Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ブライアンを愛でる映画~『ブライアン・ウィルソン 約束の旅路』

ビーチボーイズは、自分にとって本当に思い入れのあるグループで、ビートルズはむしろビーチボーイズとの関連から聴き始めた。すなわち『ラバーソウル』に対抗して『ペットサウンズ』が出来、『ペットサウンズ』に対抗して『サージェントペパーズ』が出来た、という話からビートルズに触れていったみたいなところもある。
1995年頃、インターネットを始めた頃に、音楽関係のテキストサイトをまさに「サーフィン」する中で、いつも訪れていたのは萩原健太のサイトだったということが大きいだろう。


今回、ブライアン・ウィルソンの映画が上映されていることを知り、『ペットサウンズ』~『スマイル』あたりの頃の知られざる事実を語り、当時の秘蔵映像が出てくるような映画なのかと勝手に想像していた。
ところが、観てみると、これは相当に変わった映画で、最も誤解していたのは、情報量(蘊蓄)がメインの映画では全くないということ。


ひとことで言うと、この映画は、ブライアン・ウィルソンを愛でる映画だったというのが自分の感想。
というのは、映画は、ほとんどが、ブライアンの友人である編集者ジェイソン・ファインとのプライベートな会話で成立しているからだ。そしてそのほとんどが車中の映像。こんな映画は見たことが無い。
インタビュー嫌いのブライアンの話を聞き出すため、運転席のジェイソン・ファインと助手席のブライアンが、ただただ会話をする映像が3年間で70時間分撮影され、これを映画にしたのが本作だという。
編集前の70時間の中には全く話さない時間がかなりあったというが、映画になった部分もブライアンは饒舌というわけではない。ただ、そのひとことひとことに誠実さを感じられるので、言葉が出てくるのを待つ時間も楽しい。20代の頃のブライアンのインタビュー映像も出てくるが、自分はブライアン・ウィルソンの顔、表情が好きなのかもしれない。


映画で語られるのは現在の音楽活動と過去の思い出話。思い出話の中心を占めるのは、2人の弟であるデニスとカールについてで、この映画のタイトル(Long Promissed Road)もカールの作った曲のタイトル(『Surf's Up』収録)から取っている。
ドライブは、思い出の場所を訪れていくかたちをとる。カール・ウィルソンの自宅を立ち寄ったとき、挨拶に行くと車を降りるジェイソン・ファインにブライアンはついていかない。51歳で亡くなったカールが闘病で辛い時期を思い出すからだという。車中映すカメラが、無言で涙をぬぐうブライアンを捉えたシーンが、この映画のクライマックスで、ここはもらい泣き。


映画はインタビュー以外に、スタジオでの録音など現在の音楽活動の映像も多く、今なお現役のミュージシャンとして精力的に活動している様子も楽しめる。ここ数年は彼の音楽に触れていなかったが、また聴き直してみよう。そう思わせる、すばらしい映画でした。


なお、パンフレットを読むと、自分が当初期待していた蘊蓄を詰め込んだ映画は、過去に何作か作られているようだ。

  • 1985:『アン・アメリカン・バンド』→『ペットサウンズ』から『スマイル』にかけてのブライアンの音楽的冒険についても触れられている
  • 1995:『駄目な僕』→同名アルバムのレコーディングをするブライアンの姿とキャリアの振り返りをまとめたもの*1
  • 2015:『ラブ&マーシ― 終わらないメロディー』→過去2作+α

つまり、これらの映画で過去の業績については十分に触れられているので、本作はブライアン自身の精神的なヒストリーに焦点が当てられているという。
と思うと、やっぱり1995年の『駄目な僕』が見てみたいなあ。


なお、今回さっそく聴き直したのは映画の中でかかることの多かった「God Only Knows」「Long Promised Road」でしたが、『ペットサウンズ』『SMILE』関連楽曲以外だと好きなのは『SUNFLOWER』収録の「This Whole World」です。うんばでぃりっぱ、うんばでぃりっぱ、ってずっと歌ってしまいます。

www.youtube.com

*1:渋谷系が盛り上がったこの時期に、自分はビーチボーイズとブライアンのソロ作に興味を持ってたくさん聞いていたので『駄目な僕』は懐かしいタイトルだ。