Yondaful Days!

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小説⇔ドラマの往復感想(ネタバレあり)~相沢沙呼『medium』×ドラマ『霊媒探偵・城塚翡翠』

もちろん書店で何度も見かけていたし、ミステリとしての評判も聞いていたので、その名は知っていましたが、清原果耶が主演、と聞き、ドラマを見てみよう、それなら小説も読んでおこう!
と思っていたらドラマ初回を迎えてしまいました。

ドラマ初回

そうして見たドラマ初回はとても良く、大満足でした。

  • 霊媒翡翠役の清原果耶が可愛い。ミステリアス、でもドジっ子という漫画のようなキャラクター。
  • 推理作家・香月役の瀬戸康史がカッコいい。グレーテルのかまど、鎌倉殿の13人のトキューサ(北条時房)役からは想像できないほどカッコいい。
  • あれ?目立たずに済むはずの役に何故か小芝風花。なぜ?

一刻も早く小説を読まなくては!と思ったのは、この小芝風花*1が理由。端役に見えるキャラクターを小芝風花が演じているのは後半の展開に大きく絡む人だからに違いない…と、小説を読んでストーリーを追った場合には確実に得られないだろうヒントが与えられてしまったためです。
また、トリック部分の説得力が十分ではなく、モヤモヤが残るというのも、小説で確認したいと思った理由。ドラマ化に際して必要な要素を色々と飛ばしてしまっているのでは?

小説

さて、小説の1話目を読んでみると、ドラマの内容は、かなり原作通りでした。
つまり、トリック部分のマイナスの印象はドラマの通りで、小説でそれを補填できませんでした。
さらに、2話目、3話目と読み進めても、どれもパッとしません。先に読んでいた息子からは、最終話がすごい、という話を聞いていたので、我慢していましたが…

  • そもそも3話ともトリックが弱く、説得力がない。
  • 翡翠さんのキャラクターも、あまりにも「少年漫画の理想の美少女キャラ」みたいな台詞や振る舞いで、(清原果耶が演じたら可愛いだろうと思いつつも)嘘くさい。
  • 香月は、カッコいい瀬戸康史を頭に思い浮かべつつも、翡翠さんに惹かれていく描写が、これまた少年漫画の主人公のようで気持ち悪い。

「男性がマフラーを巻いてくださったのなら、女性は無防備になるかもしれませんよ。その…、こんなふうに、目も閉じちゃうかもしれません。これなら、絞め殺せます?」
翡翠はそう言って、キスでも待つみたいに瞼を閉ざし、微かに顎を上げた。
白い首が、なめらかな丘陵を描いている。
フリルで飾られたブラウスの胸元が、無防備に開いていた。p235


香月と翡翠のイチャイチャ展開、これいる?
これでは、最終話でどんなにすごいどんでん返しがあったとしても、マイナスを払拭できないのでは?うるさ型のミステリファンが納得できるような展開にできるのか?そう思いながら読んでいました。

どんでん返しについて(以下、完全ネタバレしてます)

これはすごい展開!という時にいつも思い浮かべる作品があります。
それは、麻耶雄高の『●●』という作品です。また、エラリー・クインの『●●』も驚いたので、読む前の予想では、「あのライン」なのかな、と思っていました。*2


ところが、今回、それに全く思い当たらないまま「その時」を迎えてしまったので、「香月が犯人」ということが明かされたときは、心の中で歓声をあげ、ガッツポーズをしました。(自分は、「途中で犯人が分かった」ことよりも「ギリギリまで犯人が分からなかった」ことに喜びを覚えるタイプです)
そもそも、最初に書いた通り、ドラマ初回での瀬戸康史(香月)の印象がカッコ良過ぎたので、完全に犯人とは切り分けて考えていました。また、小芝風花の起用の意味がわからなかったので、むしろ彼女が犯人なのでは?という奇妙な予感に嵌まってしまったという部分もあります。
小説の中で「犯人」は、男性の名前付きで登場しますが、それが女性だとしたら仰天するのでは?と思ってしまったことも大きいです。(わざわざ犯人の名前は香月さんのアナグラム(のアレンジ)という親切設計だったにもかかわらず…)


ということで、自分はまんまと騙されたのですが、普通の人には早いタイミングで「香月が犯人だろう」と思わせるようなつくりになっていました。
したがって、香月が犯人であることが分かった直後に、「あ、これは当初に想定していた麻耶雄高作品、クイーン作品と似たタイプの作品だったじゃないか。」と思うと同時に「ただ、それだけでは1~3話目までのマイナスは払拭されないのでは?」と思ったのでした。


ところが、「香月が犯人」という、いわば「見せパン」のあとに、真のどんでん返しが決まる、という二段構えが『medium』の真骨頂です。
ただし、この二段構え部分も厳密には二つの要素に分けられます。
一つ目は、3件の事件の「解き直し」です。1~3話のトリックが緩かった理由がこれですが、連作短編で小説での「解き直し」展開は、少し前に読んだことがありました。*3

その時も感じましたが、「解き直し」展開は、2通りの解法を用意している分、全体的に制約条件が緩く、2つ目は最初よりも納得感がありますが、3つ目、4つ目の解法が出てもおかしくない状態で事件が解決してしまう点で不満が残ります。


ということで、「解き直し」という反転が、どんでん返しの1つ目の要素になりますが、決め手に欠けます。
この小説の一番の魅力は、どんでん返しのもう1つの要素、「展開の反転」と並行して起きる「登場人物の反転」、つまり翡翠さんの「キャラ変」に違いありません。

「全部、芝居だったのか……」
「そうですよう。あんな、友達いないアピールをするうざいメンヘラ女子なんて、この世に存在するわけないじゃないですか。いや、いるかもしれないですけれど、わたしみたいに可愛くて綺麗な子がぼっちのはずないでしょう?」
ちろり、と舌を出して彼女は笑った。p419

「ああ、わたしが、先生におっぱいを見せてあげたときですね」両手を上げて、ひらひらと五指を動かしながら、翡翠が笑う。「慎ましい方かもしれませんけど、魅力的でしたでしょう?」
「あれすら、計算か…」
「当たり前ですよ。奇術師というものは、無駄な動きなんてなに一つとりません。あんなあざとい女性がいたら、演技をしていると真っ先に疑うべきですよ。人間が書けてなさすぎます」p422


この展開は、3話目までで感じていた不満点を大きく解消し、窮鼠猫を噛むどころか窮鼠が獅子に変化するくらいの立場の逆転に爽快感があります。
そして何より、この展開をドラマで見られるのは楽しみすぎです。
この展開を考えたとき、この役は浜辺美波が良いのではないか、とも思いましたが、『賭ケグルイ』等、同じタイプでインパクトのある役を既にやっており、何よりかわい子ぶりっ子があざとすぎるので、清原果耶という人選がベストな気がします。

一方で、過去回の「解き直し」の映像化は、ドラマとしては冗長で、見せ方が非常に難しい気もします。過去エピソードの振り返りも含めて「解き直し」をどう見せるか。そもそも、この最終話を何回にまたがって放送するのか。このあたりが今回のドラマで一番気になる部分です。


そもそも、2話までは1話1回で話が進んでいるので、『medium』だけでは、1クールを終えることができません。ということは、続編の『invert』も入って来るのでしょうか。
ここまで考えると、『invert』以降で、小芝風花の活躍する話が出てくるのかもしれない、と思って、これまた急いで『invert』を読むしかない、と書店に走るのでした。

*1:映画『貞子DX』が10/28に公開となりました。観に行こうかどうか迷い中。

*2:いわゆる「流れ弾」によるネタバレを防ぐため、作品名は伏せます。

*3:おそらく近年のメフィスト賞受賞作で、ブログに感想も載せた作品です。目星はついているのですが、このブログ記事では、ミステリの感想でネタばらしを避けるようにしていることが多く、あとで読み返しても結局思い出せないパターンが多いのです…。