Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ツール・ド・フランスを迎撃~近藤史恵『サクリファイス』×映画『パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』

今年は、色んなタイミングが重なり、ツール・ド・フランスを見てみようということになった。
ロードレースの小説の傑作と言われる『サクリファイス』のシリーズを、これを機会に読み直してみよう、そういう流れになるのは当然のことだ。
ということで、ツール・ド・フランスは既に始まってしまっているが、開始前に読んだ感想と、併せて観た映画の感想を。

近藤文恵『サクリファイス

自分にとって、この小説は「速い」。
ここまであっという間に読めてしまうと、本を読むこと自体がもたらす快感に嬉しくなる。
11年ぶりの再読となるが、持ち前の記憶力の無さを存分に発揮し、ミステリとしての驚きも十分に味わえた。
小説冒頭では悲劇的な結末が予見できる文章があるが、その悲劇が誰に起きるのか覚えていなかったのだ。(笑)


文庫版は、大矢博子さん(書評家)の解説に熱がこもっていて素晴らしい。
ロードレースの仕組みについて説明したあとで、このようにまとめる。

そしてまた、そんなアシストたちの犠牲の上を無駄にしない唯一の方法、それはエースが優勝することだ。本書の中でエース石尾のこんな言葉がある。
「俺たちはひとりで走っているんじゃないんだぞ。(中略)非情にアシストを使い捨て、彼らの思いや勝利への夢を喰らいながら、俺たちは走っているんだ」
そんなエースのために走る白石は、捨て駒であることが自分の仕事だと感じている。そしてそういう仕事が「好きなんだ...なんか、こう、かえって自由な気がする」と笑う。

つまり、ロードレースの仕組みとキャラクターの性格が「犠牲」という言葉を中心にしてきれいにまとまっている。それがこの小説の一番の特徴だ。
そして「悲劇的結末」にもかかわらず、後味の悪さがない前向きな終わり方をする。
それは、事件を通した、主人公・白石誓のアスリートとしての成長、人間的成長が明確に感じられるからだ。
終章は「快晴だ。日本ではありえないほどの快晴だ。」という一行から始まり、事件の1年半後、スペインで選手として活動しているチカ(白石誓)の様子が描かれる。
初めてのグラン・ツール。そして来年はフランスへ。
ジャンプ漫画のような下克上感にとてもワクワクする。

パンターニ/海賊と呼ばれたサイクリスト』


今回、ツール・ド・フランス開始前に、ジロ・デ・イタリアの2022のレースもダイジェストで見たが、まず手始めにマルコ・パンターニの映画を観た。
タイトルからは想像していなかったが、まさに「悲劇的な」としか言いようのない最期と、街を埋め尽くすような葬儀の様子に驚いた。パンターニを苦しめる後半のテーマは、『サクリファイス』の核の部分とも重なる。
ジロ・デ・イタリアに興味を持ったのは、パンターニが達成したダブル・ツール(グラン・ツールと呼ばれる3大レースのうち2つを同一年度に制覇すること)の様子を見てだったが、自分にとっては、実際のロードレースの入り口として、とても良い映画だった。(とはいえ、後半が辛過ぎるのですが…)


www.youtube.com

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com
→「犠牲」の話と絡めて、『鋼の錬金術師』の話を書いている!読み直したくなってきたなあ。

pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com
pocari.hatenablog.com