、2冊の漫画の中でも脈絡なく挟まる、謎の渡宋計画がかなりよくわからなくて笑ってしまうのも確かだ。
本書の中でも「実朝の夢は実によく当たった。一種のカリスマ性を醸し出すほどであった。」(p90)*2と書かれているが、夢のお告げで巨大な船を建造し、それが浮かびすらしない…。
このエピソードが大河ドラマでどう取り上げられるか。そして、この不思議な雰囲気を演じられる俳優が誰なのか。坂井孝一さんが専門家として一番思い入れのある人物であろうことも含めて気になる。
ただ、京都から正室を取り、側室を取らず、子を持たずに若くして亡くなってしまう、という生涯は徳川家茂と重なる。とすると、『青天を衝け』で家茂を演じた磯村勇斗(針ネズミ)が似合う気もする。

後鳥羽上皇

日本の歴史の漫画2冊で、後鳥羽上皇が文武両道で実朝にも目をかけていたという基本的な部分は把握できていても、実朝暗殺後、承久の乱に進むまでの唐突な心変わりがよくわからなったが、この本を読むと経緯がよくわかった。


特に漫画2冊で抜けていた重大な事件は、大内裏焼失だ。
実朝横死のあと「次もしかしたら俺が将軍かも」と思っていた摂津源氏の名門で政所別当に就任していた源頼茂(よりもち)は、三寅が後継将軍となり「切れて」しまった。召喚に応じない頼茂を追討するため在京武士が駆け付け合戦に及んだが、籠って火をつけ自害し、その火が広がったという。

しかし、そもそも頼茂を追討しなくてはならなくなった責任は、実朝の暗殺を許し、将軍職をめぐる内紛を起こした幕府にある。摂関家の子を後継将軍にするという妥協までしてやったのに、権力闘争を都に持ち込むとは何事か。後鳥羽は思いをめぐらすうちに、コントロール不能な実朝亡き後の幕府に敵意を募らせていったのではないか。p121

大内裏が焼失した原因は幕府の内紛が都に持ち込まれたことであり、幕府は地頭を指揮して積極的に再建に協力すべきである。そう後鳥羽は考えたであろう。にもかかわらず、地頭の抵抗を幕府に訴えても埒があかない。後鳥羽からすれば、今の後鳥羽からすれば、今の幕府はコントロール不能なのである。
もともと頑健な肉体と抜群の身体能力を持ち、乗馬・水練・笠懸などの武技に秀で、自ら太刀の焼き入れをしたと伝えられる後鳥羽には、幕府や武士の存在そのものを否定する気などなかったと思われる。ただ、日本全土に君臨する王が、幕府をコントロール下に置けないのは問題であった。なぜコントロールできないのか。幕府の中に元凶がいるからである。その元凶とは誰か。p135

で、その元凶とは北条義時なので、北条義時を追討せよというのが承久の乱の始まりだ。ただ、後述もするが、この本の中でも北条義時は存在感が薄く、なぜ元凶なのかよくわからなかった。

三浦義村北条泰時北条時房

漫画2冊では、何度か「裏切者」として名前が出て気になっていたのが三浦義村和田義盛の乱の際はまさに裏切者としてだが、公暁による実朝暗殺の黒幕説にも名前が出る。(公卿の乳母夫=後見人が三浦義村

しかし、承久の乱の序盤から重要な役割を担う。本書での評価も以下の通り。

和田合戦の時も、三寅下向の方針を打ち出した時も、キーパーソンは三浦義村であった。和田合戦では同族の和田義盛との約諾を破り、承久の乱でも弟胤義の勧誘に乗らなかったことから、義村は権謀の人と評価されがちである。(略)
しかし、別の角度からみれば、義村は一貫して北条義時の側に立っており、ブレはない。p169

これを読むと、大河ドラマ三浦義村山本耕史が演じることに納得感が生まれる。
そして、承久の乱の戦全体と戦後処理で重要な役割を果たしたのも北条泰時北条時房三浦義村だったというから、大河ドラマでも出ずっぱりになるのだろう。実質的に主役に近いのかもしれない。


なお、ここで挙げた3人のうち3代目執権で御成敗式目で有名な北条泰時は義時の息子として知っていたが、北条時房はかなり気になる人物。都の教養を身につけ、蹴鞠を得意として後鳥羽上皇からも一目置かれたという。北条義時の12歳下の異母弟で、泰時とは、承久の乱でともに活躍し、ライバル関係にもなったという。Wikipediaを見ると「容姿に優れた人物」などとも書かれている。仮面ライダー枠として、ドラマ『最愛』が素晴らしかった高橋文哉(ゼロワン)を期待したい。

追記:よく考えると、先に挙げた磯村勇斗仮面ライダー枠であること、また、年齢について改めて精査が必要なので考え直してみる。生年を調べると…
北条政子:1157
北条義時:1163
北条時房:1175
北条泰時:1183
源実朝:1192
仮面ライダー俳優で固めてしまえば、実朝はやはり磯村勇斗北条時房高杉真宙北条泰時が高橋文哉でどうでしょうか。

北条義時

この本を読むと、やはり北条義時は地味だ。
そもそも言及が少なく、承久の乱では北条義時は鎌倉にいただけだったということがわかった。

一か月前の五月二十二日、嫡子の泰時を先頭に鎌倉方の軍勢を出撃させてからというもの、義時は戦勝と世の平安を願う祈祷を鶴岡八幡宮勝長寿院永福寺大慈寺で行わせてきた。p201

館に雷が落ちて凶事ではないか!と不安ばかりが募っていたとのことで、とても格好悪い。


本の中では、京方が「後鳥羽ワンマンチーム」だったのに対して、鎌倉方が「チーム鎌倉」として結束力・総合力を十二分に発揮したことが勝敗の分かれ目だったとされているが、「チーム鎌倉」に占める義時の割合はいかほどだったのだろうか。
なお、大河ドラマでは、二代将軍頼家を修善寺に幽閉し殺害する流れや、関連して比企氏を滅亡に追い込み、また、実朝暗殺後に源氏の血を引く者を次々と誅殺した北条の怖さがどう描かれるかはもっと気になる。
もしかしたら北条義時はそういった冷酷な部分で評価されているのか。

とにかく義時の凄さが感じられない本だったが、このあたりは、最近出たこちらに書かれているのかもしれない。
引き続き大河ドラマを楽しみながら、歴史を勉強していきたい。

そして、もう一冊の新書『承久の乱』も。

*1:なぜ北条義時は「学習まんが日本の歴史」に登場しないのか~『鎌倉殿の13人』時代の日本史漫画2冊読み比べ - Yondaful Days!

*2:ちょうど今日放送された第三話では、頼朝が、夢枕に立った後白河法皇からのお告げがきっかけで挙兵の決意をする場面が出てきた。怨念や祈祷、夢などがドラマの中でどう取り扱われるのかは楽しみ。