歴史と漫画の相性が良いことはよく知っている。駿台予備校世界史講師による本ということもあり、これはかなり期待できるのではないか?
と思っていたが、店頭で本を実際に見ての印象は悪かった。
- 18章あるので仕方ないとはいえ、漫画は戦争シーンのみ7~8ページで短い。
- 前後に「小太郎」(中1)と「つきじい」(2500年前から来た古代ギリシアの歴史家トゥキディデス)の会話による補足情報が挟まるだけで、突っ込んだ解説がない。
これでは、18個の戦争イベントの不十分な解説を「一見わかりやすく」読ませられるだけではないかと考えた。
しかし、読んでみると、バトル01~バトル18を通して、紀元前から現代まで数珠繋ぎのように時系列に上手く繋がっており、宗教的な対立や民主主義と専制主義の流れを理解するのにとても役立った。
特に、カトリックとプロテスタントの対立については、日本への影響を含めて、改めて頭の整理ができたことは非常に良かった。
確かに「平和ボケした日本人に喝を入れる」という目的のため、日本国憲法を否定的に取り上げる(p116)部分など、若干抵抗を感じながら読んだ部分もある。
しかし、ウクライナの戦争の状況を見ていれば、「平和憲法が日本を守ってくれる」などと言えないことは明らかで、過去の歴史から学ぶということは圧倒的に正しい。
ということで、自分史上、最大限の興味を持って世界史について少しずつ勉強している今の時期に、歴史全体を俯瞰して学ぶことができる良い本だった。
なお、一般にバトルマンガの「バトル」というのは、「人VS人の戦い」を示し「戦争」そのものは指さないのでは…?という懸念はあるが、全編を通して同じ漫画家(大久保ヤマトさん)が書いているので漫画部分は非常に読みやすい。そしてとても巧い。
これを次の興味、次の読書に繋げていきたい。
各章の内容+個人的感想(★)
この本のとても残念なところは「年代」が全く書かれていないこと。
おそらく、「世界史=年代」という苦手意識を持った人への配慮なのではないかと思うが、自分は年代暗記の語呂合わせが好きだったので、家にあった以下から合わせて載せる。(赤字)
- アテネを勝利に導いたアテネ海軍の司令官テミストクレスは市民集会により国外追放となり、敵側のペルシアに渡った。民主主義が独裁政治に勝ったが、民主主義の悪い側面(衆愚政治)の例といえる。
- 謝礼は3回、サラミス海戦(前480:しやれい)
バトル03 ヤマトvs隋帝国
独立国だと認めさせた「遣隋使」
- 日本侵攻も視野に入れていた隋は、その後、高句麗遠征に失敗し、じり貧に。
- 浪費や、むなし隋滅亡(618:ろうひや)/隋が滅亡して唐がおこる
- 中華⇔夷狄(周辺蛮族)の冊封体制から日本が抜けた契機が小野妹子の遣隋使。
- ★白村江の戦いで負けたのは中大兄皇子。その後、壬申の乱(息子・大友皇子VS大海人皇子(天武天皇))までの流れはしっかり知りたい。あ、『火の鳥・太陽篇』が…
- イスラム教徒はエルサレムを占領した後も、ユダヤ教徒やキリスト教徒も住むことを許し、巡礼も認めた。
- しかし、十字軍(キリスト教徒)はエルサレムを独占し、フランスの貴族が「エルサレム王」となる
- エジプト王サラディンがエルサレム王を破る。キリスト教徒の聖地は残し、聖地巡礼も認めた。
- その後も十字軍は何度も攻め込んでくるがエルサレムは奪えなかった
- 十字組む、人は目指せよエルサレム(1096:じゅうじくむ)/第1回十字軍開始
- ★この流れを見るとイスラム教徒の方が寛容。このあたりもしっかり勉強しないと…
バトル07 金vs南宋
平和国家の悲劇「宋金戦争」
- 軍人の反乱によって滅びた唐のあとに中国を統一した宋は科挙で選ばれた官僚に政治を任せた(文治主義)
- それゆえ軍の弱い宋(南宋)は話し合いで平和を維持しようとし、金に負けるが、貢ぐことで何とか残る。
- その後、モンゴル帝国が興り、金を滅ぼし、宋も滅ぼす。
- 人々逃げろ江南へ(1126:ひとびとにげろ)/靖康の変
- ★著者が現代日本を一番重ねて見ているのは(話し合いで平和を維持しようとして失敗した)宋王朝のようだ。
- 元寇のあと、モンゴルはベトナムやジャワにも遠征したため軍資金がなくなってしまった結果、3度目の元寇は計画のみに終わる。
- その際、モンゴル兵はベトナムやジャワの遠征でマラリアに苦しめられた。
- 逆に、ペスト(黒死病)はモンゴルによって世界に広めた
バトル09 オスマン帝国vsビザンツ帝国
交通の要所をめぐる「コンスタンティノープル包囲戦」
- メフメト2世VSコンスタンティノス11世
- ビザンツ帝国は、東ローマ帝国が縮小しギリシアだけを支配する小国となった状態
- 大砲が投石機にとって代わり、大砲・鉄砲が騎馬戦法を無力化した。(モンゴルもロシアの鉄砲隊に制圧されていった)
- 黒色火薬の発明から鉄砲・大砲という武器の変化は、中国→イスラム→欧州→日本と渡り、日本にも影響する。
- 一夜で降参、ビザンツ帝国(1453:ひとよでこうさん)/ビザンツ帝国滅亡
- 十字軍は失敗したが、キリスト教徒はイスラム教徒に奪われたイベリア半島の南側の領土を取り戻した(レコンキスタ)
- これによって出来たスペイン・ポルトガルは世界中に宣教師と軍隊を送り込んだ。(ex.ザビエル)
- アステカはスペインのコルテスによって滅ぼされる。アステカは免疫を持たなかった天然痘にも苦しめられた。(スペインはこれまで何度も流行ったため免疫があった)
- 以後追試、明日手変え、残るテストで、手の内とらえん(1521:いごついし)/コルテスがアステカ王国を征服
- フェリペ2世VSエリザベス1世
- スペイン(カトリック)が支配していたオランダ(新教徒:カルヴァン派)が大反乱を起こしたが、イギリスがこれを助け戦争になった。
- アルマダの海戦で、スペインの無敵艦隊が敗れる。
- 一行やや不利、奴隷の蜂起(1588:いっこうやや)/スペインの無敵艦隊が敗北
- ★エリザベス1世の物語は映画2作でしっかり理解したい。
- カトリック:スペイン・ポルトガル→イエズス会・ザビエル→キリシタン大名→バテレン追放令(豊臣秀吉)
- プロテスタント:イギリス・オランダ→ウイリアム・アダムス(徳川家康に救われる)→勤労を重視し、布教は行わない→鎖国後もオランダだけは貿易
- 天草四郎は、江戸幕府+オランダの攻撃を受ける
- イギリスは、エリザベス女王のときに「イギリス国教会」という(国王が教皇の上に立つ)新システムを確立した。
- これに反発する新教徒は自由を求めてアメリカ大陸に逃げ、13州の植民地をつくる。
- 13植民地に対するイギリスの横暴に怒った植民地側は、ボストン茶会事件→独立戦争
- 17でなろうことなら独立宣言(1776:17でなろう)/アメリカ独立宣言
- フランス革命後、マリー・アントワネットが兄であるオーストリアのレオポルト2世に助けを求める。この結果、フランス国王をフランス議会から守るため、国王専制の欧州諸国連合軍がフランスに攻め込む。
- 国民国家となったフランス革命政府が勝利。
- 非難爆発、フランス革命(1789:ひなんばく)/フランス革命始まる
- 自由な国を作ろう共和制(1792:じゆうなくに)/フランス第一共和政
- ヨーロッパ全体の君主を意味する「皇帝」は、当時、オーストリア(西ローマ帝国→神聖ローマ皇帝)とロシア(東ローマ帝国→ロシア皇帝)にいた。
- ナポレオンは3人目の皇帝として名乗りを上げ、ヨーロッパ統一を目指した。
- ロシアが勝ち、フランスは王政に戻るが、フランスではその後2度の革命があり、再び共和制に。ロシアで革命が起こるのは日露戦争後。
- 一杯酒を連合軍、戦勝祝いをしたい春(1813:いっぱいさ)/ライプツィヒの戦い(プロイセン・ロシア・オーストリアの連合軍がフランスを破る)
- ★ここは著者の思いが強く表れたセレクション。「外国の侵略から日本を守る」という意志で「日本人の団結を目指す」高杉晋作こそ誇るべき日本人、ということのようだ。
- ロシアを迎え撃つために朝鮮半島と遼東半島を奪取したい→日清戦争(1894)
- 下関条約で割譲した遼東半島を清国に変換することを要求(三国干渉:ロシア・フランス・ドイツ)
- これに対抗するため日英同盟(1902)
- 日本に負け(1905)たロシアの民衆は革命運動を起こす
- 響くは夜更けの旅順港、艦隊沈没、日本海(1904:ひびくはよ)/日露戦争
- ★実は読んでないなんて言えない